ちょっと怖いラブレター

小口: 閉店の張り紙を広告と考えたことはなかったですが、街のウォッチャーだったんですね。

尾上: 学生時代、宝島のVOW(※)とか好きで。ああいうものが気になっちゃう。今はSNSで全人類が、総VOW化してるじゃないですか。

※VOW 雑誌「宝島」の投稿コーナー。街で見かけたヘンな看板などが投稿され、書籍化された。

小口: 投稿って昔は一部の人の趣味だったのが、SNSでほとんどの人が投稿するようになった。

尾上: みんなが常に面白いものを探しているような世の中になっている。アパレルブランドのディーゼル(DIESEL)が2018年カンヌで賞を取ったんですが、米国のマンハッタンにあるパチモノがよく売られているキャナル・ストリートに、「デイゼル(DEISEL)」って偽物の店を出したんです。店員には「本物です」って言わせるんですが、誰も信じない。

小口: そりゃそうです(笑)。

尾上: ところが、ファッションウィークでディーゼルが公式に(デイゼルはわれわれのショップだと)発表した途端、人が殺到して、「公式の偽物」をがんがん買っていった。バカにしているんですよね、人のことを。お前ら最初は偽物だと思って買わなかったのに、本物と分かったら買うんだ。本物ってなんなんだ、と。

小口: 実にアートっぽいですね。

尾上: そういうみんなが発見して面白いと言えるようなものは、広告ではないかもしれない。基本、広告って押すものですからね。あんばいがなかなか難しい。

小口: 尾上さんの手がける広告は、手紙に近いですね。

尾上: そうですね。手紙は効くんです。うまくいったのは、「どん二郎」のサイトです。

小口: 一応説明すると、「どん二郎」とは、「どん兵衛」に牛脂や野菜、ニンニクなどを入れて「ラーメン二郎」風にするもので、ネット上で拡散しました。

尾上: 「乗っかるしかないな」と思ったんですけど、また(「10分どん兵衛」のように)謝っても面白くないんで、今度は持ち上げようと思って、ラーメン二郎に対してどん兵衛がラブレターを書く形式にしました。女の子が書いたようなファンシーな手紙なんですが、よく読むと怖い。

【意識低いポイント】「『乗っかるしかないな』と思ったんですけど、また謝っても面白くないんで、今度は持ち上げようと思って…」
流行りに乗っかることで楽に成果を上げられる可能性がある。しかし、同じパターンでは飽きられるので、ちょっと変えていく工夫。広告だけでなく商品開発でも使えそうな発想です。


小口: 思春期の女子が書きそうな文面です(笑)。

尾上: これも、どん兵衛のサイトにそっと置いておいて、何日かたってからツイートしようと考えていたのですが、その前に何者かが見つけてネットに広めちゃった。

小口: 発見される率が高い。

尾上: どん兵衛のときに思ったのは、広告はみんなに対して何かを言うものですけど、普通じゃない人が、特定の一人に対して告げているもののほうが面白い可能性がある。例えば「テラスハウス」みたいな番組で、誰かが告白するその瞬間にグッとくる。別に自分に言われているわけでもないのに、共感しますよね。広告もみんなに向けなくてもいいんじゃないかなと。
 このときに参考にしたのは、「マツコの知らない世界」なんです。あの番組は、あるジャンルに異様に詳しい人がマツコに教えるのを、みんなが見て面白いという構造です。「どん二郎」のときも、二郎関係者じゃないと書けないような異様に詳しいネタを入れたんです。社内にラーメン二郎を題材に論文を書いて卒業した人間がいて、そいつをアサインして話を聞きながら一緒に作りました。

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どん兵衛が書いたラブレター(画像提供/日清食品)

小口: SNSなんかでも、自己承認欲求で書く投稿よりも、好きな子に書くDMとかのほうが痛いかもしれないけど面白い。そうした特定の個人への指向性が広告でも面白いというわけですね。

尾上: そのほうキャラクター性が出ますからね。これも、2018年のカンヌで賞を取ったバーガーキングの事例なんですが、バーガーキングの投稿に毎回コメントつけてくるサリバンさんというおじさんがいて、その人を一番のファンと仮定し、バーガーキングはサリバンさん専用の店を作ったんです。専用席とか専用駐車場、専用ハンバーガーとかいろいろ作って、一人をもてなす映像を公開して、大きな話題を呼びました。

小口: これですね。言葉は全然分かりませんが。

小口: 無名でもエッジの効いた人は面白い。いや、無名だからこそ面白いのかもしれません。

尾上: 常にSNSに書くネタを探している人は多いので、話題にしたくなるようなものは喜ばれるんですね。