スクウェア・エニックスは、2017年7月に投入した『ドラゴンクエストXI』や『ファイナルファンタジーXII The ZODIAC AGE』などの大型タイトルの販売、オンライン系タイトルやスマホアプリなどが健闘し、取材時点(2018年1月)で昨年度(2017年3月期)とほぼ同等の収益を維持している。グループ全体のウェブサイトを見直し、情報の提供からコンテンツ販売までの道筋をシームレスにつなげて、デジタル販売力の強化を図る。2018年は海外スタジオ製タイトルが続々と発表される予定だ。松田洋祐社長に2018年の方針を聞いた。 (聞き手/渡辺一正、写真/稲垣純也)

●松田洋祐(まつだ・ようすけ): スクウェア・エニックス・ホールディングス/スクウェア・エニックス 代表取締役社長。1963年生まれ。2001年にスクウェア・エニックス(旧スクウェア)に入社後、同社執行役員・取締役、タイトー取締役、スクウェア・エニックス・ホールディングス取締役などを経て、2013年から現職
●松田洋祐(まつだ・ようすけ): スクウェア・エニックス・ホールディングス/スクウェア・エニックス 代表取締役社長。1963年生まれ。2001年にスクウェア・エニックス(旧スクウェア)に入社後、同社執行役員・取締役、タイトー取締役、スクウェア・エニックス・ホールディングス取締役などを経て、2013年から現職

世界的に日本発のゲームが存在感を示した2017年

――2017年を振り返って、どのような1年でしたか。

松田洋祐社長(以下、松田氏): 2016年末からのことですが、2017年全体を通して日本のゲームタイトルが世界的に見て、非常に盛り上がった年だったと思います。

 2016年9月に発売されたRPG『ペルソナ5』(アトラス)を皮切りに、弊社のRPG『ファイナルファンタジーXV』(2016年11月)が発売。2017年は任天堂のRPG『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(2017年3月)などのNintendo Switch(以下Switch)向けのタイトルや、弊社のアクションRPG『ニーア オートマタ(NieR:Automata)』(2017年2月)、RPG『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』(2017年7月)など、ヒット作が続いています。

 家庭用ゲーム機本体も、PlayStation4(PS4)は着実に販売台数を伸ばしていますし、Xbox Oneシリーズは好調なホリデーシーズンを迎えました。Switchの販売台数が1000万台を超えたという発表もあります。家庭用ゲーム業界で、日本企業の存在感が非常に高まった1年だったと思います。

 弊社が発売した主要タイトルの売り上げ自体は、おおむね計画通りです。『ドラゴンクエストXI』は久しぶりの本編でしたが、おかげさまで非常にクオリティが高いとお客様からご評価いただきました。数字面でも発売初週で300万本以上が積み上がり、その後も好評です。今回はPS4とニンテンドー3DSの2つのプラットフォームでリリースするという、ある意味すごい挑戦だったのですが、両方とも評価が高かったので、ありがたいですね。

『ニーア オートマタ(NieR:Automata)』 (C) 2017 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved
『ニーア オートマタ(NieR:Automata)』 (C) 2017 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved
『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』 (C) 2017 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.
『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』 (C) 2017 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.

――プラットフォーム別に見た場合、各事業の評価はいかがでしたか。

松田氏: 家庭用ゲーム機からPC、スマートフォンなど全般的に当初の予定よりも良かった年でした。アーケード事業の一部ではちょっと苦戦しましたが。

 ただ、アーケード市場全体はなかなか難しい時代になっていますが、各店舗の売り上げはそう悪くありません。逆に、最近では売り上げを伸ばす追い風が吹きそうです。というのも、近年はリアル店舗を撤退する業種が増えています。立地条件の良い銀行や小売業などの店舗が撤退し、これまでは手が出なかった物件でも入居できるようになってきました。出店施策としては、チャンスが増えてきたと捉えています。

 また、グループ会社タイトーの『スペースインベーダー』も40周年になりますから、いくつか周年事業を展開していきます。最近では、六本木ヒルズでのイベントを実施しており、スクウェア・エニックスからもコンテンツの企画・開発で協力しました。

