PCオンラインゲーム『PUBG(プレイヤーアンノウンズ バトルグラウンズ)』のヒットで、『艦これ』や『刀剣乱舞』などに続く鉱脈を掘り当てたDMM GAMES。会員数2000万人のDMM GAMESのPCゲームプラットフォーム上にスマホゲームのIP(キャラクターなどの知的財産)を展開することで、中規模クラスのIPであっても収益を最大化できるスキームを作り上げ、国内外のゲーム会社からの引き合いが強まっている。『PUBG』を軸に、独自のeスポーツリーグの立ち上げも見据えている同社の片岸憲一代表に、ゲーム事業への取り組む姿勢と今年の展開について聞いた。
(文/山中浩之=日経ビジネス、渡辺一正、写真/中島正之)

●片岸憲一(かたぎし・けんいち): DMM GAMES ホールディングス 代表取締役、合同会社DMM GAMES 最高経営責任者 社長。DMM.comに入社後、DVDレンタル店舗でのマネージメント業務、Web制作、営業、提携買収の対外交渉などを担当。その後、2011年にオンラインゲーム事業をスタートさせた。本人自身もかなりのゲーマーを自認する
●片岸憲一(かたぎし・けんいち): DMM GAMES ホールディングス 代表取締役、合同会社DMM GAMES 最高経営責任者 社長。DMM.comに入社後、DVDレンタル店舗でのマネージメント業務、Web制作、営業、提携買収の対外交渉などを担当。その後、2011年にオンラインゲーム事業をスタートさせた。本人自身もかなりのゲーマーを自認する

スマホアプリ向けゲームをDMMプラットフォームで展開

――まず、2017年を振り返ってどんな1年でしたか。

片岸憲一代表(以下、片岸氏): 国内のトップパブリッシャーであるCygames、gumi、セガゲームス、ドリコム、コーエーテクモゲームスの各社、『PUBG(プレイヤーアンノウンズ バトルグラウンズ)』『陰陽師』『デスティニーチャイルド』などのゲームを展開する海外パブリッシャーにもDMM GAMESでPC版を展開していただきました。同じ顧客層の取り合いになるのでは?という心配もありましたが、PCユーザー分の売り上げがアドオンされるビジネスになっており、関係者の方々にご評価いただきました。

――スマホゲームの売り上げに、PCゲームユーザー分がプラスされているということですね。

片岸氏: その通りです。もう一つ、2017年に起こったのはヒットの生まれ方の変化ですね。AppStoreやGoogle Playでスマホゲームのランキングだけを見ていると、大型のIPで“ズドン”とやる感じでないと、ヒットさせるのが難しいのが現状だと思います。けれど、中規模ぐらいのIPでも、PC、Google Play、AppStoreの3つのプラットフォームで同時にリリースすれば、大ヒットとまではいかなくても、しっかり収益源になる事例が出てきました。

『刀剣乱舞』(C)2015-2018 DMM GAMES/Nitroplus
『刀剣乱舞』(C)2015-2018 DMM GAMES/Nitroplus

――普通なら「開発リソースはスマホアプリに集中させよう」という流れだと思うのですが、むしろPC上のブラウザーゲームに絞っている。

片岸氏: 開発の効率で言えば、スマホアプリもPCブラウザーゲームもほぼ同じです。PCのほうが操作しやすいゲームも実はありますから、ID連携さえすれば日中はスマホで、家に帰ったらPCで、という遊び方をしてもらえます。スマホアプリ開発にプラスしてPCブラウザーゲームを開発しても、その費用はある程度抑えられるから、投資回収の見込みが立ちやすい。シンプルに、自然な流れだと思います。

 もともと我々も逆の戦略を採っていたんです。例えば『刀剣乱舞』などではPC向けにゲームを開発してヒットさせ、それからスマホアプリでグロース(成長)させるというプランでした。ところが、スマホアプリからPCでもグロースを図るオファーがどんどん来るようになって、やってみたらうまくいったケースがいくつも出てきました。いわば、(PCプラットフォームである)DMMプラットフォームが受け皿となり、(スマホ生まれの)PCブラウザーゲームのタイトルが増えていったのが弊社の2017年です。

■変更履歴
片岸氏のプロフィール内にある肩書を修正しました。該当箇所は修正済みです。[2018/5/31 13:00]

2000万人規模でテストマーケティング

――DMM GAMESの主戦場は『艦隊これくしょん(艦これ)』をはじめとするPCブラウザーゲームのプラットフォームですが、自社のタイトルも、他社のスマホタイトルも、そのプラットフォームで面倒を見ましょうということですね。

