『哲子の部屋』『ブレイブ 勇敢なる者「硬骨エンジニア」』など、独自の切り口のテレビ番組を企画・制作するNHKエデュケーショナルの佐々木健一氏が展開するコンテンツ論の第44回。今回は「どうしたら良いアイデア(企画や演出)が生まれるのか?」 について。

 「どうしたら良いアイデア(企画や演出)が生まれるのか?」

 この疑問について、私は自らの番組制作の経験上、大きく分けて二つの要素が大切だと考えている。

 一つは月並みだが、「徹底した取材」だ。以前のコラム(企画は思いつくもの? いや“組み合わせ”で生まれる)でも書いた通り、アイデアを含む世の中の新しいものは基本的に「組み合わせ」によって生まれる。しかし、材料が少なければ組み合わせのパターンも限られてしまう。そのため、まずは材料集めのための学び(取材)が不可欠なのだ。

 そしてもう一つの重要な要素は、実は「様々な制約」だ。毎回、課題や悪条件に遭遇し、そのために工夫や知恵を絞らなければならない状況に追い込まれる。そうした中から問題を解決する価値あるアイデア(打開策)が生まれるのだ。実際にこれまで、

 「良いアイデアは“必然性”から生まれる」

 ということを何度も経験してきた。例えば、二人の偉大な辞書編さん者の相克に迫った『ケンボー先生と山田先生~辞書に人生を捧げた二人の男~』(2013年/NHK BSプレミアム)。

(『ケンボー先生と山田先生~辞書に人生を捧げた二人の男~』(C)NHK)
(『ケンボー先生と山田先生~辞書に人生を捧げた二人の男~』(C)NHK)

 この番組では、映画『ドッグヴィル』(2003年)のようなスタジオ空間で、一つの国語辞書から二つの辞書が分かれた歴史と二人の辞書編さん者の人生の軌跡をクロスオーバーさせながら進行した。天井からの吊りカメラで捉えた映像を見て分かる通り、スタジオ全体が二人の“年表”のような構造になっている。

(『ケンボー先生と山田先生~辞書に人生を捧げた二人の男~』(C)NHK)
(『ケンボー先生と山田先生~辞書に人生を捧げた二人の男~』(C)NHK)

 実は、この番組のセットデザイン案は自分で描いた。二律背反にして表裏一体という二人の編さん者の不思議な関係を表現しようと考え、コンセプトは「光と影」とした。そういったデザインの意味はあるものの、なぜ、こんなセットを思いついたのかといえば、実際のところはさまざまな課題を一気に解決するためでもあった。

(『ケンボー先生と山田先生』セットデザイン案)
(『ケンボー先生と山田先生』セットデザイン案)

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