前回は同社の「埼玉サービスセンター」にパソコンを持ち込んでの即日修理をレポートしたが、実は持ち込み以外の修理も96時間以内に完了し出荷する体制を整えている。なぜ、同社ではこれほど迅速な修理が可能なのか? 今回は、埼玉サービスセンターを取材し、その秘密に迫ってみた。

 マウスコンピューターが96時間での修理完了サービスを本格的に開始したのが2016年7月。96時間というのは埼玉サービスセンターに入庫してから修理して出荷するまでの時間で、往復の配送の時間を入れてもほぼ1週間以内にユーザーの手元に戻ってくるという計算になる。

 さらに同社では、もっと時間を短縮させた平均72時間での修理完了サービスの開始を次の目標にしているという。これほどまでに迅速な修理の秘密を、マウスコンピューター埼玉サービスセンターの佐藤謙センター長と小沼孝幸マネージャーに聞いた。

今回は、マウスコンピューター 埼玉サービスセンターの佐藤謙センター長(左)と、小沼孝幸マネージャー(右)に話を聞いた
今回は、マウスコンピューター 埼玉サービスセンターの佐藤謙センター長(左)と、小沼孝幸マネージャー(右)に話を聞いた

ユーザーの声を受けて修理期間の短縮に挑む

 佐藤センター長は、現在、埼玉サービスセンターと沖縄コールセンターのセンター長を兼任する。埼玉サービスセンター長就任以前から、沖縄でコールセンターのセンター長を務めていたのだが、そこに寄せられるユーザーの要望で多かったのが、修理期間に関することだった。「もっと早く修理できないのか」という声が特に目立ったという。

 埼玉サービスセンター長に就任する直前の2015年、修理して出荷するまでの平均時間は約180時間だった。ほかのメーカーと比べると速いほうではあったのだが、それでも期間短縮の声が多く寄せられていたことから「コールセンターとしては、体制を何とか見直して迅速な修理を実現して欲しいという思いがあった」と佐藤センター長は当時を振り返る。

 埼玉サービスセンター長に就任したのが2016年4月。ユーザーの声をダイレクトに受けていた佐藤センター長にとっては、修理期間の短縮は喫緊の課題であった。佐藤センター長は早速、96時間での修理完了サービスの実現へと乗り出す。

埼玉県春日部市にある埼玉サービスセンター。マウスコンピューターの製品は、ほぼすべてここで修理される
埼玉県春日部市にある埼玉サービスセンター。マウスコンピューターの製品は、ほぼすべてここで修理される

修理工程の見える化で作業時間を短縮

 96時間での修理完了を実現するために、まずセンターに滞留している修理品の数を減らすことから始めたという。センター長に就任する3カ月前から小沼マネージャーと連絡をとり「最初は残業などの無理が生じることも覚悟してもらい、とにかく少しでも滞留している修理品の数を減らすことに努めてもらった」と語る。その成果もあり、センター長として就任した2016年4月には、滞留している修理品の数は、96時間修理完了サービスを十分に実施できるレベルまで減っていた。

 センター長に就任して最初に取り組んだのは、修理工程全体の見える化だった。埼玉サービスセンターでは、「入荷・検品」「診断」「修理」「クオリティコントロール(出荷前チェック)」「出荷」というセクションがあるが、96時間の修理を実現するために各セクションごとに作業の目標時間を設け、さらに、各セクションで費やしている時間などを細かく一覧にした。

 これにより、各セクションのリーダーを集めた会議で、明らかに時間がかかっている作業の原因を特定、対処することが可能となった。例えば、スタッフが休んだり、新人のトレーニングで作業に時間がかかっているなら、人員の不足しているセクションに他セクションからフレキシブルに人員を回す体制を整備した。また、診断の難しい修理品があり作業時間が増えた例も多く見受けられたので、難しい修理品があった場合は、すぐに高い技術力のあるスタッフに相談することを徹底させた。

 こうして、作業を遅らせている原因を一つずつ突き止め対処していった結果、何と1カ月で1台あたりの平均作業時間を前年実績の180時間から97時間まで短縮することに成功した。

 これは快挙といってもよいことだが、佐藤センター長は、96時間の目標を達成していないので、手放しで社員を評価することはしなかったという。努力は認めており感謝もしていたのだが、中途半端な達成感で向上心を失ってほしくなかったのだ。だから、目標は未達なので、より努力するよう促したという。ただ「少し厳しすぎるかな」という思いもあったと振り返る。

 しかし「自分たちの努力の成果が数字になって表れたことで、現場の雰囲気は明らかに変わった」と小沼マネージャーは語る。今までは先の見えない作業を延々と続けている状態だったが、目標が明確になったことで、社員1人1人が目標達成に向けて何をどうすればよいのかという、問題意識を持つようになった。迅速な修理のためにセクション間で密に連携するようにもなり、ときにはぶつかり合いながらも、一つの目標に向かって全員が邁進するようになった。

 こうした社員の意識改革もあり、就任最初の年で、無償・有償合わせて平均87時間での修理完了を実現した。この段階で、佐藤センター長は作業時間をより短縮できることを確信し、内部目標を無償・有償修理合わせて平均72時間に設定したという。

