2017年10月に配信を開始した『ディズニー ツムツムランド』が好調なコロプラ。同社の森先一哲取締役は2018年1月にCOOに就任し、オリジナルゲームだけでなく、他社IP(キャラクターなどの知的財産)もこれまで以上に活用しながらラインアップの拡充を図ろうとしている。さらに大規模な組織改革を実施し、社内人材の流動性を高めることで開発力の強化にも拍車が掛かる。その成果が少しずつ出始めているようだ。
(聞き手/酒井康治、写真/中島正之)

●森先一哲(もりさき・かずのり):コロプラ取締役 COO。コンシューマゲーム業界でデザイナーおよびディレクターとしてさまざまなゲーム開発に携わったのち、2012年3月にコロプラに入社。同年10月にKuma the Bear開発部長に就任し、『クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ』『白猫プロジェクト』といったスマートフォンアプリのヒットに貢献。2014年12月に取締役に就任(現任)後、2018年1月にCOOに就任。
●森先一哲(もりさき・かずのり):コロプラ取締役 COO。コンシューマゲーム業界でデザイナーおよびディレクターとしてさまざまなゲーム開発に携わったのち、2012年3月にコロプラに入社。同年10月にKuma the Bear開発部長に就任し、『クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ』『白猫プロジェクト』といったスマートフォンアプリのヒットに貢献。2014年12月に取締役に就任(現任)後、2018年1月にCOOに就任。

クリエイティブ本部の設置で人材の流動性高める

――コロプラにとって2017年はどのような1年だったか教えてください。

森先一哲取締役(以下、森先氏): 2017年は5月に『プロ野球バーサス』、9月に『PaniPani-パラレルニクスパンドラナイト-』、そして10月に『ディズニー ツムツムランド』という3本の新作を投入しました。決して楽な年だったわけではありませんが、その分、経営を含めて会社全体の改革に着手できた1年だったと言えます。これを足場にして、2018年をやっていこうと考えているところです。

 まず大きく変えたのが組織です。以前はタイトルごとの事業部に分かれていたのですが、2017年1月からエンジニアやデザイナーをまとめた「クリエイティブ本部」という部署を、事業部とは別に設置しました。つまりクリエーターを抱える差配部門と、ゲームビジネスを執行する部門とを分離したわけです。

 現在、社内のほぼ全てのクリエーターはこのクリエイティブ本部に所属していて、事業部側の各プロジェクトにアサインされるという仕組みになっています。他社ではよく見られる構造かもしれませんが、当社ではしばらく取り入れていませんでした。2018年1月からは、さらにディレクターやプランナーなどが所属する3つの事業部を1つに統合し、「エンターテインメント本部」という新しい部署を発足しました。ここは私が管轄しています。

――従来の事業部制から、そうした機能組織制に変更された目的はなんですか。

森先氏: まずは業務の効率化です。昨今の「働き方改革」という流れにしっかり対応しようという狙いもあります。これまではタイトルにひも付いたチーム制のようなスタイルだったので、限られたプロジェクトの中でしか人を動かせなかったり、あるプロジェクトで人が欲しいとなった場合に、事業部を超えて差配することが難しい状況でした。それを今回、クリエイティブ本部にスタッフをまとめたことで、全社横断的に人を行き来させられるような形になりました。

 現在、クリエイティブ本部には約500人のクリエーターが所属しています。会社単体で社員は800人くらいですから、「この組織自体がコロプラなんじゃないか」と言えるくらいですね(笑)。これが当社にとって、2017年の最も大きなトピックと言えるでしょう。また、2018年から事業部自体をエンターテインメント本部という1つの部署にまとめたことも同様の効果を狙った取り組みです。

――組織改革によって何か成果は上がっていますか。

森先氏:  例えば、既に運用している重要なプロジェクトで何か施策を打ちたいとなったとき、人員を流動的に動かしやすくなりました。これが自分のプロジェクトだけで人を抱えていると、あれも大事、これも大事となってなかなか動かせません。今の体制に変わってからは、こちらのプロジェクトは人数を増強する一方で、あちらは少ない人数で効率化しながら進める必要があるといった判断をしやすくなりましたね。また、新作を開発する場合も最適な人材配置をしやすくなりました。

 自らの成長のため、新たなプロジェクトへの異動を希望する声も上がりやすくなってきましたね。会社としては社員に色々な部署を経験してもらうことでノウハウを蓄積し、スキルアップにつなげるといった狙いもあり、社員もこうした変化に慣れてきたのではないでしょうか。とはいえ、長く一つのタイトルに携わりたい、同じメンバーと継続したものづくりがしたいという声もあり、うまく融合させていくことは今後の課題ですし、応えていきたいと思っています。組織改革に着手し1年たちましたが、今後もっと具体的な成果が出せるよう進めていきます。

