関西の電鉄各社が食をテーマにした商業施設の開発に乗り出している。今春、大阪市内の主要ターミナルにフードホールやイートイン併設型の食関連施設が登場。3月16日、JR天王寺駅中央改札口のすぐ上に「ミオえきッチン」がオープンしたのを皮切りに、28日には阪急三番街の北館地下2階に約1000席の「ウメダフードホール」、4月1日にはルクア大阪の地下2階に「ルクアフードホール」がお目見えした。
グローサラントを導入した「ルクアフードホール」
グローサリー(食料品店)とレストランを融合させた「グローサラント」を導入したのは、JR大阪駅の駅ビル「ルクア大阪」。地下2階に15店舗の食関連テナントがそろう「ルクアフードホール」をオープンした。JR大阪伊勢丹からルクアイーレにリニューアルしたあともデパ地下を展開していたが、苦戦していたフロアだ。靴・バッグ売り場だった地下1階にはユニクロとGUを導入し、昨年12月には飲食店街「バルチカ」を拡大オープン。今回の改装効果でさらに集客力が高まり、梅田の人の流れが変わりつつある。
なかでも話題を集めているのが、食品スーパー・阪急オアシスの新業態「キッチン&マーケット」だ。食物販と外食を融合した売り場で、フードホール全体の半分を占める。イタリア食材、スイーツ、生鮮、総菜、グローサリー、ベーカリーとカテゴリー別にコーナー展開し、中央にはお酒も飲める100席のイートインコーナーを配置。食材を購入できるのはもちろん、店内のオープンキッチンで調理した料理をダイニングスペースやイートインコーナーですぐに味わえる。キッチン&マーケットの鮮魚売り場では生本まぐろの解体ショーが1日5回行われ、手ぶらで楽しめるBBQコーナーも併設。旬のフルーツを使ったジュースやパフェを食べられるフルーツパーラーもある。
ターゲットは駅利用者から近隣で働くオフィスワーカー、地元の住民まで幅広い。既存の郊外店と異なり、広域商圏を狙う。新業態を出店した理由について、阪急オアシスの松元努営業本部長は「この8年で食事と総菜、ベーカリーの売り上げ比率が2倍以上に増えた。スーパーの店内に食事ができる場所の提供を考えていたところ、今回の話があった。短時間で食事ができ、仕事帰りに友達や同僚とゆっくりお酒も飲める。トラフィックが多い場所なので、オールターゲットで日常性と利便性を追求していく」と話す。
地下2階は昨年1月まで百貨店のデパ地下を展開。百貨店からデイリーな食材を販売する食品スーパーに転換した背景には梅田ならではの事情もある。
フードホール全体を運営するJR西日本SC開発の舟本恵 業態開発室長は振り返る。「梅田エリアは働く街から住む街へと変わってきており、住みたい街ランキングでも4年連続1位に選ばれている。にもかかわらず、デパ地下はあっても日常的な食材を買えるスーパーマーケットがひとつもなかった」。さらに消費者の食材に対する情報ニーズが年々高まっていることにも対応。「店内で食材から製造工程まで見せることで一気通貫する食のサプライチェーンを提案し、フードホール本来の売り場にしていきたい」と話している。
暗いイメージを払拭した阪急三番街の「ウメダフードホール」
「ウメダフードホール」は阪急阪神ビルマネジメントが運営する「阪急三番街」の北館地下2階にオープンした。阪急梅田駅に併設する阪急三番街は1969年に開業、1月現在で235店舗が入居する。客層は若年層が多いルクアに比べ、年配客が多い。ファッションゾーンが苦戦する一方、飲食ゾーンは根強い人気があり、飲食の売上高は30カ月連続前年比をクリアしているという。
ただ、ルクアやグランフロント大阪など梅田に新設の商業施設が開業し、エリア内競争力が徐々に低下。さらに北館地下2階はもともと暗いイメージがあり、人通りも少なかった。「北館は茶屋町とグランフロントをつなぐ立地にあり、競争力強化と若返りを図るため、大規模なリニューアルになった」と、同社営業部の上村俊幸氏は語る。
約2300平方メートルもの広さに、全国初、関西初を含む全18店舗が出店。大きく5つのゾーンに分け、イス、テーブルから床のデザインまで異なる雰囲気で演出した。例えば、お酒と食事を楽しめる奥の「バルゾーン」はややダウンライトでシックな雰囲気、女子会やママ友と利用できそうな「美食ゾーン」は明るくナチュラルな空間、といった具合だ。カウンター席やスタンディング席もあり、時間のないときにはさっと食事を済ますこともできる。共用スペースの全席数は約1000席。フードコートと同じ飲食スタイルだが、「ワンランク上の内装とこだわりの専門店をそろえた」(同)。
駅構内を眺めながら食事を楽しめる「ミオえきッチン」
JR西日本グループの天王寺SC開発が運営する商業施設「天王寺ミオ プラザ館」にオープンしたのが「ミオえきッチン」だ。プラザ館M2階東側ではこれまでヤングファッションを展開していたが、本館とプラザ館で顧客が分散したため、ファッションゾーンを本館に移転。食物販を導入した新たなゾーンは、駅立地を最大限に生かしたレイアウトに変更し、毎日寄り道したくなる店舗をそろえた。
「天王寺駅は1日約72万人が利用する大阪第三のターミナル駅。近隣に住む人が多いのが特徴で、スピーディーに買い物したい人から自分の時間を過ごしたい人まで、駅での買い物の充実を重視した」と、天王寺SC開発の䑓川恵美子営業開発部部長は話す。
売り場面積は約300坪。安心と鮮度にこだわったスーパーマーケット「三杉屋」の新業態「ミスギヤ プラス」をはじめ、京都洛中の蔵元「佐々木酒造」の日本酒とオリジナルのいなり寿司を味わえる「元蔵」、本場の台湾ティーを提供する人気店「ゴンチャ」(関西初)など6店舗が並ぶ。
出来立てをその場で手軽に食べられるよう、Wi-Fiと電源を完備した共用イートインスペースを設置。駅構内を見下ろせるカウンター席や立ち飲み感覚の席、高齢者や子ども向けのクッション性がある低い席など約100席用意した。
関西の私鉄では昨年4月、京阪電鉄グループの京阪流通システムズがJR京都駅前の京都タワー内に商業ゾーン「京都タワー サンド」をオープン。地下1階のフードホールに京都の名店、人気店などを誘致し、周辺のオフィスで働く人や地元客、国内外の観光客の取り込みに成功している。オープンから1年経過し、当初計画の2.5割増で推移しているという。
これらの施設に共通するのは、鉄道会社が手がける駅立地の商業施設であり、業績不振から改装を余儀なくされたフロアであること。ファッションフロアが低迷し、大型商業施設においても集客力がある食テナントを重視する傾向が強まっている。そんななか、駅立地の利点を見直し、気軽な食事の場として生まれ変わった3施設は新たな手法で活気を取り戻しつつあるようだ。
(文/橋長初代)