2018年9月25日、日本橋高島屋の新館が開業。これに合わせて、本館、東館、ウォッチメゾンを加えた4館を「日本橋高島屋S.C.」とし、総売り場面積6万6000平方メートルの大型ショッピングセンターが誕生した。新館、本館、東館は連絡通路でつながっており、「S.C.を通して街歩きをしているような感覚を味わってほしい」と高島屋日本橋店の田中良司店長は話す。
新館は日本初上陸や商業施設初出店を含めた115店舗のテナントが入る専門店。テナントの約4割が飲食店で、東京・世田谷の玉川高島屋S・C、新宿駅前にあるタカシマヤタイムズスクエアなど既存の専門店事業に比べても約1~2割ほど多いという。
さらに特徴的なのは、その営業時間だ。通常、百貨店や専門店は午前中に一斉開業し、ほぼ同時刻に店を閉める。例外があるとすればレストランフロアの営業時間が1~2時間長いという程度だろう。だが、この高島屋新館は各テナントの営業時間にかなりのばらつきがある。例えば、同じテイクアウトの飲食店でも7時半から開く店もあれば10時半からという店も。また、平日、土日祝日で開店時間が変わる店舗も多く、利用者は慣れるまでに時間がかかりそうだ。
日本橋は「朝遅く、夜早い」という不満の声に対応
店舗によって異なる営業時間を設定したきっかけは、日本橋高島屋周辺を訪れる人から寄せられた不満の声だった。日本橋から東京駅八重洲口エリアにかけてオフィスの再開発が進んでいることもあり、通勤で日本橋駅を利用する人が増加。だが、日本橋駅周辺にはコンビニが数軒あるだけで、朝から営業しているカフェは常に混雑している状態。「『出勤時に立ち寄る店がない』という声をよく聞く」と、新館の開発にあたった東神開発 日本橋事業部の清瀬和美事業部長は話す。また、日本橋駅から半径5km圏内では臨海部を中心にマンションの建設ラッシュも続いており、30代を中心とした世帯も周辺に増えている。「若い世帯は共働き率が高いが、『日本橋は夜が早いので、総菜などが買えない』という声もあった」(東神開発の清瀬事業部長)。
本館の営業時間はレストラン街を除いて10時半から19時半。「デパ地下」にはテイクアウトの総菜や弁当があふれているが、この営業時間では出勤時や帰宅時に利用できないという人が多いのも頷ける。そのため、新館ではそれぞれのニーズに対応するため、営業時間を“バラバラ”に設定したというわけだ。
通勤の通り道にしてもらいたい
新館の1階には約20のテナントがあるが、そのうちの半数が平日は7時半から営業する。粥専門店やカフェ、サンドイッチの店などの飲食店だけでなく、シューズリペア店も含まれる。「施設が7時半から開いているので、地下鉄を出てオフィスに向かう通り道としても利用してもらいたい」と清瀬事業部長は話す。
また、4階にはフィットネスクラブを運営するティップネスが手がけた、女性専用のヨガスタジオ「libery(リベリー)」もあり、ここも平日は7時半から22時半まで営業する。出勤前の“朝活”として利用してもらうのが狙いだ。5階には「日本橋周辺には店舗が少ないのでニーズが高かった」(清瀬事業部長)というスターバックスコーヒーが出店。「オフィス街という場所柄、商談の場としても使ってもらいたい」と同氏。
「デパ地下」に足りなかったイートインが充実
また、地下1階の食料品フロアは、ほぼ全ての店にイートインスペースを設けている。フロア面積は本館の約半分だが、デパ地下にはほとんどないイートインスペースを充実させることで、豊富な品ぞろえを売りにした本館との差異化を図る。
インバウンド需要や国内消費の好調を受け、高島屋の18年2月期の国内百貨店営業収益は7786億円と前年比プラス2.8%の増収。だが、「国内百貨店を取り巻く環境は決して平坦ではない」と同社の木本茂社長は話す。同社はかねてから百貨店と専門店を融合して館(やかた)の魅力を最大化し、地域と共生する「まちづくり戦略」を掲げてきた。まさにこの高島屋新館はオフィスワーカーや周辺居住者の「生活者目線」に合わせた館といえるだろう。観光客による一時的な消費やハレの日としての利用ではなく、日常的に使われる場所になれるかどうか。それが、これからの百貨店の生き残りを左右するのかもしれない。
(※「日本橋高島屋新館グルメ ワーカー向けに『全時間対応』」に続く)
(文/樋口可奈子)