IT技術の進歩に伴い、あらゆる分野で機械化や自動化が進み、エンターテインメント業界に限らず、さまざまなビジネスにおいても“クリエイティブ”な発想や仕事が求められる時代になった。

 だが、この「クリエイティブ」という言葉……、あちこちで耳にするものの、いまいちピンと来ない人も多いのではないだろうか。直訳すれば、「創造的な」とか「独創的な」という意味だが、果たして、クリエイティブな仕事とはどういうものなのか?

 なんとなく横文字で表記されると、「常人にはできない仕事=クリエイティブ(創造的)なもの」のように思えるが、かつて映画監督・黒澤明は、「創造とは何か?」についてこう明言していた。

 「創造とは、“記憶”である」

 この言葉について、映画監督・大島渚と対談した貴重な映像の中で、黒澤は以下のように語っている。

 「今の人たち(筆者注:若い映画監督ら)は基本的に本を読んでない。純文学なんかをちゃんと読んでる人はいないんじゃないですか。それはやっぱり、ある程度は読んでおかないとね。何もないところから出てこないよ。だから僕はよく『創造というのは、記憶である』というふうに言うんだけど、本当にそう思いますよ。その中から出てくるんで、何もないところに何かが生まれて来やしないって。実生活の中でも、何かいろんな経験があるわけよね。その何かがなきゃ創造は出来ないでしょう」(記録映像『わが映画人生 黒澤明』/日本映画監督協会)

 「クリエイティブ(創造的)」なことといえば、「全く新しいもの」というイメージがあるが、“世界のクロサワ”はむしろ「過去のもの(経験や学びという蓄積)」から生まれてくると断言していた。決して「無から有」が生まれるわけではなく、「有から有」しか生まれないのだと喝破していたのである。

 以前のコラム(企画は思いつくもの? いや“組み合わせ”で生まれる)の中で、「どうしたら、新しいアイデアが思いつくのか?」という問いに対して、私は以下の言葉を紹介した。

 「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」(『アイデアのつくり方』ジェームス・W・ヤング著/阪急コミュニケーションズ)

 アイデアの元となる材料は、すでに世の中に存在している。重要なのは、それらを新たに組み合わせること。そうした組み合わせの新たなパターンを見つけるには、まずは何より多くの材料を知らなければならない。つまり、さまざまな経験や先人の仕事を知る・学ぶという蓄積がなければ、クリエイティブな仕事は始まらないのだ。

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