50年間、銀座・数寄屋橋交差点のランドマークだったソニービルが営業を終了してから約1年半。2018年8月9日、その跡地に、「Ginza Sony Park(銀座ソニーパーク)」がオープンした。2022年に新ソニービルが竣工するまでの期間限定施設(2020年秋まで)。地上から地下4階に飲食店やコンセプトショップなど全6店舗をそろえる。
「銀座ソニーパークは人と街のインターフェースのような存在になるだろう」。施設を手がけたソニー企業の永野大輔社長が話すように、ソニーパークは、大きな交差点にありながら晴海通り、外堀通り、ソニー通りに面した三方が解放されている。壁も扉も極力なくしたというユニークな設計だ。地上はもちろん、地下2階に直結する地下鉄銀座駅コンコース、地下3階直結の西銀座駐車場からもアクセスを遮る仕切りが一切なく、言葉通り街につながっている。
さらに特徴的なのは、施設内の4つの飲食店は全てテイクアウト方式で、レストラン形式がひとつもないこと。「近隣店舗で買ってきたものを公園で食べる感覚を演出したい」(永野社長)というのがその理由だ。
まるでカフェのようなクラフトビールスタンドが登場
地下4階に出店するのは、キリンビールの企業内ベンチャー・スプリングバレーブルワリーが手掛けたクラフトビールとデリの専門店「“BEER TO GO” by SPRING VALLEY BREWERY(ビア・トゥ・ゴー バイ スプリングバレーブルワリー)」。スタイリッシュな外観はビールスタンドというよりまるでカフェのよう。ここではゆずと山椒を使った「Daydream」など、常時飲める「コアシリーズ」6種に加えて、季節限定のビールなど約17種類のビールが楽しめる。また、デリは、野菜をたっぷり使ったピクルスのようなあっさりとしたものから、バーベキュー料理のようなビールに合うパンチの効いた一皿まで豊富にそろう。
テイクアウト専門業態のため、「ビールの風味を損なわず楽しめるよう、カップはメーカーと飲み口を極力薄くしたものを採用した。ビールグラスで飲んでいるような感覚を味わってもらえるのでは」(スプリングバレーブルワリーのマーケティングマネジャー・鈴木雄介氏)。店舗は黒を基調にしており、大人が楽しめる空間になっている。毎週金曜日には同じフロアで音楽ライブも開催されるので、週末の仕事帰りにふらっと立ち寄り音楽を聴きながら一杯、という過ごし方ができそうだ。
銀座の真ん中に「あんこ直売所」
地下3階にある「トラヤカフェ・あんスタンド」は、虎屋が運営するあんこを使ったカフェの新業態。店内であんこをペースト状にした「あんペースト」を製造し、直売している。表参道などの他店舗で販売されるあんペーストにはメープルシロップなどが加えられているが、ここで作られる限定のあんペーストの原材料は小豆、砂糖、寒天のみ。虎屋のようかんと同じ原材料なのが売りだ。
地上階には夏季と冬季限定で、地下で製造したあんペーストを使った季節のスイーツを扱うポップアップストアもオープンする。2018年9月30日まではかき氷5種類を、一部味を変えながら販売。ラム酒を使った大人向けのかき氷もラインアップしており、男性にも受けが良さそうだ。
初出では、「全てのビールは同価格(レギュラー税別600円、ラージ税別750円)で提供。 」と記載しておりましたが「レギュラー税別500円」の間違いでした。また、「全国の地ビール」を削除いたしました。お詫びして訂正いたします。該当箇所は修正済みです。 [2018/8/21 10:00]
「おにぎりに見えるタオル」を売るコンビニも
地下1階は、「THE CONVENI(ザ・コンビニ)」が出店。ファッション・デザイナーでミュージシャンの藤原ヒロシ氏がプロデュースするコンセプトショップで、ショーケースの中にペットボトルや牛乳パックが並ぶさまは一見ふつうのコンビニ。だが、おにぎりに見えたのはタオルでサンドイッチに見えるのはバンダナなど、店舗オリジナル商品や有名アパレルブランドとコラボした雑貨が並ぶユニークな店舗だ。店内で流れている「コンビニ風の音楽」は、藤原氏が自身の楽曲をリミックスして作ったという。
また、地下1階にはミシュラン星獲得店「MIMOZA」による飲茶スタンド「MIMOZA GINZA(ミモザ ギンザ)」、地上階にはプラントハンター西畠清順氏がプロデュースする植物や植物関連の雑貨を扱うショップ「アヲ」などが入る。テナントする6店舗すべてがソニーパークのみの新形態だという。
「空白だらけ」の空間が狙い
気になるのは店舗の少なさ。地上1階から地下4階まで5つものフロアがあるにもかかわらず、テナントはたった6店舗。せっかく銀座の中心地にあるのだから、もう少しにぎやかにしても良かったのではないだろうか。
店舗を増やさなかった理由は、前身となるソニービルの「街に開かれた施設」というコンセプトにあった。「ソニービルには数寄屋橋交差点に面した約10坪の公共スペース『ソニースクエア』があり、『銀座の庭』と呼ばれていた。(新ソニービルが竣工するまでの期間限定施設のテーマを)『公園』にすることで、より街に開かれたものになると考えた」と永野社長は言う。公園らしさを表現するため、訪れた人が自由に過ごせるように用途が決められていない空間を余白として残すことを考え、「余白の部分を最初にデザインして、店舗はその周りに配置した」(永野社長)。
「余白」として残したスペースでは、期間限定でさまざまなプログラムが催される予定。地上階では2018年8月17日〜9月9日まで、沖縄美ら海水族館が監修するイベント「ソニーアクアリウム2018」を開催。
地下2階には無料のローラースケート場があり、4K大型ビジョンの映像や大音響の音楽でローラースケートが楽しめる。また、地下4階には音楽ライブが楽しめる空間「Park Live」もある。
ソニービルよりもトイレの数を増やした
また、公園が少ない銀座では、“銀ブラ”の途中で休憩する場所がない。そのため、ソニーパーク内には自由に座れる場所を随所に設置。休憩場所として機能するようにした。待ち合わせ、通り抜けにも利用でき、トイレを使うだけといったニーズも見越して、ソニービルよりトイレの数も増やしたという。
「画一的な街は面白くない。子供もお年寄りも利用できる『公園』で、街のリズムを作ることに貢献できれば」と、永野社長は期待を込める。
(文/北川雅恵=日経トレンディネット)