2018年10月3日の新製品発表会でシャープは、ディスプレーに自社製の有機ELを搭載した「AQUOS zero」を発表した。「IGZO」に代表される液晶を強みにしてきたシャープが、有機ELに手を広げた背景に何があったのか、同社の端末は有機ELにシフトしていくのだろうか。

有機EL搭載で軽量のAQUOS zero

 2017年よりスマートフォンのブランドを「AQUOS R」「AQUOS sense」に統一し、国内市場で躍進しているシャープ。同社は2018年10月3日の発表会で、2つの新機種を発表した。

 1つはハイエンド機の「AQUOS zero」、もう1つはミドルクラス機の「AQUOS sense2」だが、会場の注目を浴びたのは、やはり自社開発の6.2型有機ELを採用したAQUOS zeroのほうだ。

AQUOS zeroは、シャープ製スマートフォンとしては初めて有機ELを搭載したモデルとなる。写真は2018年10月3日のシャープ新製品発表会より
AQUOS zeroは、シャープ製スマートフォンとしては初めて有機ELを搭載したモデルとなる。写真は2018年10月3日のシャープ新製品発表会より

 有機ELが見やすく、美しいのは言うまでもないが、本体の薄型軽量化にも貢献しているという。最近のハイエンド機はディスプレーの大画面化とバッテリー容量の増大によって大きく、重くなる傾向にあるが、AQUOS zeroは6.2型のディスプレーと3130mAhのバッテリーを備えながら重量約146gと非常に軽い。

AQUOS zeroの背面。メインカメラを1つにするなどの工夫に加え、パラグライダーのロープ(ライン)などに使われる「テクノーラ」という素材を本体に採用したことで、耐久性と軽さを両立できたとのこと。写真は2018年10月3日のシャープ新製品発表会より
AQUOS zeroの背面。メインカメラを1つにするなどの工夫に加え、パラグライダーのロープ(ライン)などに使われる「テクノーラ」という素材を本体に採用したことで、耐久性と軽さを両立できたとのこと。写真は2018年10月3日のシャープ新製品発表会より

シャープは有機ELにシフトするのか

 実のところ、有機ELの採用は、最近のハイエンド機では珍しくない。しかし、採用したのが「IGZO液晶」で人気を獲得してきたシャープとなると話は変わってくる。

 「液晶のシャープ」が自社開発の有機ELを量産できる体制を整えたとなると、今後、液晶から有機ELへとシフトしていくのではないかと考えるのが自然だ。しかし、シャープ通信事業部の中野吉朗本部長は「必ずしも高額な機種が有機ELを搭載するわけではない」と言う。

 有機ELには「コントラストが高い」「バックライトが不要で薄型化に適している」「曲げられる」といった液晶にはない特性がある。しかし、省電力性に関してはIGZO液晶のほうが優れている上、「ハイスピードIGZO」のような高速なレスポンスや滑らかなスクロール表示は、有機ELではまだ実現できていない。

 中野氏によれば、投入する機種の特性に応じて採用するディスプレー素材を変えていくとのこと。実際、有機EL搭載のAQUSO zeroと、IGZO液晶搭載のAQUOS R2は並行して販売される。

120Hz駆動による「ハイスピードIGZO」の快適な操作性は、有機ELでは実現できていない。写真は2018年5月8日のスマートフォン「AQUOS」新製品発表会より
120Hz駆動による「ハイスピードIGZO」の快適な操作性は、有機ELでは実現できていない。写真は2018年5月8日のスマートフォン「AQUOS」新製品発表会より
ディスプレーだけでなく、カメラにも明確な違いがあることから、AQUOS zeroとAQUOS R2は併売されるとのこと。写真は2018年10月3日のシャープ新製品発表会より
ディスプレーだけでなく、カメラにも明確な違いがあることから、AQUOS zeroとAQUOS R2は併売されるとのこと。写真は2018年10月3日のシャープ新製品発表会より

有機ELの安定供給に不安が残るが……

 AQUOS zeroで気になるのは供給体制である。なぜなら、同機が搭載する有機ELは量産が難しいとされているからだ。しかし最近は、LGエレクトロニクス傘下のLGディスプレイなど、サムスン以外の企業も量産体制を整えつつある。今回のAQUOS zeroの発表には、シャープが有機ELの量産体制を確立したことをアピールする意味もあるのだろう。

有機ELにまつわるトラブルとしては、2017年発売の「iPhone X」が、ディスプレーの供給不足のために品薄状態が1カ月以上も続いたことが記憶に新しい
有機ELにまつわるトラブルとしては、2017年発売の「iPhone X」が、ディスプレーの供給不足のために品薄状態が1カ月以上も続いたことが記憶に新しい

 とはいえ、今回のAQUOS zeroはシャープ製有機ELを搭載する初の端末だけに、安定的に供給できるかという点には懸念が残る。現段階でシャープは販路を明らかにしていないが、従来通りなら国内の大手キャリア(電気通信事業者)から販売されるはず。となると、アップルやサムスンほどではないものの、ある程度まとまった数の有機ELが必要になるのは明らかだ。

 パーソナル通信事業部の小林繁事業部長は「供給能力はある」と話しているが、AQUOS zeroを販売するキャリアを限定するという対策もあるかもしれない。

 AQUOS zeroは非常に魅力的な端末だけに、特定のキャリアでしか購入できないとなると、がっかりするユーザーも少なくないと思われる。2020年に国内のAndroid端末シェアで40%を目指すという強気の目標を掲げるシャープだけに、AQUOS zeroの品薄が続くような事態はあってはならないことだろう。

有機ELの生産体制を整え、AQUOS zeroを全キャリアで販売してほしいところだ。写真は2018年10月3日のシャープ新製品発表会より
有機ELの生産体制を整え、AQUOS zeroを全キャリアで販売してほしいところだ。写真は2018年10月3日のシャープ新製品発表会より
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