2014年11月の発売から累計約500万個の大ヒットを飛ばしている口金型リュックのブランド「アネロ」。その直営1号店が、11月25日、大阪・心斎橋にオープンした。
店舗は大勢の外国人観光客が行き交う心斎橋筋商店街と交差する長堀通沿いにあり、グローバル旗艦店の位置付け。オープンから連日、4000人近い客が訪れ、その8割が外国人観光客という。香港、タイ、台湾、韓国などアジアからの観光客が大半だ。
台湾から来た31歳の女性は「台湾でアネロは有名。まだ持っていなかったので買いに来た。豊富なラインアップからチョイスできて安いのがいい」と話す。香港から来た女性は「アネロは安いので香港では特に若者に人気。迷彩柄の口金リュックを持っているので今日はショルダーバッグを買った」。バンコクの女性も「タイでは人気のブランド。トラベルバッグはほかにもあるけど、アネロのリュックは見た目がおしゃれで多機能なのがいい。日本で買えば安い」といい、3点で計1万2800円分を購入した。ちなみにタイでの小売り価格は日本の約1.3倍だ。
アネロの中心価格は1900~4000円だが土産用にまとめ買いする客が多く、平均客単価は1万円弱に上る。 日本国内のみならず海外にも人気が拡散し、いまだに勢いが止まらない“アネロ旋風”。SNS時代ならではのモンスター級ヒット商品誕生の背景には、意外にも昔ながらのビジネススタイルが大きく関係していた。
口金リュックを中心に常時100種をそろえる
大阪市営地下鉄心斎橋駅から徒歩約3分。長堀通に面したアネロの直営店には、開店前から十数人の客が集まっていた。11時の開店以降も客足は途切れず、通りがかりの人も店内のにぎわいに吸い寄せられていく。
前日の大阪マラソンに参加し、たまたま店を見つけて立ち寄ったという青森の女性は、商品選びに悩んでいる様子。「アネロのリュックは持っているが、青森には取り扱っている店も品ぞろえも少ない。こうしてじかに見られる機会がないので、いろいろ見て決めたい」と話す。
アネロ初の直営店は、1フロア350平方メートルの売り場にフルラインをそろえる。ブランドアイコンの口金リュックをはじめ、全体の5割近くがリュックで、常時100種のバッグを展開。口金リュックについては1素材で25色もある。「カラーとデザインのバリエーションが豊富なのもブランドの特徴。それを売り場できちんと見せながら、ブランドの世界観を直接エンドユーザーに伝えるため、情報発信の場となる店を作った」と、キャロットカンパニー東京支店メディアマーケティング部の新富美子課長は説明する。
アネロはユニセックスのブランドだが、店内では女性向けのバッグブランド「レガート・ラルゴ」も販売。同店の大下芳寛店長によると、「口金リュックしか知らない人にも新鮮に映っているようで、女性客には人気が高い」という。
さらに、旗艦店限定商品も用意。お土産として好評のブランドロゴ入りトートバッグのほか、日本製の口金リュックやバイヤーの声から生まれたキャリーケースなど、2万円前後の商品も初めて登場した。
子育てママと海外で広まったアネロ旋風
口金リュックが爆発的なヒットとなったアネロだが、実はブランドがスタートした2005年から売れ続けているという。もともとは20歳前後の男女がターゲットで、安さと使いやすさから学生の愛用者が多かった。さらに、東日本大震災を機にリュックのニーズが急速に高まり、女性にとって持ちやすいリュックとして注目されるようになった。
アネロ旋風が巻き起こったのは、2014年11月に口金リュックが発売されてからだ。「リュックの上部が口金型でガバッと開くので、モノの出し入れがしやすく、探しやすい。哺乳瓶や子供の玩具をすぐ取り出せると、子育て中の若いお母さんたちから支持され、それまで扱っていなかったバッグ専門店や百貨店などにも売り場が広がっていった」と、同社の吉田剛社長は振り返る。
同じ時期、香港の人気ブロガーがマザーズバッグとして口金リュックの使いやすさをSNSで発信。台湾やタイなどアジアに人気が拡大するきっかけとなり、業者も含め日本に買いに来る人が増えた。
同社のビジネス形態が卸事業だったことも、ヒットの一因といえる。近年、ファッション業界では自社で企画製造するSPA(製造小売業)が主流だが、店舗がないエリアでは認知度が低くなる。一方、卸ビジネスはブランドの世界観を表現できないなどのデメリットはあるが、全国の専門店で販売できる。同社は雑貨店やアパレル専門店を中心に、全国に販売チャネルを展開。エンドユーザーがアネロブランドを目にする機会が多かったことも、SNSの拡散スピードを加速した。
「街で最近よく見かけるが、どこのブランド?」という投稿にみられるように、謎のブランドながら高い認知度だったのは、そんな背景があったからだ。
「正直、この2年で伸ばしすぎた」
ものづくりに対する考え方や姿勢がヒット商品を生み続けていることも見逃せない。同社では「ブームに終わらず、長く売り続けるためのものづくり」を重視。トレンドをほどよく取り入れたシンプル&ベーシックな定番商品が中心で、3~5年以上売れている品番が多い。口金リュックで一躍有名企業となったが、これまでにも100万個販売したヒット商品がいくつかあるという。
「ゆっくりでいいので長く売り続けるのが当社の文化。発売していきなりヒットするというよりは、じわじわと売れてあるときに火がつくことが多い」と吉田社長。実際、口金リュックも発売直後はひと月に5000個ペースだった。それが翌年春に月5万個売れ始め、最近では月20万個ペースで売れている。
長く売り続けるために欠かせないのが、顧客の声を反映したマイナーチェンジの積み重ねだ。例えば、口金リュックは当初、背面左脇にファスナーはなかったが、1年後には背負ったままでモノを取り出せるようにし、利便性を高めた。新作には、ノートパソコン収納用のポケットも付いている。
こうした地道な企業努力の結果、同社の2017年6月期売上高は118億円を達成。2年前に比べて2.7倍に急伸した。海外市場については、昨年10月、タイの企業と提携し、オフィシャルショップをオープン。タイ国内では40万本売れているほか、香港やフィリピンでの販売も本格化しているという。
「正直、この2年で伸ばしすぎたと思っている。今期は社内体制を整備し、ふんどしを締め直してなだらかな成長に持っていきたい」と吉田社長。とはいえ、グローバル旗艦店の繁盛ぶりを見るかぎり、その成長スピードは当分減速しそうにない。むしろ、ブランドとして確立されたいまからの展開が楽しみなブランドだ。
(文/橋長初代)