片岸氏: 一番の強みと思っているのは、2000万人規模のPCユーザーが存在しているDMMのプラットフォームでテストマーケティングできることです。新規のIPをなかなか作れないゲーム産業で、2000万人市場でいったん当たりを見て、成長できるか判断できる、というところでしょう。

――DMM会員の比率がPCとスマホで58%と42%、男女比8:2、というお話でしたが、年齢比も含めて最新ではいかがですか。

片岸氏: 比率は変わっていませんね。スマホを含めて全体が伸びました。当社のプラットフォームでは18歳以上に限定しているので、平均値では若干高めだと思います。

――テストマーケティングの結果を見るための指標は、各社それぞれ同じものを見ているのでしょうか。

片岸氏: まずは事前登録の数で、IPとしての評価がほぼ決まってきます。そして公開後、面白いゲームならば継続率や課金率が上がる。こうした数値が上がらなかったら、正直ビジネスとして継続できません。事前登録数は非常に重要ですが、「息長く続いていくようなタイトルかどうか」というところの判断が、一番大事だと思います。

 初動が見えてきたところで、Free-to-Play(無料でプレーできる)ゲームはここから先が大変です。運営スタッフが常時10人以上は必要ですから、全員の給料をきちんと維持しようとすると、ユーザーの方々にアイテム、キャラクターを買いながら遊び続けてもらわないと売り上げが立たない。それぞれのゲームタイトルが、一軒一軒ラーメン屋さんを経営しているようなもので、赤字経営になったら閉じるしかないみたいな状況になる。

毎年100億円を新規ゲーム開発に投資

――ユーザーの動向を毎日追いながら運営を続けるのは、スタッフのモチベーションの維持が大変という話も聞きます。対策はありますか。

片岸氏: 当社の場合、Free-to-Playのゲームの内製タイトルは10%もないので、実はそこの苦労を知らなかったんです。開発メンバーと運営メンバーを分けたり、「(新規登録の)初速はすごくいいんですけど、イベントが超下手で……」みたいな、開発が得意で運営が苦手な会社さんの場合は、開発完了後は運営が得意な会社さんに譲渡させてしまったりということも、現実としてあります。

――DMM GAMESとしては、開発、運営、どちらが得意ですか。

片岸氏: 我々は自社タイトル数が少ないこともあって、どうしてもプラットフォーム、パブリッシャーとしての考え方が強く出てしまいます。僕自身、もともとゲームを作ったことがありません。石川県加賀市のレンタルビデオ店の店長からコツコツやってきて、今は世界を相手にゲームを販売していますが、実のところ、分母は大きくなっていても、やっていることはあまり変わっていないんです。

――面白いですね。

片岸氏: 投資を考えるとき、レンタルビデオ店のときは仕入れ率(新作ビデオを仕入れる比率)を「売り上げの3割」と決めていました。ゲームの場合は3割とまでは言いませんが、毎年100億円分は新作ゲームに投資しましょうか、と。ゲームは大好きなんですが自分たちは作った経験が少ないので、逆に、プラットフォームの観点でゲーム業界に寄与できたらと考えています。

――なるほど。「このゲームはいけているな」とか、「このチームはいけそうだな」とか、判断基準はあるのでしょうか。

片岸氏: それはもう、失敗した投資の経験の累積がありますから(笑)。多いときは年間100本程度の投資案件を決裁していますので、「こういう事例で失敗した」というノウハウが大変な数になって積み上がっています。逆に失敗した事例しか見てないですね。「当たりそう、当たらなそう」という判断は基本しませんね。

「Steam」に憧れて始めたPCゲーム事業

――失敗した事例から学んだこととは。

片岸氏: 具体的には「有限会社に対して1億円プロジェクトは危険だよね」みたいなことです。あとは例えば、「『クラッシュ・ロワイヤル(クラロワ)』みたいなゲームに、すごいニッチなIPを適用して開発したいです」という企画が出てくるとするじゃないですか。でも、それって破綻してますよね。

 『クラロワ』は非常に多くのユーザーに対して、薄く課金するモデルですが、そこにニッチなIPを当てたら、多くのユーザーが獲得できずにどうやっても投資を回収できないわけです。掛け算、足し算のレベルで間違えているので、却下します。僕はマイナス要素しか担当しない経営者、という感じです。「これ、面白いから絶対やろうぜ!」みたいなことは、あまりやらないです。

