パナソニックが、2018年3月に創業100周年を迎える。その節目を迎えて開発した「Creative! セレクション」を発表した。第1弾商品群として、ななめドラム洗濯乾燥機やロボット掃除機、ルームエアコンなど13商品がラインアップされた。

パナソニック創業100周年「Creative! セレクション」
パナソニック創業100周年「Creative! セレクション」

100年周年で作った製品を記念モデルとは呼ばない

 Creative! セレクションという名称には「毎日をちょっとクリエイティブにする」新たな住空間を実現する商品という意味が込められている。

 100周年を機に開発した商品でありながら、同社はこれらを「100周年記念モデル」と呼ばない。あくまでも「創業100周年を機に開発した商品」としている。

 それには3つの理由がある。1つは、100周年という節目を、対外的なマーケティング活動には使わないと社内で決めたことだ。

 パナソニックの津賀一宏社長は、「100周年の節目において、よりグローバルに、より挑戦を広げていくことは大切である」と前置きしながらも、「我々の100周年という話は、社内のことであり、多くの人には関係がない話である」と語る。

 2つめは、「100周年記念モデル」として仕掛けがしにくい商品が多いということだ。

 2016年、同社のノートパソコン「レッツノート」が発売20周年を迎えた際には、20周年記念モデルを用意した。ノートパソコンような商品は、常に持ち運んで使用したり、自分好みのスペックに仕様を変更したりすることで嗜好性や所有欲が高まるタイプの商品である。そうした商品であれば、記念モデルという特別仕様の商品は意味があるといえよう。多くのファンが飛びつく可能性も高い。

 だが、Creative! セレクションで主力となる白物家電は、日常生活のなかに組み込まれて使われる商品で、嗜好性が高くない。100周年記念モデルとして、マーケティングがしにくいのだ。

 そして、3つめは、100周年記念モデルと位置づけた場合、100周年を超える2019年以降、これらの商品は過去のものとなってしまい、マーケティングの観点からもマイナスになるということだ。

 パナソニックでは、100周年を到達点ではなく、通過点として捉えている。100周年にあわせたキャンペーンでも、「次の100年をつくろう」や「Change for the Next 100」をキーワードに掲げ、2018年を次の100年に向けたスタートと位置づけている。

 執行役員 コンシューマーマーケティングジャパン本部の河野明本部長は、「Creative! セレクションは、第2弾以降の商品もあり、2020年までは継続して出していきたい」とも語っている。

 こうした観点から見ると、「100周年記念モデル」という表現を避けたパナソニックの想いも納得できる。

商品のインパクトは薄い

 100周年記念モデルとは呼ばないCreative! セレクションだが、100周年をターゲットに開発してきた商品であるのは明らかだ。

 常務執行役員 CS担当 アプライアンス社上席副社長 日本地域コンシューマーマーケティング部門長の中島幸男氏は、「約3年前から準備してきた。よりよい暮らしを実現し、生活の質を高めることができる商品づくりを目指し、商品企画や技術部門、マーケッター、デザイナーが、同じ方向性を持って取り組んできた商品群である」とする。

 だが、今回発表した13商品のうち、半数を超える7商品が既発表の商品であることから、100周年という節目を象徴するにはインパクトが弱い。

 デザイン面では、肉を360度炙り焼きできる「ロティサリーグリル&スモーク」はユニークだ。ほかに、ドラム洗濯乾燥機「Cuble(キューブル)」やロボット掃除機「RULO(ルーロ)」も、シリーズを通じて斬新なデザインを継承している。とはいえ、これらのデザインは既に見慣れてしまっているため、驚きは小さい。

360°回転で柔らかジューシーなかたまり肉を楽しめる「ロティサリーグリル&スモーク」
360°回転で柔らかジューシーなかたまり肉を楽しめる「ロティサリーグリル&スモーク」

 100周年を機に開発した商品としての一貫性や、マーケティング戦略の弱さも気になるところだ。Creative! セレクションの主要ターゲットは、子供を持つ共働きの30~40代(「double employed with kids」の頭文字をとってDEWKS=デュークスと呼ばれる)としている。

 それでいて、50~60代の目利き世代を対象にしたJコンセプトシリーズの紙パック式掃除機や、アクティブシニア層を対象にした新たな補聴器もCreative! セレクションにラインアップしているのだ。ターゲット層と100周年の間に関連性がなく、その上、ターゲット層と異なる層に向けた商品も含まれている点にチクハグ感があるのは否めない。

