DVDレンタル、通販、動画配信、FXなどを展開するDMM.comのゲーム事業として立ち上がったDMM GAMES。オンラインゲームプラットフォームとしてPCブラウザーゲームを中心に多くのタイトルを展開し、『刀剣乱舞-ONLINE-』などのヒット作を生み出している。現在はヒットしたPCブラウザーゲームを積極的にスマートフォンアプリに移行するなど、スマホ向けアプリゲームでも存在感を発揮している。ゲーム業界で独自の立ち位置から事業を展開しているDMM GAMESの戦略について、事業を立ち上げたDMM.com取締役でDMM GAMES代表の片岸憲一氏に聞いた。
(聞き手/久村竜二、写真/加藤 康)
パソコンとアプリで同じゲームをプレーできる環境を提供する
――DMM GAMESの成り立ちを教えてください。
片岸憲一氏(以下、片岸氏): DMM.comのゲーム部門として2011年に産声を上げました。元々、プラットフォーマーとしてさまざまな事業展開をしていることもあり、ユーザー資産を生かしながらゲームを開発・供給していけると思い、立ち上げたのが経緯です。僕はゲーム畑の出身ではなく、ゲームの開発経験もなかった。そこでDMM.comならではの強みを生かすために、まずPCブラウザーゲームで新規タイトルを提供して、そこで評判の良かったタイトルをスマートフォンのアプリへ移植、同時に広告費をかけて大規模展開するケースが多いです。
――そうした戦略は事業立ち上げ当初から変わっていないのでしょうか?
片岸氏: はい。DMM GAMESの強みは、PCブラウザーとスマホでキャラクターやレベルなどゲームのステータスをデータ連動できること、それによってどのデバイスからでも同じゲームをプレーできることです。DMM GAMESストアはもちろん、App StoreやGoogle Playで展開しているタイトルにもデータ連動できるものがあります。このように複数デバイスで、同じゲームを展開していくのが私たちの基本的な戦略です。PCでの展開だけだと、どうしても接触率が低くなりがちですが、スマホでも展開することで、外出先ではスマホで手軽にプレー、家ではゆっくりPCでプレー、というライフスタイルを提供できています。その点はやはりデータ連動ができるDMM GAMESの強みだと思います。
――現在のPCブラウザーゲームとスマホゲームのユーザー人数の比率はどのぐらいですか?
片岸氏: PCブラウザーゲームがメーンの会社なので、約3対1でPCが多いですね。おかげさまで現在では人気IP(ゲームのタイトルやキャラクターなどの知的財産)タイトルやサードパーティータイトルも多数扱うようになり、プラットフォームホルダーとして成長を続けています。われわれが率先して外部の開発会社に投資して、PCブラウザーゲームのタイトルを続々と供給できるような仕組みを作っています。
外部の会社と手を結びゲームを開発
――広く知られる『刀剣乱舞-ONLINE-』などは、外部開発会社が手がけています。
片岸氏: DMM GAMESでも内部の開発スタジオに300~400人のスタッフはいるのですが、開発から運営まですべてを一貫して担っているタイトルの売り上げは、全体の売上の10%ぐらいでしょうか。ゲーム開発は社内で抱え込むのではなく、外部の会社さんと組み、運営をDMM GAMESがしっかり担うのが良い役割分担だと思っています。僕自身がPCゲームユーザーでゲームプラットフォームのSteam(米Valve社によるPCゲームのダウンロード販売プラットフォーム)が大好きなんです。DMM GAMESを和製Steamのような存在にできればというのが長期的な目標です。
――2016年を振り返るといかがですか?
片岸氏: 反響が大きかったのは『刀剣乱舞-ONLINE-』のスマホアプリのリリースです。PCブラウザー版のユーザーがアプリとデータ連動できるようにすることで、アプリの利用率が上がると想定していましたが、PCブラウザー版を利用していた層とアプリを利用する層が予想以上に異なっており、新規の女性プレーヤーがすごく増えました。
――『刀剣乱舞-ONLINE-』のユーザー数は?
片岸氏: PCブラウザー版の登録数は約170万人、アプリはiOSとAndroidを合わせて約280万ダウンロードです(2017年1月現在)。スマホ展開により、若いユーザーが増えたのも特徴です。サービス開始から約2年がたちますが、新キャラクターが登場したときの盛り上がりはすごいですよ(笑)。共同制作会社のニトロプラスさんが『刀剣乱舞-ONLINE-』をとても丁寧に作られているので、長く皆さんに愛されるタイトルになっていけばいいな、と考えています。
今後はメディアミックスも視野に
――PCブラウザーゲームからスマホアプリへ移植する難しさはありますか?