 家庭用ゲーム事業では、HD(ハイ・ディフィニション)ゲームを中心に、デジタル販売に力を入れていて、それが非常に売り上げを伸ばしています。ゲームタイトルのライフタイムもどんどん長くなっています。

 2017年末のクリスマス商戦では、2016年10月にPS4版をリリースした『ライズ オブ ザ トゥームレイダー』(2015年)、『ジャストコーズ3』(2015年)といった過去作品を、デジタル販売で猛プッシュしたんですよ。その結果、ものすごく売り上げが伸びました。これらのタイトルは既に開発費の償却が済んでいる作品で、売れたらそれがほぼそのまま利益となるわけです。このインパクトは非常に大きいと思っています。

スペースインベーダー40周年企画 (C) SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. (C) TAITO CORPORATION 1978, 2017 ALL RIGHTS RESERVED.
スペースインベーダー40周年企画 (C) SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. (C) TAITO CORPORATION 1978, 2017 ALL RIGHTS RESERVED.
『ライズ オブ ザ トゥームレイダー』 Tomb Raider (C) Square Enix Ltd. 2016. Published by Square Enix Co., Ltd. Square Enix and the Square Enix logo are registered trademarks of Square Enix Holdings Co., Ltd. Lara Croft, Tomb Raider, Crystal Dynamics, the Crystal Dynamics logo, Eidos, and the Eidos logo are trademarks of Square Enix Ltd.
『ライズ オブ ザ トゥームレイダー』 Tomb Raider (C) Square Enix Ltd. 2016. Published by Square Enix Co., Ltd. Square Enix and the Square Enix logo are registered trademarks of Square Enix Holdings Co., Ltd. Lara Croft, Tomb Raider, Crystal Dynamics, the Crystal Dynamics logo, Eidos, and the Eidos logo are trademarks of Square Enix Ltd.
『ジャストコーズ3』 Just Cause 3 (C) 2015, 2016, 2018 Square Enix Ltd. All rights reserved. Developed by Avalanche Studios. Published by Square Enix Co., Ltd. Just Cause 3 and the Just Cause logo are trademarks of Square Enix Ltd. Square Enix and the Square Enix logo are trademarks or registered trademarks of Square Enix Holdings Co. Ltd.
『ジャストコーズ3』 Just Cause 3 (C) 2015, 2016, 2018 Square Enix Ltd. All rights reserved. Developed by Avalanche Studios. Published by Square Enix Co., Ltd. Just Cause 3 and the Just Cause logo are trademarks of Square Enix Ltd. Square Enix and the Square Enix logo are trademarks or registered trademarks of Square Enix Holdings Co. Ltd.

自社販売サイトを見直し、デジタル販売改革を推進

――デジタル販売をプッシュしたというのは具体的にどんなことをしたのですか。

松田氏: 弊社の商品サイトから公式販売サイト「e-STORE」まで、全部を見直しました。お客様にとって理解しやすく、買っていただきやすいように動線を構築したのです。

 加えて、アマゾンや、PS Store、XboxのMicrosoft Storeなど、ゲームを販売している外部サイトも含めた動線も見直しました。ホリデーシーズンのセールでは、どのチャネルのプロモーションを強化すればいいかという観点でも検討して、具体的な施策に取り組みました。

 これまでは、個別ゲーム単体ベースの販売施策が中心だったのですが、もっと全社的なeコマースとして捉えて、買っていただきやすいサイト作りを目指したところ、売り上げとしてはっきり数字に表れました。とはいえ、まだ十分とは言えないので、買っていただくための努力、広い意味でのeコマースの力をもっともっとつけることが2018年以降のテーマです。世の中にある他のeコマースの先進事例を研究して、良いところはどんどん取り入れようと考えています。

 弊社のサイトに来てくださるお客さまは、そもそもスクウェア・エニックスの製品に興味があって来ていただいていると思います。そうした方々に、新作の情報も含めて、ウェブサイトに来ていただく価値を提供していかないといけませんし、コンテンツ情報から販売までをシームレスにつなげたいですね。