パナソニックの変化と挑戦

 それでも、パナソニック社内を取材してみると、社内的にはひとつの線が通っているようだ。それは同社の“背骨”と表現してもいいものかもしれない。

 というのも、Creative! セレクションへの取り組みを見ると、パナソニックの「モノづくり」の手法が変わり、「コトづくり」への新たな挑戦が始まっていると感じるからだ。そして、パナソニックそのものが変化しているということも感じる。

 同社は、Creative! セレクションの発表とともに、「Creative!」キャンペーンをスタートした。このキャンペーンではテレビCMや新聞広告、特設サイトなどを通じて、パナソニックのこだわりのモノづくりに加えて、パナソニックが新たに取り組むコトづくりに関する発信も行っている。

 変化と挑戦は、キャンペーンの一環で設けられた特設サイトで展開中の動画「Creative! ストーリー」から感じとれる。そこでは、パナソニックのイメージキャラクターである俳優の綾瀬はるかさん、西島秀俊さん、遠藤憲一さん、水原希子さんたちが、100周年にあわせて発売される商品に携わったパナソニック社員と対談し、モノづくりやコトづくりについて、本音で語り合っている。

 登場する社員たちには、そこには、開発部門のエンジニアだけでなく、マーケティング部門やデザイナー部門、品質管理部門、コンタクトセンター部門の社員も含まれるのだ。

 コンタクトセンターなど製品開発に直接かかわらない部門の社員まで登場させたのは、電気製品を作ってきたメーカーとして、電気製品をただ作るだけではなく、電気製品を活用して、生活をどうクリエーティブに進化させるかということを意識しているからだろう。

パナソニックのイメージキャラクターである綾瀬はるかさん、西島秀俊さん、遠藤憲一さん、水原希子さん
パナソニックのイメージキャラクターである綾瀬はるかさん、西島秀俊さん、遠藤憲一さん、水原希子さん

「タテパナ」と「ヨコパナ」

 パナソニック社内には、「タテパナ」と「ヨコパナ」という言葉がある。

 従来のような垂直型の組織構造を前提としたビジネス手法が「タテパナ」であり、それを生かしながら、横のつながりによって新たなものを生み出そうという手法が「ヨコパナ」。津賀社長が掲げてきた「クロスバリューイノベーション」も、言葉を変えれば「ヨコパナ」だ。このヨコパナでの発想が、コトづくりの実現につながっている。

 最後にもうひとつ、Creative!キャンペーンに関して、あるエピソードに触れておきたい。

 同社は、1964年にLIFE誌に掲載された松下幸之助氏と数々のパナソニック商品が並ぶ写真をモチーフにし、100周年の新たなカットをキャンペーンで使用している。

 このカットには、綾瀬はるかさんや西島秀俊さんをはじめとするパナソニックのイメージキャラクターに加えて、パナソニックの社員が一緒に写っているが、このなかに、津賀一宏社長も写っている。

1964年にLIFE誌に掲載された松下幸之助氏と数々のパナソニック商品が並ぶ写真
1964年にLIFE誌に掲載された松下幸之助氏と数々のパナソニック商品が並ぶ写真
100周年を記念する新たなカット。Creative!の製品と社員、津賀社長も参加している
100周年を記念する新たなカット。Creative!の製品と社員、津賀社長も参加している

 実は、津賀社長の参加が決定したのは、撮影10日前のことだったという。10日前に、偶然スケジュールが空いていることを知った社員の提案で、津賀社長の日程を押さえて、参加が実現した。 幸之助氏の写真をモチーフにしていた写真撮影で、社長不在で企画が進んでいたことも、社外の人間から見れば驚きだが、それをわずか10日前に、偶然スケジュールが空いていることを知った社員の提案で、参加を実現させたことにも筆者は驚いた。中堅、中小企業ならばともかくパナソニックという大企業において、10日後の社長のスケジュールを社員の提案で変更するということは普通ではない。パナソニックの「社内ルール」に則れば、現場からトップまで、いくつもの階層の承認を得て、物事が決まるのが通常の仕組みだからだ。

 こうしたパナソニックの従来の社内ルールを超えたスピード感を持った動きが、「Creative!」の成果のひとつだとすれば、パナソニックは、この100年を機に大きく変化したといえるかもしれない。

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