――そうおっしゃるわりには、例えば『PUBG』のように、まさか日本であんなに当たると思わなかったゲームを捕まえています。あの嗅覚ってすごいなと思っていました。

片岸氏: あれは現場が優秀だっただけです。ゲーム担当に「いいものだったら取ってこい。開発費は余っているからどんどんやれ」と言っているので(笑)。そこに担当が『PUBG』を持ってきました。僕もプレーして、1日2時間ぐらいやっているんですけど面白かった。

 一方で、僕がすごく弱いポイントは、AppStoreやGoogle Playでセールスが上がっているようなゲームは一切やらないことですね。いわゆるRPGのFree-to-Playみたいなゲームは全くやらないし、あまり詳しくもありません。

 もともと僕は「Steam(※)」にあこがれている重度のユーザーでして。これを何とか日本で形にしたいと思ってこの事業を始めたんですよ。PCゲームは日本でそれほどニーズがないので、逆に、そこから面白いゲームを作れたら、PCゲーム(やSteam)を浸透させられるのではないかと考えているんです。

※北米のゲームメーカーであるValveが、2003年9月に正式サービスを開始したデジタル配信システム。ゲーム購入だけでなく、コミュニティーやニュース配信など、オンラインゲームのインフラとしての機能を持っている
『PUBG(プレイヤーアンノウンズ バトルグラウンズ)』 (C)DMM GAMES (C)PUBG Corporation. All rights reserved.
『PUBG(プレイヤーアンノウンズ バトルグラウンズ)』 (C)DMM GAMES (C)PUBG Corporation. All rights reserved.

投資に対して期待しないようにするのは「傷つくから」

――大型のIPなどの規模感を軸にするより、ミドルクラスの面白いゲームの打率を上げていくところとも相通じるかもしれませんね。

片岸氏: 「手数を打つ」ことはすごく大事にしています。DMM GAMESはアダルトゲーム市場を押さえていて、そこの勝算の高さを利用しながら、潤沢な開発資金を新規IPに投資していく、というのが大枠の戦略です。

 多くのゲーム会社が新規IPへの投資リスクを回避したくなると思います。我々は10本作って1本当たればいいという程度の考え方で投資しています。手数で勝負するのは我々しかできないので、そこを大事にしていきたい。中ぐらいのIPをコツコツ作って、たまにボーンと当たるものが出たらいい。メガヒットは当てようと思っても当てられませんから、手数を出していくしかないということです。

――ライトノベルを出している出版社の方に「中くらいのヒットシリーズがたくさんある状態が理想的」とお聞きしたことがあります。

片岸氏: ああ、近いかもしれないです。「サブカルをつくろう」というのが、僕のゲームに対する基本姿勢です。時々、サブカルの中から『艦これ』とか『刀剣』みたいな大ヒットが出てきたらいいなと。なので、手数は結構大事です。

――さきほど「10本に1本」とおっしゃっていましたが、打率のめどや目標はありますか。

片岸氏: 逆に「いくら使えるかな」と考えて、来年の業績目標を考えています。「これだけ稼がなきゃいけない」という指標ではやっていないんです。今年の開発費はこれだけ使える、という観点でタイトルを仕込んでおいて、来年蓋が開いたら「もうかっていた/もうかっていない」という見方です。現場には逐次KPI(重要業績評価指標)を出せとか、一切言わない。「いくら稼ぎます」と宣言はさせますけど、うまくいかなかったからどうこうは言わないですね。

――太っ腹ですね。

片岸氏: 太っ腹じゃありません。そうじゃないと健全じゃないと思うからです。上場もしていませんしね。実はゲームに限らず、あんまり投資については期待しないようにしていて。

――どうしてですか。

片岸氏: 傷つくからです(笑)。新規開発したものは、ことごとく「外れる」と思ってやっているんです。だから(心が)軽傷で済む。うまくいったらラッキーぐらいの気持ちでいないと、本当に心が折れたり、あるいは、効率重視に走ってしまいますからね。

 KPIの値を細かく見て、ギリギリやらずに済むのは、上場していないゆえの強みかもしれせん。亀山(敬司DMM会長)からも「いくら稼げ」とかは言われていませんし。こちらから「いくら欲しいですか」と言っているのですが「いいよ、使えよ」というのです。分かりました、と、開発に投資して、なるべく残さないように頑張るんですけど、なかなか使いきれません。

 これは映画製作でも同じだと思うんですが、新しいプラットフォームが世に出始めたときって、ブワーッと花開いて成功事例が生まれ、勝ち方が見えてくる。すると、今度はグラフィックを良くして、演出を良くして、キャラクターにお金をかけてと、一本一本のディールがどんどん大きくなっていく。打率の高い投手に集中して予算が大きくなるという現象になってくる。これは現実にゲームの世界でも起きています。

多言語サーバーを用意して世界戦略へ

――打率と予算規模がスパイラルに上昇していくということですか。

片岸氏: はい。ですので、成功事例を踏襲して収益性の高いディールもやるんですけど、一方で「チャレンジする枠」というのを別で設けて、そこでもどんどんやらせるわけです。PUBGもそうですが、海外からの案件もどんどん増やしていきたいです。

――海外のユーザーも狙っていくのですか?