『プロ野球バーサス』 一般社団法人日本野球機構承認 データ提供:データスタジアム プロ野球フランチャイズ球場公認 (C)2017-2018 COLOPL, Inc. 
『プロ野球バーサス』 一般社団法人日本野球機構承認 データ提供:データスタジアム プロ野球フランチャイズ球場公認 (C)2017-2018 COLOPL, Inc. 
『PaniPani-パラレルニクスパンドラナイト-』 (C)2017-2018 COLOPL, Inc.
『PaniPani-パラレルニクスパンドラナイト-』 (C)2017-2018 COLOPL, Inc.
『ディズニー ツムツムランド』 (C)2017-2018 COLOPL, Inc. (C)Disney (C)Disney/Pixar
『ディズニー ツムツムランド』 (C)2017-2018 COLOPL, Inc. (C)Disney (C)Disney/Pixar

安心して遊べるゲームを求めるユーザー

――昨年のインタビューでは、ユーザーの“熱量”がすごくて、想定以上のペースでゲームを消費し、次々別のゲームへと移っていく。だから、最初の段階で十分遊んでもらえるだけのコンテンツ量を用意しておく必要があるということでしたが、そうした状況に変化はありましたか。

森先氏: どんどん遊んで、新しいゲームをたくさんやろうといった状況はそれほど変わっていません。ただ2017年になって顕著に変わったのは、いわゆる“ゲーマー”という熱心な方々だけでなく、レイトマジョリティーと呼べるような一般の方々もスマホゲームを楽しむようになったことです。

 その結果、「IPモノ」といった有名なキャラクターを使用したゲームがランキングを席巻していますよね。つまり、安心して遊べるゲーム、自分の愛着心をくすぐるゲームを求めるお客さまが増えたという印象を強く持っています。コロプラが『白猫プロジェクト』のようなオリジナルタイトルだけでなく、『ディズニー ツムツムランド』のようなIPモノに力を入れ始めた背景には、こうしたユーザーさまの状況があります。

 元々コロプラはオリジナルタイトル寄りの会社ですから、その良さは生かしていきたい。さらに、ビジネスを考えればその上積みとして、他社のIPをお借りしてゲームを作れる力もないと、今の業界はなかなか生き抜いていけません。すでに熱烈なファンが存在している人気の高いIPや、一般の認知度が高いIPを使ったゲームなら遊んでみようと思ってもらえる方々に訴求できるメリットがありますからね。オリジナルと他社IPタイトルの両方を出していこうという方向が、2017年により強くなりました。

――実際IPモノに本腰を入れられて、どのような感想を持たれていますか。

森先氏: 『ディズニー ツムツムランド』は、ディズニーというものすごい知名度のIPですから、リリースしてすぐにダウンロードしてもらえる数は相当多かったですね。もし、今、『白猫プロジェクト』を出しても、これほどたくさんの方々に遊んでいただくのは難しかったかもしれません。そういう意味では『白猫プロジェクト』はいいタイミングでリリースできたし、時代にうまく合っていたのでしょう。

『白猫プロジェクト』 (C)2014-2018 COLOPL, Inc.
『白猫プロジェクト』 (C)2014-2018 COLOPL, Inc.

 逆に、現在は新規IPで参入することが、以前に比べて簡単ではなくなっています。問い合わせの内容を聞いていても、これまでのコロプラのユーザーの方たちと違ってよりライトな方々が多いなという印象があって、そうした人たちにも分かりやすく伝えなければいけないんだ……とか結構勉強になりました。

 また、「ファンの気持ち」というのを理解するのにもIPモノは役立ちましたね。彼らの期待に応えられるような表現や内容のゲームを提供する必要がありますから、そのIPを詳しく理解して“勘所”を外さないよう気をつけなくてはなりません。そこを分かっていないと、ファンの方にはすぐバレますから。さらにIPホルダーの方々は独自のしっかりした監修方法を確立されており、IPの育成に対する姿勢は非常に勉強になります。

 ただ自社オリジナルタイトルを大事にする姿勢は以前も今も変わっていません。他社IPを活用したゲームづくりとの両輪で、今後もユーザーさまに喜んでいただけるゲームを数多く届けていきたいです。

海外展開、今年は「中国をやる!」

――海外マーケットについて、2018年はどのような戦略を考えていますか。

森先氏: スマホゲームにおいて日本市場は“特殊”だという認識を持っているので、それ以外の国については現地の人たちとしっかり話し合ったり、うまく組んで展開したりといったことが必要だと感じています。自社の努力だけでなんとかやる、というのは難しいですね。

 どこの国だろうと、面白いゲームは面白いと感じてもらえると信じているので、本質として面白いものを作るという姿勢は変わりません。ただ、それぞれの国で個性や文化的側面が異なっているので、好まれるゲームや遊び方は違うことも理解しています。ですから、どんなゲームを展開するのか、どのようにカルチャライズするかなどは、現地パートナーのアドバイスを受けることが大切です。

 最近は中国市場に興味があって現地の方々とよく話をするのですが、中国でも人気ゲームの内容がどんどん変わってきているそうで、クオリティーも向上しています。プレーヤーのレベルも上がっているので、ゲームを見る目も肥えてきていることでしょう。そうした状況にあるからか、中国のゲーム会社との話し合いでも「中国マーケットを意識して変えたほうがいい部分もありますが、日本の会社が作ったゲームなんだから譲らなくていいんじゃないの」といった意見もあり、彼らはしっかり理解している印象を受けました。

