2017年8月3日、東京・渋谷にマンガ喫茶「Hailey'5 Cafe」(ハイリーファイブカフェ、以下、ハイリー)がオープンした。手がけるのは、「漫画喫茶ゲラゲラ」(以下、ゲラゲラ)を運営するソーエキサイト(東京都渋谷区)だ。
同社によると、ゲラゲラ利用者は9割が男性で40代以上が中心。だが、2015年8月、池袋に「18歳以上限定」「防音完全個室」「オートロック」を売りにしたハイリー1号店をオープンしたところ、客層が激変。利用者の53%を若年層の女性が占め、カップルでの来店が全体のほぼ半数に上ったという。
一般的に、インターネットカフェやマンガ喫茶は女性と比べて男性の利用者が圧倒的に多い。そのため、女性1人客でも安心して利用できるように、女性専用エリアを作るなどの動きは以前からあった(関連記事:「《女性専用エリア潜入記》高稼働率で人気の女子専用ゾーンで見つけた“秘密コミック”とは?」)。だが、ハイリーは女性専用ではなく、あくまでも“女性向け”をうたっているだけ。通常のマンガ喫茶と同じように男性も利用できる。ハイリー1号店が女性やカップルから支持される理由を探るべく、オープン直前の2号店に足を運んだ。
美容院かエステサロンのようなエントランス
ハイリーがあるのは、渋谷駅ハチ公口から徒歩5分、スクランブル交差点を西武百貨店方面に渡り、西武百貨店A館とB館の間の道を直進した先にある交番の右手のビルの7階。西武百貨店、LOFT、東急ハンズに囲まれた中間地点にあり、まさに渋谷のど真ん中といえるロケーションだ。
エレベーターを降りると清潔感のある広々としたエントランスが広がり、一瞬、「間違えて美容院かエステサロンに入ってしまった」と錯覚しそうになった。受付前の売店にも高級感のある輸入スナックや輸入ビール、ワインなどが並び、見ているだけでワクワクする。
オートロック式の個室でセキュリティーも万全
全てのブースがオートロック式で、出入りする場合はICセキュリティーキーを使う。貴重品を常に持ち歩かなくて済むのは便利だ。防音仕様の個室なので周囲を気にせず会話を楽しめることも、カップルでの利用が多い理由だろう。内装はウッディな雰囲気でアロマディフューザーの貸し出しもしてくれる。1号店よりもさらに女性客のニーズに特化したというが、“癒やし系”の店内は女性だけではなく若い男性にもウケが良さそうだ。
完全防音個室、実はビジネスマン向き!
ソーエキサイト 経営企画室の庄司満貴氏は、新業態オープンの背景にマンガ喫茶に対するニーズの変化があったと説明する。マンガ喫茶は、インターネットが急速に普及した際に「インターネットカフェ」という要素を付け加え、拡大してきた。しかし、「今はどこでもWi-Fiが使える環境になっているため、ネットカフェとしての利用はシュリンクしている」(庄司氏)。
そこで、同社が着目したのがプライベート空間の追求だ。「プライバシーが保たれてセキュリティー面も万全な空間を低価格で短時間だけ利用したい」というニーズは、女性だけでなくビジネスユースとしても増加するのではないかと考えたそうだ。
「防音なので室内で携帯電話もかけられるし、打ち合わせもできる」(庄司氏)。平日1時間500円、12時間で3000円という利用料金も、会議室やレンタルオフィスを借りることを考えると安上がりといえるかもしれない。
ビジネスユースだけでなく、英会話の個人レッスンなどの習い事で利用する人も多いという。料理やドリンクの持ち込みもできるので、デパ地下の総菜を持ち寄って女子会もできるし、ビデオやネット動画を見ながらのオフ会にも使えそうだ。こうしたニーズの増加は、近年のレンタルスペース人気の高まりとも共通しているだろう(関連記事「お化け屋敷や野球場も貸し切り!? “なんでもシェアスペース”のカラクリ」)。
若い女性は「マンガはあえて紙で読みたい」
空間利用が目的ならば、本来のマンガ喫茶としての機能は不要になっていくのではないだろうか。だが、「若い女性客でも、『電子書籍ではなく、紙をめくりながらマンガを読みたい』という方は増えている」と庄司氏は話す。子どもの頃に読んだことのあるマンガを見つけ、懐かしくて再びはまったという利用者も多いとのこと。筆者も複雑なストーリーのマンガを読んでいるときなどは、電子書籍だと前のページを読み返したい場合に手間がかかるので、「紙のほうが読みやすい」と感じることがある。
また、断捨離ブームもマンガ喫茶の利用拡大を後押ししている面があると同社では分析している。若い世代を中心にモノを置かないライフスタイルが浸透しているため、場所をとる紙のマンガは家に置かず、マンガ喫茶で楽しみたいという人も多いのではないかと考えているそうだ。
今後はターミナル駅を中心に多店舗展開を予定しているという。ネットカフェとしてのニーズの減少や電子書籍コミックが普及する中で、生き残りをかけたマンガ喫茶の新たな施策が今後も広がっていくかもしれない。
(文/桑原恵美子)