――デジタル販売の割合はどのくらいにしたい、という見通しはありますか。

松田氏: 具体的な目標は設定していません。ただ、タイムリーに買っていただける利便性を高めていけばデジタル販売の率は自然と高まっていくでしょう。もちろん、パッケージ製品を好まれるお客様もいらっしゃいますし、どちらの絶対数も上げていきたい。お客様が欲しいと思ったときに手に取ってもらう環境をより整えるためにも、デジタル販売は重要だと思いますね。

 どのくらいのスピード感でシフトしていくのかははっきり読めないですが、デジタル販売が主体になるという世の中の流れは、もはや不可逆的なものだと思っています。この1、2年の傾向を見ていると明らかですね。

――2017年末商戦から18年新春にかけてのセールスの状況はいかがでしたか。

松田氏:  特定のタイトルがけん引したというのではなく、デジタル販売の改革効果が出てきた結果、収益が全体的に上がりました。どのようにデジタル販売施策をプッシュすれば売り上げが伸びるのかが分かってきたので、もっと具体的な施策を考えて動けるようになると思います。

中国市場と北米市場のスマホゲーム配信に注力

――MMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)やスマホゲームなどの状況について教えてください。

松田氏:  MMO事業では『ファイナルファンタジーXIV(FFXIV)』や『ドラゴンクエストX』が共に、追加拡張ディスクをリリースして、大型のアップデートを行いました。新しいストーリーやエリア、新しい職業などを増やしたアップデートによって、FFXIVでは有料課金者数が過去最高を記録するなどの結果が伴いました。プレーヤーのみなさんに長く遊んでいただくためにも、今回の大型アップデートは大きなマイルストーンになったと思います。今年もさまざまなアップデートを継続していく予定です。

 スマートフォンゲームもある意味で同様ですね。なかなか競争が厳しいマーケットになってきましたが、人気タイトルは長く遊んでもらえる傾向にあるので、その人気をどのように維持していくのか、しっかり考えていかないと。同時に、新規タイトルの開発を継続していくことも大事だと思っています。

『ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター』(C)2010-2018 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
『ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター』(C)2010-2018 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
『ドラゴンクエストX 5000年の旅路 遙かなる故郷へ オンライン』(C)2012-2018 ARMOR PROJECT/ BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.
『ドラゴンクエストX 5000年の旅路 遙かなる故郷へ オンライン』(C)2012-2018 ARMOR PROJECT/ BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.

――大手ゲーム会社の中では、スマホゲーム事業で成功していると思いますが。

松田氏:  そこまでではないですよ(笑)。おかげさまである程度ヒットタイトルを出せていますが、打率でみるとそれほど良いわけではないです。失敗もたくさんあります。ただ、スマホゲームの市場は日本、中国、北米を合わせて全世界の8割程度を占めていて、これに台湾や韓国市場を合わせると9割を超えるくらいになるというトレンドは数年前から変化していないと思います。

 今後、この状況が劇的に変化する可能性がないわけではないけれど、やはり中国、北米市場は重要です。我々が十分に力を発揮できていないマーケットなので、特に注力していかないといけませんね。弊社が持つIPを軸に展開していく方向性もありますし、例えばAR(拡張現実)など趣向の新しい取り組みにもチャレンジしなければいけないと思います。それと、大事なのはパートナー企業ですね。各地で、自分たちの組織だけで取り組むのではなく、パートナーを開拓して共同でビジネスすることも考えています。

変化に合わせて“キョロキョロ”

――この地域は単独事業、この地域はパートナーと共同事業、と決めていますか。

松田氏: ゲーム関連のビジネスはおしなべてそうですが、先に決めきって事を進めると、大体うまくいかないんですよ。だから、うまくいかなかったときに、どれだけクイックに変更できるか、という柔軟な態勢が一番大事。自分を信じてやり抜くことも大事ですが、最初から決めつけて、それにこだわるとダメですね。

 これだけ事業環境が変化し続けている時代ですから、すぐに方向転換できる俊敏さがゲーム会社には必要でしょう。世の中の流れ、トレンドをよく見ていないといけないです。それに加えて、見る方向も重要。会社全体が同じ方向しか見ていないのもダメです。