――中国と日本で具体的にはどのような違いがあるのですか。

森先氏: プレーのスピード感は、日本に比べてはるかに速いですね。恐らく日本の3倍くらいのスピードでコンテンツを消化しているのではないでしょうか。ゲームで遊ぶ時間が長いこともありますし、オートプレーで勝手に進めていく遊び方、課金によって速く進める遊び方もあります。そういう状況では、対戦型ゲームのようにコンテンツ量がそれほど多くなくてもプレーを回せる仕組みが大事になると思いますね。ただし、日本の文化に対してリスペクトを持っているプレーヤーも多く、世界観や絵柄を無理に中国向けに合わせるといったことはないだろうなとも感じています。

 2017年は海外展開についてあまり明確に方針を打ち出していなかったのですが、今年は「中国をやる!」ということについてははっきりしています。以前に比べて、中国もだいぶ開かれてきましたから。なによりリターンが見込めるということもありますしね。基本は現地のパブリッシャーにお任せすることになりますが、私の本当の目的は中国オリジナルのゲームを出すことです。そのためにも中国でのビジネスの足場を固め、お付き合いする企業とのネットワークをしっかり築くことが大切です。

 また、北米市場が難しいのは間違いありません。人気タイトルが固定されていて、新規参入でランキングの上位に食い込むのは非常に困難です。この傾向は当分、変化しないでしょう。今後の可能性という点では、中国でヒットしたゲームが米国でランキングに入るというのがあり得るのではないでしょうか。

対戦ゲームのeスポーツ化も

――従来から力を入れて取り組まれているVR(仮想現実)ゲームに関する状況を教えてください。

森先氏: まず、1月30日からGoogleのVRプラットフォームである「Daydream」向けに、『Nyoro The Snake & Seven Islands』というゲームを配信し始めました。さらに今後はアーケード分野のVRゲームにも力を入れていきたいと考えています。やはりVR対応の機器を持っている一般ユーザーさまはまだ少ない一方で、アーケードなどでVRを体験してみようという人は増えていますし、話題にもなっています。施設向けのVRゲームの開発は進める予定で、VR事業単体でやっていけるくらいの収益を目指したいと思っています。

『Nyoro The Snake & Seven Islands』 (C)2018 COLOPL, Inc.
『Nyoro The Snake & Seven Islands』 (C)2018 COLOPL, Inc.

――eスポーツに対しては、どんなアプローチをお考えですか。

森先氏: もちろん興味はあります。先日、中国の広州に行ったのですが、ホテルから大通りに出るまでの間に2軒も“eスポーツ・カフェ”がありました。いわゆるスポーツ・バーのeスポーツ版です。ほんの短い距離だったのですが、そこに2軒ですよ。お客もたくさん入っていて、NetEase Gamesさんの『荒野行動』を遊んでいました。

 こうしたeスポーツの盛り上がりは、実際に目の当たりにしないと分からないですよね。米国、中国、韓国などではeスポーツなんてあって当然の世界なのですが、PCゲームより据え置きゲーム機やスマホのゲームが主流の日本では、ゲーム文化的に普及させるのはそれほど簡単ではないかもしれません。とにかく日本人は「PvP(人対人の対戦)」があまり好きではないですし、シューター系のゲームもそれほど多くの人がやっているわけではない。eスポーツはこうしたジャンルのゲームが中心なので、普及するのは難しそうだな、という印象を持っています。カード型対戦ゲームであればありかな……という気もします。

――eスポーツでうまくいきそうなゲームを作るという考えは今のところないのでしょうか。

森先氏: 『プロ野球バーサス』にしろ『白猫テニス』にしろ、うちは意外と対戦ゲームが多いんですよ。アクションゲームだってよく作ります。そう考えると、これらをeスポーツ化する手はありますし、ひとまずeスポーツの入口を作ることはできるかもしれません。具体的な計画はないのですが、今あるタイトルや今後作るタイトルでeスポーツに向いていそうなものがあれば、プローモーションを兼ねて大会を開催するといったことはあり得ますね。

――2018年に向けた戦略を教えてください。

森先氏: 新作については1月22日にリリースした『アリス・ギア・アイギス』、そしてコロプラ初の女性向けゲーム『DREAM!ing』の制作を発表しています。ほかのタイトルについても、そう遠くないうちにお知らせできると思います。今期の社内スローガンは「TRY」なんです。ですから、どんどんいいアイデアが出てきていますし、「これどうやって作ろうか」といった前向きな検討が以前よりもできるようになってきましたから、期待していてください。

『アリス・ギア・アイギス』 (C)2017-2018 Pyramid,Inc. / COLOPL,Inc.
『アリス・ギア・アイギス』 (C)2017-2018 Pyramid,Inc. / COLOPL,Inc.
『DREAM!ing』 (C)2017-2018 COLOPL, Inc.
『DREAM!ing』 (C)2017-2018 COLOPL, Inc.
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