『哲子の部屋』『ブレイブ 勇敢なる者「硬骨エンジニア」』など、独自の切り口のテレビ番組を企画・制作するNHKエデュケーショナルの佐々木健一氏が展開するコンテンツ論の第45回。今回は「社内会議で“斬新なアイデア”が生まれない理由」 について。

 新しい企画やアイデアを考える際によく行われるのが「会議」だ。「三人寄れば文殊の知恵」のことわざの通り、一人で悶々(もんもん)と考えるよりも何人かで集まった方が良いアイデアが生まれる──。多くの人が、そう信じて疑わないだろう。

 以前のコラム(企画は思いつくもの? いや“組み合わせ”で生まれる)でも述べたように、アイデアを含む世の中の新しいものは基本的に「組み合わせ」によって生まれる。そう捉えれば、「複数の人がさまざまな知恵を出し合い、それらが組み合わさってより良いアイデアへと昇華する」という企画会議は、まさにこの組み合わせ理論とも合致する。

 ところが、ふと社内での企画会議を振り返ってみると、この理論がどうも当てはまらないのだ。会議によってそれまで誰も思いつかなかった“斬新なアイデア”が生まれた、という例がほぼ記憶にないのである。

 元のアイデアがブラッシュアップされ、皆が納得する結論にいたることはままあるが、会議という場で度肝を抜くほどの突き抜ける案が導き出される場面をあまり見かけない。それは一体、なぜなのか。

 その疑問を解くヒントが、組織論や経営に関するビジネス書でベストセラーを連発しているコンサルタントの山口周氏の書籍に書かれていた。

 「集団における問題解決の能力は、同質性とトレードオフの関係にあります。(中略)『似たような意見や志向』を持った人たちが集まると知的生産のクオリティは低下してしまうということです」(『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』山口周著/KADOKAWA)

 数多くの事例をもとにした心理学者の研究などによって、同質性の高い人が集まると意志決定の質が著しく低下することが明らかになったという。つまり、同じ業界の同じ会社で働く者同士が集まるような会議では、良いアイデアはなかなか生まれにくいのだ。

 これならば、組み合わせ理論とも矛盾しない。同じ会社で似たような仕事をしている者の考えを組み合わせても、そこから生まれるパターンは限られている。せいぜい、すでに世の中に存在しているものの模倣や改変が関の山だろう。社内で行われる企画会議で画期的なアイデアが生まれないのは、おそらくこうした理由からだと思う。

 しかも、社内の企画会議は、アイデアを練ることだけでなく、皆で顔をつき合わせて相談することで「情報共有」と「合意形成」を得ることが主な目的である場合も少なくない。そうなると、ますます突拍子もない考えや空気を読まない発言を控えるムードになる。

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