50件の性暴力と滴滴の業務改革

 5月19日に滴滴出行がわずか1週間で業務改善を行ったとして順瘋車の営業を再開したことを受けて、広東省の週刊紙「南方週末」は5月24日号で「50件の“性侵犯(性暴力)”事例と滴滴の業務改革」と題する記事を報じた。その概要は以下の通り。

【1】過去4年間にメディアが報じたり、関係部門が処理した滴滴出行の運転手による性暴力やセクハラ事件は少なくとも50件あり、ほぼ毎月起こっている。50件のうち、“故意殺人事件”は2件、強姦事件は19件、強制猥褻事件は9件、行政処罰事件は5件で、まだ立件されていないセクハラ事件が15件であった。犯罪行為を行った運転手は50人で、被害者は53人で全て女性であり、そのうち7人は性暴力を受けた時には酩酊状態にあった。

【2】事件を起こした運転手50人の年齢は、年齢が公開された21人のうちで、最高が40歳、最小は22歳であった。また、53人の被害者の年齢は、年齢が公表された22人のうちで、最高が33歳、最小は16歳だった。50人の運転手のうち、少なくとも3人は人身の安全に危険を及ぼす前科が有ったが、“三証験真(身分証明書、運転免許証、車検証が本物かどうかの検査)”をパスしていた。これら運転手の学歴は、学歴が公表された10人のうちで、中学卒業が3人、高校卒業が7人で、総じて高学歴ではなかった。

【3】2018年5月12日から滴滴出行は史上最大の業務改善を行ったというが、5月19日に順風車の営業を再開してからも“咸猪手(広東語の「痴漢」)”の魔の手は依然として女性乗客に伸びているのが実情である。5月5日にスチュワーデスの李明珠を殺害した劉振華は、以前運転免許を取り消され、新たに免許証を取得してから1年未満だった。これだと運転歴が1年以上という基準を満たさず、順風車の運転手にはなれないはずであったが、劉振華は父親の運転免許証を使って“三証験真”と“人臉識別(顔認識)”をパスしていた。順風車は予約を受けて出発する前に運転手の顔認識を行う決まりだが、本人が顔認識を行った後で、別人と入れ替わることも可能である。順風車の運転手をやっている人物によれば、顔認識が採用されてからは、犯罪のコストは高くなり、順風車の危険性は相対的に減少したという。しかし、性的変質者は少なからずいるので、順風車の犯罪を根絶する方法はないのが実情である。

 8月24日に乗客の趙培晨が順風車の運転手である鍾元によって殺害されるという強姦殺人事件が発生したことを受けて、滴滴出行は順風車の営業を停止した。自家用車を所有し、運転免許を持つ庶民を相乗りタクシーの運転手に起用するという発想は、中国のシェアリング・エコノミーを牽引する画期的なものだったが、皮肉なことに、性的変質者に性欲を満たす格好の場を与える結果となったのだった。

 なお、8月27日、“楽清市人民検察院”は趙培晨殺害の容疑者である鍾元に対し、強奪罪、強姦罪、故意殺⼈罪による逮捕を承認した。今後、滴滴出行は順風車の営業を再開するかどうかは分からないが、性犯罪を防止する抜本的な対策が打ち出せないのであれば、順風車は廃止を余儀なくされるだろう。企業が信用を失っては、たとえそれが便利なものであったとしても、ビジネスは成り立たないし、社会がそれを許さないはずだからである。

(文/北村 豊=中国観測家)

順風車は中国のシェアリング・エコノミーを牽引する画期的なものだったが……(写真はイメージ、PIXTA)
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