片岸氏: ええ、Steamと同じです。世界中の方々に日本のサイトに遊びに来ていただいて、そこで収益化していく形に変えようと、準備しています。日本で生産されたIPだったりゲームだったりを世界に提供して、それを収益化するという方向です。そういう考え方でいかないと生存できない、と考えています。

――主戦場はもう日本じゃなくて世界ですか?

片岸氏: そこまでは言いませんが、世界中のゲームデベロッパーのテスト課金だけでも結構収入にはなるという考え方もできるじゃないですか。例えば、中国でゲーム業界に従事している人は、おそらく2000万人くらいいると思っています。その人々は、ちょっとはやったくらいのゲームでも課金してくれるかもしれない。多言語化したサーバーを用意することで、それだけのユーザーが手に入るなら、すごく効率はいい。

――世界相手だから大規模投資が必須かといったら、それだけでもない。

片岸氏: 例えば、PlayStation4の大型タイトルで開発に50億円かけました、マーケティングコストは何億円です……という世界では、グローバル戦略の考え方も我々が取り組んでいるのと全く別でしょう。我々の場合はPCゲームを数千万円で作ったりしているのですが、実績から考えれば、後から簡体語字幕を付ければなんとかなるかな……という、あんまりかっこよくないけど、地に足の付いた発想なんです。

 例えば、Steamのヒットランキングは完全に二極化していて、2人で作ったインディーズゲームと、200億円規模で作ったゲームがランキングトップ10に並んで入っていたりします。そういう中で、僕らは「メガヒット、メガIPに頼らない」という戦略を採っていまして。僕の中では、「凡人がみんなで頑張って生きていく」という会社を目指しているわけです。言い換えると、天才的なクリエーター、巨大なIPにあまり頼りたくない。凡人が生きにくい会社になっちゃうので(笑)。

――だから「サブカル」なんですね。

片岸氏: コンテンツが細分化されて、それぞれに好きな人たちがいる。個人に最適化されたコンテンツが提供できる時代になりました。宮崎駿です、ジェームズ・キャメロンです、何百万枚出荷しました、ということより、むしろスモールな、局所的な趣味嗜好の人たちに向けたコンテンツを提供していくというのが、流通がいらなくなった世界には適しているんじゃないかなと。持論ですけど、そう思っています。

 DMM GAMESは仲介者と認識しています。アーティスト寄りな考え方になると収益性を度外視してしまいがちですが、思いは大事でもそれだけではコンテンツは作れないし食べていけない。なので、その間に入って、せめて飯だけ食えるようにしよう、みたいな。このくらいの緩い発想でやらないと、収益性のみに縛られて、結局、型にはまったもの、テンプレートに陥っていく。我々のような「サブカルを作って何とか食っていこう」という道では、アーティスト指向に寄り過ぎると危険だなと思って経営しています。

日本でIPを作り、中国で開発する

――2018年の方針を教えてください。

片岸氏: 海外市場に向けた仕込みの年だと思い、全社総動員でDMM GAMESのプラットフォーム改修に入っています。パブリッシングで言うと、直近で出るものは既に2017年に意思決定済みなので、じっと待って「当たるかな」と祈っている状況です。仕込もうと思っているタイトルは、新規IPでの投資をしっかりと拡大させていきたいというところですね。あとは海外タイトルで面白そうなタイトルがあったらサブスクリプションのモデルを入れたり、PUBGはさらに展開していこうと。

――新規IPは。

片岸氏: 『がるメタる!』のようにNintendo Switchで出すものもありますが、日本でIPを作って、中国の会社にゲームを作ってもらうものが多いですね。今、たくさん仕込んでいます。中国には2000万人の開発者がいて、日本の人口の4分の1ですよ。優秀で早くて、コストパフォーマンスがいい。昔のように「安いから」という理由ではないんです。そもそも日本には開発の受け皿がそんなにないので、制作ラインも海外に持っていくことになりますね。

