2018年3月23日、商業施設「アトレ品川」の3階「FOOD&TIME ISETAN」内にグローサラント4店舗がオープンした。グローサラントとは食料品店を意味する「グローサリー」と「レストラン」を掛け合わせた造語で、欧米を中心に広がっている。ここでは「クイーンズ伊勢丹」で扱う食材などを使用し、できたての料理を提供する。
グローサラントは首都圏を中心に数を増やしている。2017年8月には東京駅構内の商業施設「グランスタ丸の内」内に「EATALY グランスタ丸の内店」が開業。2017年9月には成城石井が商業施設「トリエ京王調布」に、同社初のグローサラント型店舗をオープンし、注目を浴びた(関連記事「東京駅で美食新体験! 茅乃舎とイータリーが同時出店、 「スーパーとレストランが融合 成城石井新業態の中身」)。
「FOOD&TIME ISETANのコンセプトは『アルコールが飲めるフードコート』。そこで、4店舗のうち3つは、アルコールに合うメニュー構成にした」とグローサラント4店舗を運営するエー・ピーカンパニーの子会社、塚田農場プラス代表取締役の森尾太一氏は話す(関連記事「品川駅に高級フードコート、朝からクラフトビール!?」)。
ワインに合う肉料理を提供するのが、肉バル&総菜専門の「T.N. MEAT WORKS」、ビールとハイボールに合うチキン南蛮の専門店「CHICKEN NAN-BAR(チキナン・バー)」、日本酒のおつまみにもなる細巻き寿司などを提供する寿司専門の「よいのいき」が、その3つ。そのほか、女性をターゲットにしたカスタムサラダ専門「Veggie(ベジー)」も展開している。
ライバルの多い“デパ地下”ではなく、商業施設に進出
塚田農場プラスは、法人向けの宅配弁当事業から中食(なかしょく)に参入。2015年にエキュート品川サウス、エキュート上野に弁当専門店「塚田農場OBENTO&DELI」を、2017年12月には東京駅に「TSUKADA FARM TOKYO(ツカダ ファーム トーキョー)」を出店している(関連記事「豪華すぎる駅弁店が東京駅に “高級肉尽くめ”弁当も」)。
グローサリー展開のきっかけは、消費者の中食へのニーズの変化を感じたことだ。ここ数年でニーズやシーンが多様化し、「“手抜きをする”ためではなく、食卓を豊かにするために総菜を利用する傾向が強くなっている」(森尾氏)。中食市場は今後大きな伸長が期待できるが、スーパーマーケットや“デパ地下”の総菜売り場にはすでに老舗や有名ブランドが多数出店している。そのため、新規参入は不利と考え、商業施設に進出した。各商業施設のコンセプトに合わせた店舗を展開することで、中食に力を入れる同業他社との差異化を図る。
生産者直結&大量生産のノウハウを生かす
店舗開発には外食産業の強みも生かした。エー・ピーカンパニーグループは食品の生産から流通、販売までを一貫して手がける独自の「生販直結」というスタイルを展開している。今回オープンしたすし専門店「よいのいき」では、魚料理を提供する飲食店「四十八漁場」で取引のある漁業関係者の協力を受け、その日の朝にとった魚を使った「さっき獲れ丼」をランチタイムに提供する。
また、アトレ品川は高層階にオフィスがあるため、オフィスワーカーのための弁当需要が大きい。そのため、「昼食時間帯に300〜400食を製造、運搬する能力がある塚田農場プラスの強みと一致した」(森尾氏)。
伊勢丹と協業でPBも視野に
今回手がけた4店舗ではクイーンズ伊勢丹で販売している食材を調理に使うほか、店頭でドレッシングや瓶詰めなどのクイーンズ伊勢丹で扱う食品も販売する。今後は、同社と取引のある農業・漁業関係者の食品をクイーンズ伊勢丹の生鮮食品売り場で扱ってもらう取り組みも行うという。
さらに、クイーンズ伊勢丹と共同でPB食品の開発やECでの展開も視野に入れている。「ひとつのブランドをチェーン展開するよりも、各施設に合わせて店舗を開発していくのが今の消費者のし好には合っている。今後もチャンスがあればグローサラントを展開していきたい」(森尾氏)。
(文/桑原恵美子)