自分のショップや会社のために商品を買い付けるのが通例のバイヤー業において、“お店を持たない”フリーランスのバイヤーとして全国を縦横無尽に駆け回る山田遊氏。国立新美術館のミュージアムショップや「Tokyo's Tokyo」「once A month」をはじめ、多くの人気セレクトショップのバイヤーを請け負ってきた。TREND EXPO TOKYO 2016に登壇する山田氏にモノを売るための方法論を聞いた。

山田 遊(やまだ・ゆう)氏<br>メソッド 代表取締役
山田 遊(やまだ・ゆう)氏
メソッド 代表取締役
バイヤー、監修者。東京都出身。南青山のIDEE SHOPのバイヤーを経て、2007年、method(メソッド)を立ち上げ、フリーランスのバイヤーとして活動を始める。現在、メソッド代表取締役。2013年「別冊Discover Japan 暮らしの専門店」が、エイ出版社より発売。2014年「デザインとセンスで売れる ショップ成功のメソッド」誠文堂新光社より発売
山田遊氏が手がけたセレクトショップ「SOUVENIR FROM TOKYO」(左)と「Tokyo's Tokyo」

「センスというものには昔も今も自信がありません」

――この夏は山田さんがプロデュースされた花火のセレクトショップ「fireworks」が企画する「小さな花火大会」で大忙しだったそうですね。これはどんなイベントでしょう?

山田遊氏(以下、山田): お申し込みいただいた店舗や会場に我々が出向いて、近所のみなさんに集まっていただき、fireworksの手持ち花火で遊ぶイベントです。今年は申し込みが過去最高で、全国20カ所以上の会場で開催しました。

――こうした「お客さんにとってうれしいこと」をどうやって見つけるのですか?

山田: 「お客さんになりきってみよう」というのを頭の中でよくやります。例えば店の内装を決めるときは、女性の視線の高さで中腰になって眺めたり、自分がおばあちゃんだったら、こういうモノも面白いんじゃないかなあと気持ちを想像してみたり。花火もそうです。「子どものとき、たくさん買ってしまって、最後はまとめて燃やしていたな」「子どもだったらあんなパック売り、欲しくないよな」「やりたい花火だけ欲しいよな」といった1個1個の記憶とか、他の消費者もそうだったに違いないという感覚を積み上げていきます(※1)。

※1 fireworksのコンセプトは手持ち花火のバラ売り。セット売りではかなわない、欲しい花火を欲しいだけ購入できる。


――バイヤーというと「センス」が肝要なイメージがあります。山田さんはどうやって培われたのでしょうか。

山田: センスというものには昔も今も自信がありません。バイヤーは芸術家ではなくてビジネスパーソンなので、感覚的な部分よりも、経験や知識の積み重ねこそが大事だと思っています。前職ではまったく経験がないのに、いろんな仕事を投げられて、それを全部自分でやらなくてはいけなかったので、経験値を濃密に稼げたのがよかったのかもしれません。

――バイイングしたくなるような強力な商品は、どこで見つけられるのですか?

山田: 普通バイヤーさんは合同展示会やメーカーさんとの商談、ネットでモノを見つけることが多いと思いますが、みんなと同じツールで探していたら、結局はみんなと同じモノしか見つけられません。僕は5年くらい前、ある老舗のお店さんと仕事をしたときに、「もっとモノを作る上流に行かないと、いいモノや新しいモノが見つけられない」と気づきました。以来、産地を回って買い付けをすることも多くなりました。

「最後の一手がスピーディに出せるようになりました」

――“フリーランス”のバイヤーとは、非常に特殊なお仕事ですね。

山田: そうですね。今は情報こそが力です。僕が実際に動いてみて肌感覚でつかんだ小売りの状況は、クライアントさんにいい形でフィードバックしています。これだけ毎日情報がリリースされていますが、実際のところ会社の中にいるだけでは、今、起きていることはあまりつかめません。とはいえクライアントさんも精度の高い情報のインプットを欲しています。だから僕のような、現場を走り回っている雇われのバイヤーがやっていけるのかもしれません。

――たくさんのものの中から、将来ヒットする商品を見分ける「コツ」はありますか?