修理品はまず入荷セクションで検品され、修理品のデータベースへ登録される
修理品はまず入荷セクションで検品され、修理品のデータベースへ登録される
登録が終わった製品は診断セクションで、ユーザーから申告されたトラブルが再現される。また、そのほかに異常がないかもくまなくチェックされる
登録が終わった製品は診断セクションで、ユーザーから申告されたトラブルが再現される。また、そのほかに異常がないかもくまなくチェックされる
修理内容が確定したら、いよいよ修理がスタート
修理内容が確定したら、いよいよ修理がスタート
修理が完了したら、クオリティコントロールセクションで修理ミスがないかなど詳細にチェック
修理が完了したら、クオリティコントロールセクションで修理ミスがないかなど詳細にチェック
クオリティコントロールをパスした製品は、必要に応じてクリーニングが施され、梱包されたあと出荷される
クオリティコントロールをパスした製品は、必要に応じてクリーニングが施され、梱包されたあと出荷される

作業品質も向上させる

 修理が速くなっても、作業品質が低下しては意味がない。修理時間を短縮するとともに、出荷後に修理不十分で戻ってくる再入荷数をいかに少なくするかも重要な課題だ。

 作業品質の向上については、まず、個々のスタッフの作業速度とミス発生率を数値化することで問題を明確にして対処していった。

 例えば診断セクションにミスの多いスタッフがいた場合、なぜミスが多いのか問題を探る。その結果、スキルが足りず故障の原因をうまく突き止められなかったとしたら、トレーニングを積み重ねることで診断ミスを減らしていく。

 また、トラブルの原因を特定するフローチャート図を作成。コールセンターと共有することで、埼玉サービスセンターの入荷前にトラブルの要因を明確にできるようにした。この結果、より的確に修理できるようになり、再入荷率は減少した。

 現在、埼玉サービスセンターとコールセンターでは、ユーザーの声や障害情報など多くの情報を共有している。例えば、埼玉サービスセンターで発見したファームウエアの不具合などをコールセンターにいち早く伝えておけば、コールセンターで修理依頼を受けた段階で、トラブルの原因を特定できる。

 修理品質の向上では、クオリティコントロールセクションで徹底した最終検査を実施していることも大きい。「96時間修理を実施しているとはいえ、大切なのは納期よりも品質。最終検査で基準に満たないものは出荷をストップするのが前提」と小沼マネージャーは語る。

 クオリティコントロールセクションではハードやソフトの動作、外観などの35項目をチェックし、ユーザーから申告があった不具合以外にも問題点が見つかれば、再度診断セクションに戻される。

 こうした努力もあり、再入荷率は減少の一途をたどっているという。

クオリティコントロールセクションでは出荷前チェックが徹底して行われる。1つでもクリアできていない項目があった場合、出荷されることはない
クオリティコントロールセクションでは出荷前チェックが徹底して行われる。1つでもクリアできていない項目があった場合、出荷されることはない
埼玉サービスセンターには、発売された製品に問題がないかなどもチェックする技術グループもある。ここで発見された不具合は社長を含め全社に一斉配信される。問題を早期に発見するシステムが整っている点がマウスコンピューターのすごいところだ
埼玉サービスセンターには、発売された製品に問題がないかなどもチェックする技術グループもある。ここで発見された不具合は社長を含め全社に一斉配信される。問題を早期に発見するシステムが整っている点がマウスコンピューターのすごいところだ

より良いサービスの提供を目指して

 ユーザーとしては修理に出した製品が少しでも早く手元に戻ってきてほしいものだ。そうした気持ちを汲んで、埼玉サービスセンターでは、即日出荷の割合をできるだけ増やしている。

 修理内容が、メモリーやSSDなどの簡単な部品交換で済む場合は、作業指示書に「即」と印字され、その日のうちに修理を完了し出荷される。

 2015年には即日出荷の割合はわずかだったが、修理工程全体の見える化に取り組んだ結果、様々な問題点を解消でき、現在では15%を達成している。

 さらにユニークなのが「部品発送サービス」だ。これは、不具合の原因が特定のパーツだった場合、そのパーツを発送してユーザー自身で交換してもらうというもの。自分でパーツを交換できるスキルを持ったユーザーからは、修理に出す手間が省けると好評だという。

即日修理ができるものは、「即」と記され、入荷当日に修理が行われる
即日修理ができるものは、「即」と記され、入荷当日に修理が行われる

平均72時間での修理完了サービスを次の目標に

 埼玉サービスセンターの次の目標は、平均72時間の修理完了サービスを開始すること。2018年8月時点での平均修理時間は約80時間。現在はスタッフを増員し、営業日を拡張したこともあり72時間の目標をほぼ達成している。今後はこの体制を盤石にし、72時間修理完了サービスをスタートさせたいという。

 埼玉サービスセンターでは、人員トレーニングにも余念がない。これまでは「スキルが高いスタッフは診断セクション」というように割り振っていたが、ローテーションでセクションを移動するようにした。これにより全体のスキルが向上しただけでなく、スタッフの多能工化も実現。例えば、病欠などで人員が不足したセクションに、現場の判断でフレキシブルに人員を配置できるようになり、特定のセクションで作業が滞ることがなくなったという。

 ユーザーへの連絡の迅速化にも取り組んでいる。有償修理の場合はユーザーへの見積もり提示が必要となるし、無償修理でもデータを消去する必要が生じた場合などにユーザーに連絡しなくてはいけない。このユーザーとの連絡に時間がかかり、修理に遅れが生じる事例が多かったという。

 そのため、同社では電話のほか、SMS、メール、LINEなど複数の連絡方法を用意して、状況に応じてユーザーに連絡をとり、時間の短縮に取り組んでいる。ちなみに、LINEサービスでは修理製品を登録しておけば、修理の状況を逐一確認できる。

 自社による国内生産や24時間365日電話サポートなど「生産からサポート・修理まで、一貫して自社で真面目に取り組む品質の高さこそマウスコンピューター製品の魅力」と佐藤センター長は語る。その魅力を維持するためには埼玉サービスセンターの役割は非常に大きい。

(文/滝 伸次)

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