ウソか本当か分からない“都市伝説”として、こんな話を耳にしたことがある。

 「日本で活動しているCIAの仕事の大半は、雑誌や新聞、テレビなど巷にあふれるメディア情報の収集と分析。世に出ている、そうした情報の裏を読み解くこと」

 映画やドラマで見るCIA職員といえば、危険を伴うスパイ活動や重大な機密情報を扱っているイメージだ。しかし、日常的な任務は世にあふれる情報をかき集め、そこから物事の背景や人々の思惑を的確に読み取る“地味な仕事”だという。

 あくまで都市伝説なので、信じるか信じないかはアナタ次第だ。だが、なぜ真偽不明な話を紹介したかというと、ここで言及されている内容(地味なリサーチと分析)には“いい仕事をするためのヒント”が隠されていると思うからだ。

 地道なリサーチが、いい仕事をする上でいかに重要か。そのことを示す模範例がある。以前、私は『三省堂国語辞典』を編纂した“戦後最大の辞書編纂者”見坊豪紀(けんぼう・ひでとし)に関する番組を制作し、のちに書籍化された。

(『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』佐々木健一著/文藝春秋)
(『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』佐々木健一著/文藝春秋)

 見坊豪紀は、辞書作りのために生涯で「145万例」という、人類史上でも類のない桁外れの用例を一人で集めた人物として知られている。取材の際、ご子息の見坊行雄さんがこんな話をしてくれた。

 「ウチの親父は、朝から晩までひたすら“用例採集”をしていましたが、そのことを“勉強”と呼んでいました」

 毎日、休むことなく新聞や雑誌、書籍などあらゆる媒体に目を通し、“生きた言葉”の用例を集め続け、その成果を辞書に反映し続けた“ケンボー先生”こと見坊豪紀。その途方もない膨大な作業を、彼は“学び”と捉えていたのである。

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