山田: どうなんですかね……。僕は長くショップのバイヤーをやってきて、失敗することもすごく多かったんです。輸入した商品がまったく売れなくて、自分で店頭に立って気合で売ったこともありますし(笑)。そういう経験をしながら、精度をみがいてきたんです。お店を経営している友人がよく「在庫は勲章だ」と言うんですけど、本当にそうだと思います。敗北の積み重ねが在庫になり、その在庫があるからこそ売れるモノが見えてくる。

――ヒットを生み出す精度が上がってくると。

山田: そうです。例えば「全部売れる商品だけで店を作ってくれ」と依頼を受けたとして、世の中で売れている商品だけを集めてお店をオープンしても、どうしても売れるモノと売れないモノが出てきます。当たり前なんですよ。お店のロケーションとかお客さんの層、そのお店の主要価格帯でも全然変わってきますし、棚のどこにあるか、スタッフの接客でも全然違ってきます。

 じゃあ売れない商品をどう使うか。どうしても売れない商品が出てきてしまうなら、お店の存在価値を高められる商品をその枠に置く、とか。売ることよりも売れないことに注力すると見えてくるものもあるんです。

――人はどういうときに購買意欲を起こすと思いますか?

山田: 今は例えばひとつの商業施設を見たとき、あちこちのお店で同じ商品が売られているということが多々ありますよね。そんな中でお客さんが、どこでその商品を買うのかというと、「自分が買いたいお店」で買っている。つまり、「もの」じゃなくて、売り方まで含めた「こと」で人は購買意欲を起こしていると思います。他所にはない商品をもってくるというのも非常に大事だけれども、同じような商品でも、見せ方とか売り方、置き方、説明の仕方とかトータルで、それを取り巻く環境でいくらでも違って見せられる可能性があるのではないでしょうか。

――今は「モノが売れない時代」と言われます。そんな中で打開策は?

山田: 総合性とか、多様性が大事になってきていると思います。モノが売れていた時代は、セグメントして、購買層のターゲットを絞って……というのが一般的なマーケティングでした。ヒルズ族ならこんな車に乗って、こんなものを食べて、こんなソファを使ってというふうに……。

 でも今は価値観がちょっとミックスされた人が多い。昔ならマックが好きな人はファストフードだけ、高級レストランが好きな人は高級店だけといったセグメントでしたが、人間、マックフライドポテトが食べたいときもあれば、高級イタリアンを食べたいときもあるよね、と。その気持ちにどんどん素直に行動するようになっているのかなと思います。そこを見越した店づくりをすれば、マックに行く人も高級店に行く人も総取りできるのかなと。

――しかし、セグメントできない分、より一層、品ぞろえが難しくなるのでは?

山田: それはやはり難しいですけど、僕の場合は経験のうえで感じているというものが大きいかもしれませんね。例えば「SOUVENIR FROM TOKYO」というセレクトショップは、Tokyoといいながら地方の商品も置いています。東京生まれの僕がいいと言っているんだからいいと割り切って、世界中のTokyo的なものを集めました。この感じは非常に感覚的に見えるかもしれませんが、でも、遡って考えるとロジックがあるんです。

――将棋のプロがそうだといいますね。経験もロジックもたくさん持っているんだけれども、最後の一手をどう打つかというのはひらめきのカンみたいなものだと。

山田: 近いと思います。『三月のライオン』(注・羽海野チカ原作の将棋漫画)を僕、愛読してますから(笑)。昔はすごく時間をかけて考えないと最後の一手は出せなかったけれど、修行を繰り返すことで、これまでの経験や知識を掛け合わせたり、展開させたりといった最後の一手がスピーディに出せるようになりました。

――今後、やってみたいことは?

山田: これからのお客さんは、人とのつながりの実感を今以上に求めてくると思います。モノを作って売ってお客さんとの会話をしっかり結ぶといった、一対一の積み重ねをもっと追求していきたいですね。大企業とパイの取り合いをしても僕らはリアルじゃ勝てません。でも、モノがお客さんに手渡されていく過程を大事にしていくことで、「なんだか面白そうだね」とか、「わざわざ遠くから買いにきたよ」とか、大企業の売り方に負けない仕組みがもっともっと作り出せると思います。

(構成/宮坂敦子、写真/シバタススム)

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