 だから、弊社では開発チームを分けて、各チームが動きやすくしています。個々の組織がそれぞれの周囲をキョロキョロ見渡している状態にあるのがいいと思います。ただ、クリエーティブな部分で集中することが得意な人もいますし、全員キョロキョロする必要はありません。両方の要素がチームの中にないとダメでしょうね。

――アジア市場への取り組みについて教えてください。

松田氏: 中国市場については、自分たちだけでは十分にできていないのは確かです。だから、これからはゲーム開発への投資、開発会社への投資も含めて、パートナーについて検討する時期かなと思います。これは何も中国企業に限っているわけではなく、東アジアや南アジアを含めて投資先を見定めるタイミングになってきた気がしています。

 そのほかでは、特にインド市場に注目しています。この1~2年でビジネスの形ができるとは思っていませんので、5年程度のスパンで考えています。ただ1つ言えるのは「通信環境」と「決済手段」がそろえば、我々はビジネスできる環境になりますね。インドではFinTechのベンチャー企業もたくさん出てきていますから、ネット決済のような部分で決済環境が急速に変わってきていると実感しています。

 そういう動きは我々としては歓迎ですし、何らかのアクションをしていかなければならない時期に来ています。中国では二次元コード決済が主流になり、ゲームビジネスはより一層可能性が広がっています。インドでもそういうチャンスは増えていると見ていますから、投資も積極的に行おうと思います。

――何に投資しようとお考えですか。

松田氏: ゲーム開発会社かもしれないしそうでないかもしれない。実際、インドには面白いゲーム会社がありますし、インドは無視できないと思います。

5GとHTML5の組み合わせで、ブラウザーゲームも十分遊べる環境に

――年頭所感の中で、これからスタートする5GとHTML5の組み合わせにより、ブラウザーゲームの可能性が広がると言及されましたが、これはブラウザーゲームに注力するということですか。

松田氏: それはちょっと趣旨が違います(笑)。HTML5ではネイティブアプリ並みに立派な3D表現もできるようになっていますし、通信環境が良くなって常時接続コストも下がってくれば、ブラウザーも有力なプラットフォームの一つとして再評価してもいいだろうということです。もちろん、ネイティブアプリにも引き続き注力していきますよ。

――ブラウザーゲームのほうが開発費は安い?

松田氏: 必ずしもそんなことはないですね。ネイティブアプリは開発費がかかるからブラウザーゲームにシフトするといったことは考えていません。そもそもどういうゲームにしたいか、というデザイン設計が最初にあるべき話であって、作りたいゲームがどのプラットフォームに合うかを判断するわけです。ただ、通信環境が良くなって通信コストも下がれば、表現力も上がってくるから、ネイティブアプリに加えて、ブラウザーゲームも重要な選択肢の1つになる、という意味です。

――現在、AI(人工知能)が世の中では大きな話題になっていますが、2018年、気になっている技術やトレンドなどありますか?

松田氏: AIは、ゲームの中に使うだけとは限りません。開発工程にAIを活用してデバッグやゲーム解析ができないものか、といった取り組みはテーマとしてあります。ゲームそのものを面白くするためのAI活用も当然ありますが、これをしなさいという風に決めて動いているわけではありません。それに、AI以外にも注目している分野はいろいろとありますよ。話を聞きながら、面白そうだなと思った案件に投資を決めています。

“飛び地”の事業領域との新しい組み合わせに期待

――(投資に見合う)面白そうだなと思える案件はたくさんあるのですか。

松田氏: 新しい企画はいろいろ手元に届いています。AIに限らず、気になっていることは全社集会で話したり、社内ブログでちょこちょこ書いたりしています。実際、今これに投資しようという案件もいくつかありますが、具体的な内容は秘密です(笑)。

――最後になりますが、2018年気になっているキーワードはありますか?

