スーパーマーケットとレストランが融合――。創業90周年を迎えた成城石井が2017年9月29日、“グローサラント型”店舗を旗艦店としてオープンした。場所は、同日オープンの新商業施設「トリエ京王調布」。全国157 店舗中、最大面積となる売り場に1万1500アイテムの商品をそろえ、飲食を提供する SEIJO ISHII STYLE DELI&CAFE(以下、スタイル デリ&カフェ)を併設している。
グローサラントとは耳慣れない言葉だが、食料品店を意味する「グロサリー」と「レストラン」をかけ合わせた造語で、レストランレベルの食事を店内あるいは店舗敷地内で提供するサービスとして、今米国で注目を集めている業態だという。だが、イートインスペースを併設した食料品店は近年、特に珍しくはない。つい最近も、東京駅グランスタにイータリーと茅乃舎が、イートインスペースを併設した店舗をオープンし、話題になったばかりだ(関連記事「東京駅で美食新体験! 茅乃舎とイータリーが同時出店」)。従来のイートインとグローサラントはどう違うのか。
成城石井コーポレートコミュニケーション室の五十嵐隆室長によると、購入した食品を食べることができるだけのイートインとの大きな違いは、「食材の共通化」。スタイル デリ&カフェではほぼ100%、成城石井で仕入れた食材を使用するという。「スーパーマーケットの調達力を活用することで、他店ではなかなか出せない価格で提供できる。また旬の食材を総菜などで販売する場合、数週間かかることもあるが、外食ならばその日に仕入れた旬のものをすぐ提供できる」(五十嵐室長)。つまり成城石井の店頭に並ぶ旬の食材を新鮮な状態でスピーディにメニュー化し、価格も抑えられるのが強みというわけだ。
いったいどんなメニューを提供するのか。オープン直前の試食会で確かめた。
黒毛和牛たっぷりのハンバーガーが990円
成城石井トリエ京王調布店があるのは、調布駅直結のトリエA館1階。ロータリーに面した中央口から東口までを貫くように位置し、スタイル デリ&カフェは東口の改札すぐ近くにある。レジカウンターで注文品をあらかじめ精算し、ドリンクはその場で受け取り、料理はマイクで番号を呼ばれたら自分でカウンターに取りに行く完全なセルフシステムだ。サービススタッフの人件費を最小限に抑えることで、料理の価格を抑えているとのこと。
五十嵐室長によると、同店で提供するメニューの軸となるのは4つ。「ハンバーガー」「ステーキ」「パスタ」「ピザ」を季節によって3~4種類のバリエーションで展開し、さらに1日30食限定のハンバーグ、特に良い素材が手に入ったときに限って魚介のフライ料理なども提供する。
特にハンバーガーは成城石井初のチャレンジとあって、研究を重ねたという。パティに未冷凍の黒毛和牛を100%使用し、精肉売り場で手ごねしたものを60gに成型。2段重ねのダブルパティで仕上げている。これはパティの火入れにかかる時間を短縮し、提供スピードを短縮するための工夫。付け合わせのフライドポテトにはスイートチリソースが添えられているが、これも成城石井の監修で開発して輸入した製品。おいしさを実際に知ってもらうことで、購入につなげるのが狙いだ。
3種類を食べてみたが、2段重ねのダブルパティになっていることで、和牛の柔らかさとボリューム感を強く実感。バンズのおいしさにも驚いた。ファストフード店のバーガーとはもちろん雲泥の差で、昨今のグルメバーガーにも負けない味わいに、990円という価格はむしろ安く感じた。
ほかにおトクだと感じたのは、デザートやドリンク類。スムージーは非常に濃厚で味がよく、量もたっぷりで350円。グラスワインは300円からあり、ランチタイムには200円で提供(ドリンクランチセットのみ)。250円のジェラートも高級店レベルで、添えられたサブレはバターが香るリッチな味わい。パスタは4種類の麺から選べ、100円プラスで糖質をカットしたロカボ麺を選ぶことができる点もその場にいた女性に好評だった。
料理はファミレスなどと比較すると高めの価格設定ではあるものの、クオリティーから考えると割安だと感じた。
なぜ1年に2つの旗艦店をオープン?
成城石井は半年前の2017年4月にも、旗艦店として池尻大橋店をオープンしたばかり。今回のトリエ京王調布店が、池尻大橋店に代わって新たな旗艦店になるのかと思いきや、そうではないという。「池尻大橋店は、成城石井の原点である『会話のできるスーパー』に立ち返り、創業当時から愛されてきた製品を再現したり、スタッフの数を増やしたりしている店舗。トリエ京王調布店は、成城石井の未来を先取りしていく店舗。この2店舗を旗艦店としていく」(五十嵐室長)。同社では今後は日本でも多くのスーパーでグローサラントが定着していくと見ており、まずはこの店で成功させ、多店舗化を目指す考えだ。
成城石井が運営する飲食店といえば、ワインバー「ル バー ラ ヴァン サンカンドゥ アザブ トウキョウ」がなじみ深い(関連記事「恵比寿の“新しい食堂”!? 『アトレ恵比寿西館』大解剖」)。同店の強みは、ワインバーよりもファミリー向けのメニューで、買い物帰りに子供連れで立ち寄りやすいことだろう。子どものうちから成城石井のブランドイメージを定着できることを考えると、長期戦略としても効果があるかもしれない。
(文/桑原恵美子)