インバウンド(訪日外国人)の急増に伴い、ホテルの客室稼働率が高止まりの関西では、今年も宿泊施設の開業ラッシュが続く。そんななか、ラグジュアリーホテルやビジネスホテルのみならず、町家をリノベーションした施設や新タイプのカプセルホテルなどが続々登場。関西国際空港に発着する格安航空(LCC)の増便などによって個人旅行やリピーターが増えている。
6番目のUSJ公式ホテルを手がけるのは業界の異端児
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの最寄り駅、JRユニバーサルシティ駅の改札に直結する絶好のロケーションに8月26日オープンしたのが、「ザ シンギュラリ ホテル&スカイ スパ アット ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのオフィシャルホテルとしては6番目。周辺には「ホテル京阪 ユニバーサル・シティ」と「同タワー」(ホテル京阪)、「ホテル近鉄 ユニバーサル・シティ」(近鉄・都ホテルズ)、「ホテル ユニバーサル ポート」(オリックス不動産)、「ザ パーク フロント ホテル アット ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(東急ホテルズ)が建ち並ぶ激戦区だ。
同ホテルを運営するのは、既成観念を覆す発想で業界に新風を吹き込んだ「カンデオホテルズ」だ。リーズナブルな価格とシティホテル並みの機能性を兼ね備えたホテルをコンセプトに2005年に創業。ザ シンギュラリ ホテルは同社が手がける15番目のホテルとなる。客室数は390室で、フラッグシップホテルという位置づけだ。
カンデオ・ホスピタリティ・マネジメントの穂積輝明会長兼社長は、「5つ星ホテルは高くて気軽に使えないし、3つ星では寂しい。その中間を意識している。5つ星ホテルほどゴージャスでなくても非日常の感覚が楽しめるホテル、という独自のポジションをめざしている」という。
初のUSJオフィシャルホテルを手がけるにあたり、同社ではアジア各国に出向き、訪日外国人のニーズを徹底的に調査。その声を朝食や大浴場などに反映させ、さらに内装の仕様も既存ホテルに比べてグレードアップさせた。「出店するたびに改善とチャレンジを繰り返している。通常のチェーンオペレーションとは違うやり方だ」(穂積会長兼社長)。
風呂好きのアジア人が喜ぶ、天空に浮かぶ大浴場
カンデオホテルズの最大の魅力が、「3Bのキラーコンテンツ」(同社の倉地恵太取締役)。3Bとは、Bath(展望大浴場)、Breakfast(朝食)、Bed(ベッド)。リーズナブルなホテルだと妥協せざるを得ず、二の次になってしまう。同社は顧客満足度アップを図るべく、この3Bに狙いを定めている。そこで、実際にザ シンギュラリ ホテルに宿泊し、ホテル内部をチェックしながら快適度合いを体験してきた。
まず、旅館や一部のビジネスホテルにしか見かけない大浴場。客室にもユニットバスは設置されているが、風呂好きにとってホテルに大浴場があるかどうかは大きなポイントになる。
同ホテルの展望大浴場「スカイスパ」はホテル最上階の14階。15時から翌日の11時まで、宿泊客は無料で利用できる。広い湯船にゆっくり浸かり、ウォーターフロントの夜景を望みながら時間を気にせず過ごせるのは、高級ホテルでもなかなか味わえない体験だ。女湯と男湯の間にはソファが並ぶ休憩室もあり、そこからも夜景を楽しめる。
「7月に開業したカンデオホテルズ大阪なんば店は9割が海外からの観光客。現地リサーチでは香港などアジアの人は日本のお風呂が好きで、大浴場に入りたいというニーズがあった」と穂積会長は話す。ただ、入浴時間が集中すると混雑してゆっくり入れない事態も考えられる。そのため、大浴場の混雑状況を客室のテレビで確認できるサービスを導入。スカイスパには、内湯のほか広い展望露天風呂とサウナもあり、エリア内では随一の規模だ。
ファミリー客を意識してリーズナブルに
宿泊料金は、エグゼクティブソファツインが2人利用で1人7900円~、3人利用で1人6300円~。個室露天風呂付きのキングルームは、朝食付き2人利用で1人2万250円~、朝食付きのスイートルームは4人利用で1人1万7250円~など(9月14日時点)。
客室はほとんどが20~22平米で、ファミリー客を意識した設計になっている。例えば、今回初めて取り入れたという小上がりスペースは、「子供とオフィシャルホテルに泊まりたいという親心に応えたもの」(穂積会長)。「ザ シンギュラリデラックスツイン」には、150cm幅のベッドのほかに、小上がりをイメージさせるリビングソファを用意。専用の敷布団と掛け布団をかければ、夜はベッドに早変わりする。大人3人プラス子供2人まで泊まれるので、宿泊コストを抑えられるのが魅力だ。
ベッドは高級ベッドメーカー・シモンズのポケットコイルマットを全室に採用。一方、部屋置きのアメニティをなくし、ホテルロビーにアメニティバーを常設するなどしてコストを省き、リーズナブルな宿泊料金を実現しているという。
「宿泊稼働率は80%を目指している」と倉地取締役。USJのオフィシャルホテルの中には宿泊稼働率95%以上のホテルがあり、市内の平均稼働率を考えても目標は軽く達成されるはず。大浴場付きで手ごろな価格の同ホテルは、価格重視の旅行客からも人気を集めることだろう。
(文/橋長初代)