ZTE製端末はAndroid OSを搭載できなくなる?

 日本時間の4月17日、今後のスマートフォン市場を見通す上で非常に大きなニュースが舞い込んできた。米商務省が米国企業に対し、「M Z-01K」などのスマートフォン端末で知られる中国の通信機器メーカー、中興通訊(ZTE)との取引を今後7年間禁止すると通達したのである。

 米商務省がこのような措置を取るに至ったのは、米国が経済制裁の対象としているイランや北朝鮮に対し、ZTEが通信機器を不正に輸出していたため。ZTEは不正行為を認め、2017年3月に11億9000万ドル(約1300億円)の罰金を支払うことでいったん合意し、不正輸出に関わった社員の処罰を約束していた。にもかかわらず、ZTEは処罰を実行しないまま虚偽の説明を続けたため、米当局が追加制裁に踏み切った形だ。

 この通達によって米国各企業は、自社製品をZTEに販売できなくなるわけだが、ダメージが大きいのは、米国製の部品などを使って通信機器を作れなくなるZTEのほうだ。例えば、ZTE製スマートフォンの多くは米クアルコムのチップセットを採用しているため、代替のチップセットを米国以外から調達する必要が出てくるわけだ。

 また、取引禁止の対象となる米国製品にはソフトウエアも含まれるため、ZTEは米グーグルが提供するOS(基本ソフト)、Androidが使えなくなるとの報道も出ている。正確には、Android自体はオープンソースであるため端末に搭載しても問題はないのだが、「Google Play」や「Gmail」など、Android端末を利用する上で欠かせないグーグル製アプリ、サービスをZTEが導入できなくなる可能性が指摘されているのだ。

 もちろん、クアルコムのチップセットやグーグルのアプリ、サービスがなくても、代替品を使うことで中国市場向けの端末は作れるだろう。その一方で、中国国外向けの端末販売が困難になることは必至だ。

 さらに、今回の米商務省による措置は、ZTEの端末事業だけでなく、主力事業である携帯電話基地局などのインフラ事業にも大きな影響を与える可能性が高い。ZTEが経営面で窮地に立たされることは確実だと言える。

ZTEの2画面スマートフォン「AXON M」は、NTTドコモが「M」として販売している。もちろん、この端末にもクアルコム製チップセットやグーグルのアプリが搭載されている。写真は「Mobile World Congress 2018」のZTEブースより
ZTEの2画面スマートフォン「AXON M」は、NTTドコモが「M」として販売している。もちろん、この端末にもクアルコム製チップセットやグーグルのアプリが搭載されている。写真は「Mobile World Congress 2018」のZTEブースより

米中の政情が他の中国企業にも影響

 低価格端末を積極的に米市場に投入し、シェア4位を獲得するなど、中国のスマートフォンメーカーとしては大きな成功を収めているZTE。だが、米国向け端末の開発自体が困難となった現状、米国での足場を失いかねない状況にある。

ZTEは米国のスマートフォン市場でシェア4位を獲得するなど、中国メーカーとして米国で成功を収めた数少ない企業。それだけに今回の措置が及ぼす影響は小さくない。写真は2月25日にスペイン・バルセロナで開催された「Blade V9」新製品発表会より
ZTEは米国のスマートフォン市場でシェア4位を獲得するなど、中国メーカーとして米国で成功を収めた数少ない企業。それだけに今回の措置が及ぼす影響は小さくない。写真は2月25日にスペイン・バルセロナで開催された「Blade V9」新製品発表会より

 実は、今回のZTEの一件だけでなく、中国スマートフォンメーカーが米国でのビジネス拡大を阻まれる出来事がこのところ相次いでいる。象徴的なのが、ファーウェイの米通信事業者向けビジネスが、進出直前で頓挫したことだ。

 米国市場は日本同様、SIMフリー端末よりも通信事業者向け端末のほうが販売規模が大きい。そのためファーウェイは、米国の通信事業者への端末販売にも力を注ぎ、同社のフラッグシップモデルの1つ「HUAWEI Mate 10 Pro」を米通信事業者大手のAT&Tが販売するところまでこぎ着けていた。

 ところが2018年1月、販売開始直前になってAT&T側に白紙撤回されてしまい、Mate 10 ProはSIMフリー版のみの販売となってしまったのである。

日本でもSIMフリー版が販売されている「HUAWEI Mate 10 Pro」。米国ではAT&Tが取り扱う予定だった。写真は2017年11月28日のファーウェイ新製品発表会より
日本でもSIMフリー版が販売されている「HUAWEI Mate 10 Pro」。米国ではAT&Tが取り扱う予定だった。写真は2017年11月28日のファーウェイ新製品発表会より

 こういったことが相次いで起きている背景には、米国と中国との安全保障や貿易摩擦などの問題が大きく影響しているともいわれている。政治が絡むことだけに、中国メーカー側も最善を尽くしつつ、事の成り行きを見守るしかない状況のようだ。

中国企業は日本市場の開拓を強化するか

 米国における中国企業の苦境が、両国と関係の深い日本にも大きな影響を与えることは間違いない。特に影響が大きいと考えられるのがNTTドコモとソフトバンクだ。

 ドコモは最近、スマートフォン関連でZTEとの関係を深めており、「MONO」「M」など、自社スマートフォンの製造をZTEに委託している。またソフトバンクは、ウィルコムの時代からネットワーク設備面でZTEとのつながりが深く、5G(第5世代移動通信システム)でも共同で実証実験を行っている。ZTEの動向によっては、何らかの戦略転換が両社に求められることになるかもしれない。

 ちなみにドコモの吉澤和弘社長は4月27日の決算会見で、今回のZTEの件について言及。現在販売中の端末に関しては「かなりの時間、故障対応もできるだけの端末在庫を確保しているので、調達済みの端末は販売を続ける」と述べた。しかし今後の端末調達に関しては「(クアルコムなどの)部材が入らないと物が作れないし、端末も調達できない。新たな調達はいまのところ止めている」としている。

ドコモは低価格で話題となった「MONO」以降、端末の製造でZTEとの関係を深めているだけに、今後のZTEの動向次第で戦略転換を余儀なくされるかもしれない。写真は2016年10月19日のNTTドコモ新商品・サービス発表会より
ドコモは低価格で話題となった「MONO」以降、端末の製造でZTEとの関係を深めているだけに、今後のZTEの動向次第で戦略転換を余儀なくされるかもしれない。写真は2016年10月19日のNTTドコモ新商品・サービス発表会より

 米国市場への進出が難しくなったことを受け、今後、中国メーカーの日本市場開拓が一層強化される可能性が高いと筆者はみる。日本市場は米国市場ほど大きくはないが、世界的に見ても一定の規模感があり、中国メーカーの開拓もあまり進んでいない。さらに、ハイエンド志向が強く高価なネットワーク機器やスマートフォンを積極的に購入するユーザーも多いため、海外企業からして見れば日本市場は魅力的なのだ。

 しかも最近では、SIMフリー端末で一定の支持を獲得したファーウェイのスマートフォンをauが販売するなど、以前と比べて中国メーカーが進出しやすくなっている。米国市場に逆風が吹き荒れる状況が続くようなら、中国メーカーの注力は日本市場に向けられると考えていいだろう。

 海外の政情が日本国内のスマートフォン市場に大きく影響するということは、今後も十分起こり得る。今回のZTEの一件に関しては流動的な部分も多く、どのような結果を迎えるのか見極めるには、しばらくの間は事の推移を注意深く見守っていく必要がありそうだ。

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