『がるメタる!』(C)DMM GAMES
『がるメタる!』(C)DMM GAMES

――中国企業とのビジネスってやりにくいという人が多いですけれど、どうですか。

片岸氏: むちゃくちゃやりやすいです。話が早いし。今年、中国の現地法人を設立しますけれど、あちら側からは「動きが遅い」と怒られてます。

――eスポーツが盛り上がりつつありますが、どうご覧になりますか。

片岸氏: 答えにくいご質問です。なぜなら、eスポーツは日本で絶対定着しない、と思っていたからです。ただ、PUBGだけは成立する可能性を感じていて、今、PUBGのプロリーグ開催を目指してテストリーグを実施しています。現在、「スクワッド」、4人組の対戦で、20チームが生存を懸けて戦う、というのを毎週やっています。各チームには企業経営者の方にご参画いただくのも1つの目標でです。

――企業経営者ですか? 資金援助を仰ぐため?

片岸氏: いえ、経営者の方にPUBGのチームを経営していただく。最終的に、1位を取ったチームから順に興行の収益を厚めに分配するみたいな仕組みにしたいなと思っているんです。

――PUBGはいけそうだ、と思えたポイントは何だったのですか。

片岸氏: まず、PCゲームであることですね。ゲームの操作手段が多岐にわたるので、プロとのアマの差が出るし、スーパープレーも演出しやすい。ガチなシミュレーションゲームは、日本国内で定着にしくいと思っています。実力のみの勝負で運の要素が薄すぎると、流行しない。PUBGは多分に運の要素がありますよね。サブマシンガンを持っている相手でも、フライパンで倒せることもある。

実業団形式のeスポーツリーグを目指す

――確かに、うまく立ち回れると全然強くないのに勝つことがあります。

片岸氏: そう。その上で、数を重ねていくとやはり技量の差が出てくる。そして、見ていても面白い。これが大きいかな。この間、女子学生と話す機会があったんですが、3割ぐらいは選手を知っているんです。もちろん彼女らはプレーしないのですが、YouTubeとか見ているんですよね、面白いので。これは興行として形になるなと。実況は面白いし。オフラインイベントもしやすいかなというのがあって……あっ、もちろん、これも「うまくいく」とはほぼ思っていないですよ(笑)。

 それでも形にする以上、商業的に採算が合わないとやる意味がないので、企業の方々にチームを経営していただき、興行として面白くしていく。そのためには、まずは魅力的なプレーヤーが出てこないとダメかなと思います。言い換えれば、そこまでできれば、ゲームプレーヤーを職業にして生活できる生態系ができて、すごく意義があります。

――チーム経営というのは、経営者がプレーヤーを社員として雇う実業団的なイメージですか。

片岸氏: そうです。そうじゃないといけないと思います。賞金を当てにして生活せよ、というのではダメです。PUBGはチーム戦なので、継続的に集まって戦ってもらわなければならない。となると、まずプレーヤーの生活費とかは、チーム経営側が担保すべきだと考えています。「勝ったらお前の取り分はいくらいくらだよ、負けたらゼロね。自己責任で賞金を稼いで頑張れよ」というのはやりたくなくて。

 実業団チームにしたいと思っているので、一般的なeスポーツとは違ったイメージです。その日のゲーム対戦の一発勝負で、これから生活できるかどうかに人生を懸けろ、というのは酷ですね。ちゃんと生活していけるとか、引退した後の再就職先の当てがあるかとか、そういった仕組みがプロのゲームプレーヤーには必要かと思います。

 妙な言い方かもしれませんが、親御さんが、息子や娘が「これを目指す」と言っても「心配だけどまあ、ちゃんとした経営をしているからやらせてみるか」と、安心できるような。究極はそういう絵かなと思うんですね。実業団チームを作ってリーグ戦を行って、市民権を得て、最後はラスベガスのマッチメイクで10億円稼ぐみたいな話まで持っていけたら大成功ですね。そういう興行にしていかないと、夢がないです。

――いつごろから始められるのですか。

片岸氏: 開発元のPUBG Corp.とも話し合いながら、来年には開催できれば良いと思っています。プレーヤーとなるには、やはり12万~13万円するゲーミングPCを持ってないとできませんから、プレーヤーの数はそう簡単に増えないかもしれません。

 将来的にはクラブのような場所でやっても面白いかなと。観客にはお酒を飲みつつ、解放感のある場所で見てほしいという狙いがあります。スポーツバーのようなイメージです。「経営」「チームメンバーを雇用する」などと考えていると、自然とそんなアイデアも出てくるんですよ。あ、もちろん……。

――「うまくいくとは思っていないけれど」ですよね(笑)。ありがとうございました。

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