軽量化と同時に打ち心地の改善を追求

 開発陣はキーボードの軽量化と同時に、入力の快適さを向上させることにも取り組んだ。軽量化が実現できても、キーボード入力の使いやすさや打ち心地の良さを損なってしまっては本末転倒となるからだ。

 文字を入力するとき、人間はどのタイミングで入力したと認識するのだろう。多くの人は頭の中でキーストロークの底に着いたタイミングで入力されたと考えているだろう。機械的な設計の本格的なキーボードであれば、それで感覚のズレはない。しかし、モバイルPCなどで採用されている「メンブレンラバースイッチ構造」では、キーストロークの底に着いて、キーが戻り始めてから文字が入力される。この微妙なズレが打鍵感の違和感を生み出す。しっかりとキーをたたいて打ち抜くようにしないと、文字が入力されないことも多い。そのため、キータッチが軽く、軽快に入力するユーザーほど「入力抜け」「打鍵感のズレ」といった違和感を持つことになる。

 UHシリーズの第二世代に採用されたキーボードユニットではその課題を解決。文字が入力されるタイミングをキーストロークの底へ着く前に設定し、ユーザーがキーボードを押したと感じるタイミングに合わせた仕組みに改良されている。

 そして第三世代となるUH-Xでは、文字が入力されるタイミングを第二世代よりもさらに約10%早いタイミングに設定することに成功した。0.1秒にも満たないわずかな違いではあるが、実際に文字を入力して比較してみると違いが表れる。

第二世代のLIFEBOOK UHで実現した確実に入力できるキーボードの説明図(富士通のウェブサイトより)。文字が入力されるタイミングをキーの押し始め(ピーク)から底(ボトム)に到達するまでの間に設定することで入力抜けを減らすことに成功。第三世代のUH-Xでは検出位置をさらに10%早くチューニングしている

 また、文字が入力されるタイミングを早くしたことで、キーストロークの浅い段階で入力信号をキャッチできるようになり、キーを押し切れず入力抜けになってしまうといったケースを抑える効果も期待できる。軽いキータッチでスピーディーにタイプするユーザーが快適に入力できるというわけだ。

 最後に残された開発工程が試作したキーボードを使って、実際に文字を入力して打鍵感を確認する作業だ。キーボード開発陣は、製造を担当する富士通コンポーネントのマレーシア工場まで出向き、現地でキーボードの打鍵感をチェックしたという。

 「通常は試作したキーボードを日本へ送ってもらい、それをテストして、その結果をフィードバックしていくのですが、今回はその時間がありませんでした。そのため、マレーシア工場で、打鍵感のチェックをしました」(藤川さん)

 開発当初、ネジの見直しにつまずいたことでロスした約2カ月の時間が、ここへきて開発陣に重くのしかかる。

 「実は5月の時点で通常のスケジュールでは開発が間に合わないことはわかっていました。ですから、マレーシア工場でのテストは覚悟していたのですが……。テストのときは本体にキーボードユニットを何度も何度も付け替えるのですが、その作業がつらかったですね(苦笑)」(藤川さん)

 開発陣は3日で約40パターンものキーボードの試し打ちをこなし最終的なゴーサインを出す。本来は間に合わなかった開発スケジュールを乗り切り、9月末にUH-Xのキーボードはようやく完成する。

マレーシア工場で開発陣が打鍵感をテストした試作キーボードユニット。3日間テストをして最終的なチューニングを行った
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 極限まで軽量化を実現し、さらに心地よい打鍵感を追求した本製品のキーボードユニットは、モバイルPCにとって、究極のキーボードと言える逸品に仕上がったという。しかし、藤川さんはこれでも満足しているわけではないようだ。

 「理想の打鍵感とは、もっと心地よいタイミングがあるのでは、といったことを追求していくことが、結果的にキーボードの重量を軽くすることになり静音性のアップなどにもつながっていきました。キーボードユニットにはまだ進化の余地がありますね」(藤川さん)

 ミスターキーボードとそれを支えるスペシャリストたちのあくなき挑戦は続く。

(文/後藤 宏)