2018年10月26日に発売されたiPhoneの新機種「iPhone XR」。同モデルの特徴は、先行した「iPhone XS/XS Max」と比べて価格が安いことだ。その価格設定からは、販売数を増やすためのアップルの巧妙な戦略が見て取れる。
iPhone XRはiPhone XSより安価でカラーが豊富
米アップルが2018年秋に発表した新iPhone3機種。「iPhone XS」「iPhone XS Max」の発売が9月21日だったのに対し、「iPhone XR」はそれから約1カ月遅れの10月26日に発売された。
XRの最大の特徴は、XS/XS Maxの要素を取り入れながらも、よりリーズナブルな価格設定になっていること。XSが税別11万2800円から、XS Maxが12万4800円からなのに対し、XRは8万4800円から手に入る。
この価格の違いは、主にハードウエアの違いと言っていい。チップセットはXS/XS Maxと同じ「A12 Bionic」だが、XRのディスプレーは、XS/XS Maxが採用している有機ELではなく液晶。背面カメラも、XS/XS Maxと同等の広角レンズが1つだけで、望遠レンズはない。
もう1つ、カラーバリエーションは6色と、3色のみのXS/XS Maxより豊富なこともXRの特徴だ。「(PRODUCT)RED」モデルが最初から用意されているほか、イエローやコーラル、ブルーなどポップなカラーが用意されている。
販売数を伸ばす絶妙な価格設定
iPhone XRを上位の2機種と比較すると、アップルの絶妙な仕掛けが見て取れる。
1つは価格設定だ。iPhone XS/XS Maxは、販売数ではなく、ブランド力を高めることに注力したモデルだと筆者はみる。その一方で、販売数を増やすことを狙ったのがXRなのだ。
スマートフォンとして見れば決して安くないXRも、高額なXS/XS Maxが存在することで、消費者は「XS/XS Maxに比べれば安い」と思ってしまう。また、XS/XS Maxが先に発売されたことで、ある種の“飢餓感”をあおられたアップルファンも多いのではないだろうか。
これはあくまで筆者の推論で、アップルがマーケティング上の理由からXRの発売を遅らせたかどうかは定かではない。実際、各種報道を見ると、部材調達や開発の遅れなどが要因として挙げられている。だが、発売の遅れが結果としてXRの販売にプラスに働いたのは間違いない。
iPhone XRの販売数を伸ばすためのもう1つの仕掛けは、端末のストレージ容量である。新モデルのストレージ容量を見ると、iPhone XS/XS Maxが64GB、256GB、512GBの3種類となっているのに対し、XRは64GB、128GB、256GBの3種類だ。ネットワークの発達でクラウドストレージやストリーミングが広く利用されるようになった現状では、以前ほど大容量のストレージが求められなくなっているように思う。XRは、「64GBでは心もとないが、256GBまでは必要ない」という消費者に刺さるバランスになっているのだ。
ライバルは旧機種と買い替えないユーザー
巧妙な戦略に基づいて発売されたXRだが、販売数を大きく伸ばすには課題もある。それは、旧モデルとなったiPhoneであっても、いまだに問題なく利用できることだ。
しかもアップルは最新のOS(基本ソフト)「iOS 12」で全体的なパフォーマンスを向上させており、6世代前の「iPhone 5s」でも軽快に動作するようになっている。全面ディスプレーや顔認証といった最新技術に興味がないなら、値下げして併売されている「iPhone 7」や「iPhone 8」でも十分なのだ。
最近は高性能な端末の価格が上昇傾向にあり、買い替えサイクルも長期化している。今後、アップルの販売戦略の障害となるのは、低価格で併売される旧機種や、買い替えを控えるユーザーということになるかもしれない。