片岸氏: 技術的な難易度より、運営面の難しさを感じます。同じタイトルとはいえ、PCとスマホではユーザーさんの嗜好や行動が異なるので、実質2つの運営ラインを走らせているのと同様のサポートが必要になるんです。なので、PCブラウザーゲームとスマホアプリを同時にスタートするのではなく、PCブラウザーゲームでの体制をしっかり整えてからスマホアプリに展開していくスタイルを採っています。そうすることで、PC向けのプラットフォームからユーザーを集客しつつ、データ連動でスマホアプリにもユーザーを流せる。効果的にゲームを認知させることに成功しています。
――『刀剣乱舞-ONLINE-』などは、アニメ化や舞台化などの展開も活発です。
片岸氏: このタイトルに関しては、DMM GAMESはあくまでもゲーム内におけるイベントの企画立案およびマーケティング戦略に注力しており、それ以外の展開は共同制作会社のニトロプラスさんにお任せしています。当初は、あまり幅広く手がけると、肝心のゲーム運営がおろそかになってしまうのではと考えていました。ただ、タイトルの展開規模がどんどん大きくなっていくのを見て、今後の新規タイトルでは、例えばゲームとアニメを同時に開発するなどメディアミックスを意識していきたいと考えています。
2017年も人気PCブラウザーゲームのアプリ版に期待
――CygamesのスマホアプリもDMM GAMESでPCブラウザータイトルとして展開していますね。
片岸氏: 『グランブルーファンタジー』についてはGoogle Chrome版をチャネリング展開されていた経緯もあり、『Shadowverse』と併せてDMM GAMESプラットフォーム上でのPC展開につながりました。おかげさまで今では一定の評価とご支持をいただいております。
――2017年に期待しているタイトルを教えてください。
片岸氏: まずは2016年末にスマホアプリを配信した『一血卍傑-ONLINE-』、こちらは2017年も引き続き注力していきます。また、5月ごろに『神姫PROJECT』のスマホアプリ、2017年内に社内開発タイトルの『文豪とアルケミスト』のスマホアプリの配信を検討しています。
PCからアプリへの移植は吟味して
――スマホアプリのリリースは増えていくのでしょうか?
片岸氏: 現在ユーザーさんに満足していただけるクオリティーのゲームを作るには、スマホアプリでは3億~5億円ぐらいの開発費が当たり前になってきています。一方で、PCブラウザーゲームは1億円弱程度。なので、まず面白そうな企画はPCブラウザーゲームとして開発して、約1500万人のユーザーさんがいるDMM GAMESのプラットフォームで評価していただく。そこで人気が高かったタイトルをアプリに移植というスタイルは変わりません。
――スマホアプリ『三国ブレイズ』では中国の人気タイトルを言語だけのローカライズで日本で配信しました。
片岸氏: 『三国ブレイズ』は中国でセールス3位になったこともあるタイトルです。ひと昔前なら各国ごとにゲームのチューニングが必要といわれていましたが、あえてパラメータなどゲームのチューニングをせず、言語だけ変更して日本でリリースしました。結果、中国ほどの売り上げには届かなくとも、月間で1億円を超える課金額となりました。ゲームシステムやゲームバランスに国境はなくなってきていると感じましたね。一方で、やはりキャラクターのデザインや設定は日本の方が強いということも再認識したので、次はそこをうまく組み合わせた作り方に挑戦してみたいです。
――PCコアゲーマー向けの北米作ロールプレイングを移植した『エルダー・スクロールズ・オンライン 日本語版』のようなタイトルは今後も続くのでしょうか?
片岸氏: 欧米圏ではこうしたタイトルをPCで楽しむ文化が根付いていますが、日本では家庭用ゲーム機が中心で、なかなかすそ野が広がらず、難しいというのが、正直な実感でした。とはいえ、今後もいいと思えるタイトルと機会があれば続けて挑んでいきたいジャンルです。
――現在VR(仮想現実)が注目されていますが、VRについてはどうお考えですか?
片岸氏: 既に『刀剣乱舞-ONLINE-』のコンテンツをお借りしてVR事業にも取り組んでいます。ただ、現在はまだVRという言葉がひとり歩きしている段階という気がします。VRは現実感が抱けないとすぐに冷めてしまいがちなので、ゲームに組み込むのは難しいと感じていますが、その一方で、キャラクターと仮想的に会える体験ができるということは感動的で、非常に価値が高い。こうした感動できる体験をVRを生かしてユーザーさんに届けていければと思っています。