カラオケボックスといえば「歌ってはしゃいでストレス発散する場所」と考える人は多いだろう。だが、カラオケボックスチェーン「JOYSOUND」が2018年8月1日オープンした「飛行機カラオケルーム」は、機内をイメージした部屋の中で、なんと歌ではなく飛行機のアナウンスをまねて楽しむというものだ。

 映像に合わせてキャビンアテンダントや操縦士になりきり、搭乗開始の案内や離陸操作のやりとりをするのだが、その映像に出演するのはLCC(格安航空会社)のジェットスター・ジャパンに勤務する乗務員。また、映像に使用している機体はジェットスターが保有するエアバスA320の機内で撮影されたものだという。「飛行機が好きな人にも楽しんでもらえる仕掛けがある」と、JOYSOUNDと協業でカラオケルームを開発したジェットスターグループ マーケティング&PR本部の在原早織氏は話す。一体どんな部屋なのだろうか。

JOYSOUND品川港南口店1階には「飛行機カラオケルーム」を宣伝する特設コーナーも。内覧会には実際にアナウンス映像に登場したジェットスター・ジャパンの乗務員も登場
JOYSOUND品川港南口店1階には「飛行機カラオケルーム」を宣伝する特設コーナーも。内覧会には実際にアナウンス映像に登場したジェットスター・ジャパンの乗務員も登場

航空会社監修のアナウンスがリアル

 「飛行機カラオケルーム」があるのは、東京・品川にあるJOYSOUND品川港南口店の5階。ドアを開けると目に飛び込んでくるのは飛行機の窓をイメージした映像。室内の両側にプロジェクターを設置して臨場感を出したという。テーブルは滑走路をイメージしたデザイン。壁にはジェットスターの行き先表示板をイメージしたパネルも貼られている。

飛行機カラオケルームは最大8人まで利用できる(テーブルの上の模型は撮影用で、実際のカラオケルームには設置されていない)
飛行機カラオケルームは最大8人まで利用できる(テーブルの上の模型は撮影用で、実際のカラオケルームには設置されていない)
正面にも大型のプロジェクターがある。カラオケモニターの前にもイスが置かれており、テーブルを囲んでコの字型に配列されている
正面にも大型のプロジェクターがある。カラオケモニターの前にもイスが置かれており、テーブルを囲んでコの字型に配列されている

 しかし、そこはやはりカラオケルーム。イスは以前から同店にあったものを使っており、座席はテーブルを囲んでコの字型の配列。せめて座席を縦に連ねて2・3・2の配列にでもしないと飛行機に乗っている気分が出ないのではないだろうか。だが、実際にカラオケが始まると、その考えは一変した。

 一曲目(といってもアナウンスだが)は、「搭乗時のご挨拶」。この部屋には一般的なマイク以外に特注のマイクが備え付けられており、それが実際の機内アナウンス用のマイクにそっくりなデザインなのだ。アナウンス内容はジェットスター・ジャパンが監修しているだけあって、かなりリアルだ。

英語のアナウンスを聞いているうちに「今から本当に離陸するのではないか」という気分になってきた
乗務員を意識して斜めにマイクを持つと盛り上がれそう
乗務員を意識して斜めにマイクを持つと盛り上がれそう

 さらに、飛行機に乗ったことのある人なら必ず見たことがある「非常用設備のご案内」は、備品のシートベルトを使って実演も可能。アナウンスに合わせてベルトを操作すれば、グループで盛り上がること間違いなしだ。

シートベルトの使い方を説明するアナウンス
シートベルトの使い方を説明するアナウンス
備品のシートベルト
備品のシートベルト
アナウンスに合わせて実演すれば乗務員になった気分に

飛行中には絶対見られないコックピット内のやりとりも

 また、飛行中には絶対に見ることができないコックピット内のやりとりも収録されている。機長と副操縦士が離陸する際のやりとりを収録した「パイロット離陸操作」は、格納庫にある機体内で撮影したあとにCGで背景を当てはめているが「飛行機が好きな人が見ても違和感がないように、映像とセリフのすり合わせを入念に行った」(ジェットスターグループ在原氏)。カラオケの後ろに流れている飛行機の走行音も、実際のA320の音を録音したものだという。

ルビが振ってあるので英語が苦手な人も安心して楽しめる
ルビが振ってあるので英語が苦手な人も安心して楽しめる
備品として操縦士をイメージした帽子も用意されている
備品として操縦士をイメージした帽子も用意されている

 機長と副操縦士に分かれて「デュエット」しても楽しめそう。また、飛行機カラオケは全部で7バージョンあるが、「お手本」として乗務員の声をそのまま残したバージョンも収録されている。機長と副操縦士のお手本バージョンを聞いてみると、意外にも流ちょうな英語ではなく平板な「カタカナ英語」を使っていることに気づく。「管制官とやりとりする際に聞き取りやすいよう、独特のイントネーションを用いることが多い」(ジェットスターグループ在原氏)というが、こうした細かい仕掛けも飛行機好きの心をくすぐるポイントかもしれない。

カラオケモニター前にはA320のコックピットをイメージしたレプリカも
カラオケモニター前にはA320のコックピットをイメージしたレプリカも
■変更履歴
初出では「副機長」としておりましたが、「副操縦士」の間違いでした。お詫びして訂正いたします。該当箇所は修正済みです。 [2018/8/7 15:00]

他チェーンとの差異化のために「歌わないカラオケ」を手がけた

 飛行機カラオケルームのターゲットは20〜30代。LCCの利用に興味があり、カラオケにも親和性がある世代だ。「ジェットスター・ジャパンの利用者の約半数がこの世代。だが、飛行機カラオケルームを通してファミリー層にもタッチポイントを持ちたい」とジェットスターグループの在原氏は意気込む。

 また、JOYSOUND側にも狙いはある。同店を運営するエクシング宣伝広報部の島村舞氏は「数年前から11〜18時の昼の時間帯の需要が増えた」と話す。子育て世代がカラオケルームを「食事もできる防音個室」ととらえるようになり、食事をしながら子どもを遊ばせて、歌わずに帰るというパターンも増えている。大型のカラオケボックスはもともと10人程度が利用できるパーティールームやファミリールームをもうけているところが多いが、「さまざまなチェーン店が乱立するなかで、選ばれるための差異化が必要と考えた」(エクシング島村氏)。

 そこでJOYSOUNDが注目したのが乗り物のアナウンスだった。2016年には「鉄道カラオケルーム」をオープン(関連記事 「歌わないカラオケ? 「鉄道カラオケ」がじわじわ人気」)。実際の車内で使われていた部品などを集めており、現在も人気が根強い。鉄道ファンの集まりや家族連れによく利用されているという。今回の飛行機カラオケルームも飛行機が好きな人、乗務員に憧れている人などの来店も見込んでいるそうだ。

 飛行機カラオケルームがあるのは品川港南口店の一室のみ。そのため、利用したい場合は予約したほうが無難とのこと。だが、飛行機カラオケ自体は2018年4月から全国で配信されている。今回のコンテンツが好評ならば、今後さまざまな航空会社とコラボしたバージョンが追加されていくかもしれない。

飛行機カラオケルームでは通常のカラオケも楽しめる。利用にあたって特別料金はかからないが、予約したほうが無難
飛行機カラオケルームでは通常のカラオケも楽しめる。利用にあたって特別料金はかからないが、予約したほうが無難

(文/樋口可奈子)

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