現地時間の9月12日、米アップルが新しいiPhoneを発表した。iPhone Xの系譜を継いだ「iPhone XS」と大画面の「iPhone XS Max」、そしてコストダウンを図った「iPhone XR」の3機種だが、アップルの狙いはどこにあるのか。そして新iPhoneの課題はどこにあるのだろうか。

ついにiPhone Xの路線がメインに

 この数年、毎年9月にiPhoneの新機種を発表している米アップル。そのアップルが、今年もiPhoneの新モデル「iPhone XS」「iPhone XS Max」「iPhone XR」を発表した。

 この3機種について簡単に説明しておこう。iPhone XSは5.8型の有機ELディスプレーやデュアルカメラ機構を採用するなど、2017年発売の「iPhone X」の特徴をそのまま受け継いだモデル。iPhone XS Maxは、iPhone XSのディスプレーを6.5型に拡大した、かつての「Plus」に相当するモデルだ。

 そして「iPhone XR」は、有機ELの代わりに6.1型の液晶ディスプレーを採用し、さらにカメラを1つに絞るなどして、価格を抑えたモデルとなっている。各モデルに共通しているのは、2017年に発売された「iPhone X」の路線を継承していることだ。

iPhone Xの正当進化モデル「iPhone XS」と、6.5型の大画面モデル「iPhone XS Max」。両機種の登場でiPhone Xの路線が今後のメインストリームとなることが明確化された
iPhone Xの正当進化モデル「iPhone XS」と、6.5型の大画面モデル「iPhone XS Max」。両機種の登場でiPhone Xの路線が今後のメインストリームとなることが明確化された
液晶ディスプレーを採用、カメラをシングルにして低価格化を図った「iPhone XR」。6色のカラーバリエーションが用意されているのも大きな特徴だ
液晶ディスプレーを採用、カメラをシングルにして低価格化を図った「iPhone XR」。6色のカラーバリエーションが用意されているのも大きな特徴だ

 3機種はディスプレーのサイズや素材、カメラの数などに違いはあるものの、ホームボタンを排してノッチのあるディスプレーを採用。指紋認証の「Touch ID」の代わりに顔による生体認証「Face ID」を搭載するなど、iPhone Xの特徴として打ち出された点は共通して採用されている。

 これら3機種から見えてくるのは、iPhone Xで打ち出した新機軸を本格的に普及させたいというアップルの狙いだ。あえて価格を下げたiPhone XRを用意した点からも、今後iPhone Xの路線をラインアップの中心として据えていく姿勢が分かる。

 もちろん、旧モデルの「iPhone 7」や「iPhone 8」は値下げして併売される。だがそれは、新興国や、低価格を求めるユーザーがAndroid陣営に流出するのを防止するための取り組みにすぎないと言える。

今後を見据えると注目されるeSIMとDSDS

 新iPhone3機種は全て、機械学習などのAI(人工知能)関連処理を高速化する「ニューラルエンジン」を2つ備えた新しいチップセットに「A12 Bionic」を搭載しており、プレゼンテーションではゲームや映像、AR(拡張現実)などの高度なアプリがスムーズに動作することをアピールしていた。だがこの方向性はアプリの可能性を広げるものではあるが、ハードウエア的に見ればiPhone Xが搭載している「A11 Bionic」が順当に進化しただけのことだ。

新チップセット「A12 Bionic」を搭載したが、それはiPhone Xからの順当な進化にすぎない
新チップセット「A12 Bionic」を搭載したが、それはiPhone Xからの順当な進化にすぎない

 iPhone XS/XS Maxのカメラ自体のスペックはiPhone Xと同等であり、劇的に機能が向上したわけではない。ラインアップの強化という側面を除くと、今回の新機種はハードウエア面での話題性には乏しい。

 唯一、iPhone Xから大きく進化したと言えるのが、デュアルSIM・デュアルスタンバイ(DSDS)に対応したことだ。しかも一方のSIMは物理的なSIMカードではなく、遠隔操作で契約情報などを書き換えられる、組み込み型の「eSIM」であることだろう。アップルはeSIMの採用に積極的で、既にiPadやApple Watchの一部モデルにはeSIMが搭載されている。それがiPhoneに、しかもDSDSという形で搭載されたことには非常に大きな意味がある。

 自社以外の回線を利用される可能性が高まるDSDSは、大手キャリア(電気通信事業者)にとって、端末に採用してほしくない技術の1つだ。1つ目のSIMにキャリアのSIM、もう1つのSIMに安価なMVNO(仮想移動体通信事業者)のSIMを用いてデータ通信料を安く抑えるiPhoneユーザーが増えるのは間違いない。そうなると、iPhoneの「もう1つのSIM」をめぐって新たな競争が生まれる可能性も考えられる。

 もっとも新iPhoneの発売段階では、日本の大手キャリアはiPhoneのeSIMに対応しておらず、MVNOの対応もこれから。実際に競争が起こるのは先のことになるだろうが、iPhoneのDSDSは今後、国内でも注目の的になるのは確実だ。

さらに高額になったiPhoneが国内市場に影を落とす?

 今回の新iPhoneに関して課題となりそうなのが端末価格である。iPhone XSは11万2800円から、iPhone XS Maxは12万4800円からと、iPhone Xの発売当初と同様に10万円を超える価格となっている。廉価版のiPhone XRでさえ8万4800円からと、スマートフォンの中ではかなり高い。

 行政が大手キャリアの端末値引き販売に対して厳しい姿勢で臨んでいるため、大手キャリアも端末代と通信料金を分離した「分離プラン」へ移行する動きを加速させている。実際、2017年にはKDDIが「auピタットプラン」「auフラットプラン」で、2018年にはソフトバンクが「ウルトラギガモンスター+」「ミニモンスター」で分離プランの導入にかじを切った。かつてのように高額な端末を安く手に入れることは難しいだろう。

ソフトバンクが2018年8月29日に発表した「ウルトラギガモンスター+」は、8つのSNSと動画サービスが使い放題になる代わりに、「月月割」による端末値引きが受けられない分離プランとして話題となった。画像は2018年8月29日の“ソフトバンク”の新サービスに関する記者発表会・プレゼンテーション資料より
ソフトバンクが2018年8月29日に発表した「ウルトラギガモンスター+」は、8つのSNSと動画サービスが使い放題になる代わりに、「月月割」による端末値引きが受けられない分離プランとして話題となった。画像は2018年8月29日の“ソフトバンク”の新サービスに関する記者発表会・プレゼンテーション資料より

 昨年のiPhone Xは、従来と大きく異なる新機軸を打ち出したことで先駆的なユーザーが飛び付き、品薄状態が続くほどの盛り上がりを見せた。だが、新モデルがiPhone Xから大きく進化していない上、高額な端末を安く入手することが難しくなりつつある現状では、新iPhoneの登場も盛り上がりに欠けそうな気配だ。

この記事をいいね!する