2018年3月29日に開業した、「東京ミッドタウン日比谷」(関連記事「ミッドタウン日比谷 立ち飲み充実、有隣堂の新業態も」 「ミッドタウン日比谷が竣工 6階『目玉施設』に注目」「ミッドタウン日比谷 仕事帰りに便利な飲食店が集結」 )。目新しい飲食店やショップを多くそろえることでも注目されるが、なかでも異彩を放つのが、老舗書店・有隣堂が手がけた新業態「HIBIYA CENTRAL MARKET(ヒビヤ セントラル マーケット)」だ。セレクトショップ「1LDK」などを手がけてきたクリエーティブディレクター、南貴之氏がプロデュースする複合型店舗で、「商業施設の中に小さな街を作る」(同社)ことをイメージし、7店舗を集めたという。
書店が手がける複合型店舗にもかかわらず、書籍の扱いは少ない。点在する本棚に並べられている本は、分類に一貫性がなく、テーマもバラバラだ。本が少ない代わりに、店内ではメガネ、アパレルや雑貨を扱い、飲食店では酒も提供。さらに理容店まで併設している。これまで同社が手がけたことがない業種も多いが、業務委託は行わず全て自社で運営するという。なぜ老舗書店がこのような複合型店舗を手がけたのだろうか。
「書店が手がけた」とは思えないユニークな店内
ヒビヤ セントラル マーケットは東京ミッドタウン日比谷の3階にある。店内を街のように回遊できる設計で、上りエスカレーターからすぐの入口をくぐると、デッドストックをメインに展開するメガネのショップ 「CONVEX」、アパレルショップ「Graphpaper」、理容店「理容ヒビヤ」がある。その向かいには雑貨店「Library」があり、奥の広場のように開けた場所には、居酒屋・定食店の「一角」。反対側の入口にはキオスクのようなスタンドがあり、雑誌や雑貨、コーヒーを販売している。ユニークな店が多く、言われなければ書店が手がけているとは気づかないだろう。
実は、有隣堂は以前から従来の書店を進化させた業態を積極的に手がけている。2015年4月には小田急百貨店 新宿店本館にカフェを併設した業態「STORY STORY」(東京都新宿区)、同年6月には店内にイートインもできるフリースペースを設けた「有隣堂 藤沢本町トレアージュ白旗店」をオープンしている。
同社の松信健太郎専務は、「書店マーケットの縮小は想像を絶する状況」と危機感を覚えたことから、書店の再定義として新しい業態を手がけたという。2店舗ともコンセプトは好評で、新店のオファーにも結び付いた。だが、収益の回復には至らなかったという。
そんなとき、三井不動産から東京ミッドタウン日比谷への出店オファーが舞い込む。「注目度の高い施設だけに、日本中の人に面白いと思ってもらえるような書店を出すチャンス」(松信専務)と考えたという。その際に出会ったのが、南氏だった。
理容店は定期的な来店が見込める業種
「南氏から『食事や酒、本や衣服などをそろえた市場や街角のような場所で、食事をしたり、買い物をしたり、ただ行き交う人を眺めているだけでもいい』というアイデアを聞き、即座に『やってみたい』と感じた」と松信専務は振り返る。店舗選びは南氏が行い、有隣堂はサポートに徹したという。
理容ヒビヤを選んだのも南氏だが「理容業は定期的な来店が見込める業種。整髪に訪れた後などに居酒屋を利用することも期待できる」(松信専務)。集客の面でも有隣堂にとってメリットがあると考えたという。
店内の世界観を優先し、書籍を扱わないことも考えた。だが、最終的に話題の本を並べて売るのではなく、「このプロジェクトにかかわった10人のクリエーターたちがセレクトした本を売る」というコンセプトに落ち着いた。1人が選べる本は125冊まで。店内の10棹の本棚のなかには、松信専務の選書による本棚もある。
松信氏が売り上げの柱となると見ているのは、飲食(一角)とアパレル(Graphpaper)の2つだ。「書籍はほとんど置いてないが、あくまでも書店を継続していくための戦略。これからの書店はただ送られてくる本を並べて定価販売するだけではなく、努力が必要」と松信専務は話す。
(文/桑原恵美子)