松田氏: これからの時代はゲーム・エンターテインメントとは一見全く関係ないような、“飛び地”の業界の新しいテクノロジーと私たちのコンテンツを組み合わせることで、新たな面白いサービスやプロダクトを生み出せるのではないかと考えています。我々が持つエンターテインメント・コンテンツの出口はゲーム専用機やスマホだけじゃなくて、他との組み合わせがいろいろあり得るのではないかと。そこにあるニーズをどのように捕まえていけるのか、さまざまな形の投資を考えていかなければなりません。

 実際に形にするのはなかなか難しいけれど、そうした「新しい組み合わせ」が一つのキーワードになりそうです。全く別の事業をやるというわけではないですよ。当然、コンテンツなり、エンターテインメントなりとの関連を想定しての話です。例えばロボットなんかは十分ありえますよね。ハードウエアは作らないけど、ソフトウエアの部分は関連領域だと思っています。

 今までやってこなかったことをいろいろ組み合わせられる時代になってきています。そういう領域には前向きに投資していこうと思います。もちろん、国内外問わずに。一見、飛び地のビジネス領域で、関係なさそうな事業でも、組み合わせると面白いものができる。そういう可能性はたくさんあると思っています。

――そういう組み合わせ事業は、誰かからオファーがあるんですか。

松田氏: そんな話は社内外ともまず誰も持ってこないですよ。ただ、自分の中で、こんなことできないかな、と考えたりはします。2017年くらいから本格的にそういったチャンスがないかと考え始めて、投資してみてもいいかという気持ちになっています。いろいろなスタートアップが出てきて、面白いことができるじゃないですか。日本だけじゃなく世界中でやっている。奇想天外な発想や組み合わせが面白いですね。だから、スクエニはそうした投資も前向きにやろうと考えている、ということを世の多くのスタートアップにも知ってもらいたいと考えています。

2018年は海外スタジオ制作のタイトルに注目

――VR(仮想現実)への取り組みはいかがですか。

松田氏: VRはもうちょっとマシンが洗練されないと、なかなか厳しいですね。有線のヘッドマウントディスプレー(HMD)だけでは難しいし、装着性にもまだ改善の余地があります。非接触型HMDとか、もっと小さなデバイスになるとか。価格も依然として高価ですし、一般消費者に普及するにはまだ解決すべき課題が多いと見ています。

 一方で、エンターテインメント・コンテンツとしてのVRの表現力には、やはり興味深いものがあります。そこで弊社では新しいアプローチにチャレンジしています。具体例の1つがマンガをVR空間で表現する『プロジェクトHikari』。ショーケースとして東京ゲームショウ2016に出展したところ、体験された方の反応が非常に良かったので、製品化を進めてきました。ようやく第1弾となる『結婚指輪物語VR』(Oculus Rift/HTC Vive)が完成し、2018年5月25日にダウンロード販売する予定です。今はなかなか大変ですが、VR機器や開発環境がより進化すれば、こうした新しいVRコンテンツを量産できるようになるでしょう。

『結婚指輪物語VR』(C)MAYBE/SQUARE ENIX
『結婚指輪物語VR』(C)MAYBE/SQUARE ENIX

――ロケーションベースのVR(アミューズメント施設向け)はビジネスとして動いている気がしますが。

松田氏: VR関連ビジネスとしてないわけではないけれど、アミューズメント施設向けにVRコンテンツを開発しても、その先のスケーラビリティ(拡張性)があまりない気がしています。1つコンテンツを作って、それをどのようにスケール(拡大)させていくのか、というプランをよく考える必要があると思います。面白いVRコンテンツを作っても、それがアミューズメント施設の枠内にとどまるのであれば限界がありますから。

――2018年に期待しているゲームタイトルについて教えてください。

松田氏: 2018年は、欧米スタジオで制作しているタイトルですね。発表したばかりですが、9月14日に全世界同時発売を予定している『シャドウ オブ ザ トゥームレイダー』(SHADOW OF THE TOMB RAIDER)があります。『トゥームレイダー』(2013)、『ライズ オブ ザ トゥームレイダー』(2015)に続くシリーズ最新作です。これから、現在開発中のタイトルなど国内外で続々と情報が出てきますので、ぜひご期待ください。

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