「South by Southwest(SXSW)」は、毎年3月中旬に米国・テキサス州オースティンで開催される、音楽と映画、最新技術の複合イベント。展示会をはじめセミナー、ライブ、上映会、コンテストなど数千もの催しが行われ、80カ国以上から8万人以上もの来場者を集める。今回はそのなかでも、世界の最新技術とベンチャー企業が集まる「インタラクティブ」部門を取材。世界に打って出る日本企業の動きと、驚くようなアイデアを提示する海外の注目ベンチャーの動きを、現地からリポートする。

メイン会場にとどまらず、周辺のホテルやレストランなどでもさまざまなベンチャー企業が展示を行う
メイン会場にとどまらず、周辺のホテルやレストランなどでもさまざまなベンチャー企業が展示を行う

 米国では昨年、ウエアラブル機器の先駆け・Fitbit(フィットビット)が株式上場を果たした。同様の機器は市場が成熟しつつあり、単に「データを集める」「より健康になる」といった打ち出し方では差別化が困難になっている。

 こうした流れを受け、今年のSXSWに並ぶウエアラブル機器は、「運動時にもっと筋肉が付く」「休息時にもっと気分が安らぐ」など、具体的な利用シーンと得られるメリットを絞り込んだものが増えている。なかには、やや過激とも思える効果・効能をうたうもの、日本では必要な認可が得られなさそうなものもあるが、ウエアラブル機器の最先端を知るうえで、今回のSXSWが象徴的な場となっていることは間違いない。注目の製品をピックアップして紹介する。

ドイツのベンチャー企業が開発した、腕に巻いて使う「Basslet(ベースレット)」。スマホで聴いている音楽の低音部を震動に変換し、Bluetoothで腕に伝える。低音の効果をより体感しやすくなる
ドイツのベンチャー企業が開発した、腕に巻いて使う「Basslet(ベースレット)」。スマホで聴いている音楽の低音部を震動に変換し、Bluetoothで腕に伝える。低音の効果をより体感しやすくなる

米国で話題の「アクティブ耳栓」

 昨年から米国で注目を集めていた「Here Active Listining(ヒア・アクティブリスニング)」が、SXSWに登場。インタラクティブ部門の最も大きい賞である「Innovation Award」で全部門を通じてのベストに選ばれ、話題をさらった。

Here Active Listening。ケースが充電器になっている
Here Active Listening。ケースが充電器になっている

有名ホールの音響も再現できる

一般的なカナル(耳栓)型イヤホンより若干大きい程度
一般的なカナル(耳栓)型イヤホンより若干大きい程度

 一見するとBluetoothイヤホンのようだが、これは音楽再生のための機器ではない。内蔵のマイクで外部の音を拾い、聞きたい周波数だけをフィルターして耳に届ける「アクティブな耳栓」だ。

 Bluetoothでスマホと接続し、アプリを起動。画面に表示されたイコライザーカーブを操作すると、耳に入ってくる音がリアルタイムに変化する。低音部を下げれば、周囲のモーター音などが聞こえにくくなるし、中音部を下げれば他人の話し声が聞こえにくくなる。逆に中音部を上げると、周囲の話し声が聞こえやすくなる。ヒアはこのように、自分が聞きたい音・聞きたくない音をアクティブにコントロールできる、現代の耳栓として設計されている。

スマホアプリを使い、聞こえる周波数を自由に調節
スマホアプリを使い、聞こえる周波数を自由に調節

 さらに、反響音や音の歪み具合なども操作できるので、周囲の音をサイケデリックに加工したり、カーネギーホールなど有名な音楽ホールの聞こえ方をワンタッチで再現することもできる。ヒアはこの機能を通じて、生演奏の音楽をさまざまな聞こえ方で楽しむ提案を行うべく、アーティストとのコラボレーションを進めている。

 昨年に米国のクラウドファンディング・Kickstarterで約65万ドルの資金調達に成功。支援者に向けた出荷を開始し、一般販売へ向けた準備をしている段階だ。市販化時には200ドル前後の価格を見込んでいる。

EMS内蔵のトレーニングスーツ

「マッスル・アクティベイティング・スポーツウェア」という新しいジャンルを開拓するウエアラブル製品が、ドイツ発の「Antelope(アンテロープ)」だ。

EMSを内蔵したトレーニングウエア・Antelope
EMSを内蔵したトレーニングウエア・Antelope

3時間相当のトレーニングが20分に!?

右の人物が腕を上下に動かしているが、EMSの刺激が加わっているため、この動きだけでもかなりの運動になる
右の人物が腕を上下に動かしているが、EMSの刺激が加わっているため、この動きだけでもかなりの運動になる

 微弱電流で筋肉に刺激を与えるEMSをスポーツウエアに合体させた製品で、スマホアプリから最適なトレーニングメニューを選択。コースと部位に合わせた最適な電気刺激を受けながらトレーニングができる。これにより、同じトレーニングをアンテロープなしで行った場合に比べて10%の筋肉量増加が見込める他、3時間相当のトレーニングを最短20分で済ませることもできるという(全身スーツタイプを着用時)。

普通にトレーニングをする場合に比べ、大幅に効率が高まるという
普通にトレーニングをする場合に比べ、大幅に効率が高まるという

 すでに米国のクラウドファンディング・Indiegogoで92万ドル超もの資金調達に成功しており、今年8月の製品出荷が目標。オリンピックのタイミングに合わせた製品PRを計画している。開発にはドイツ・ハンブルグ大学の教授らもアドバイザーとして参加。タンクトップが299ドル、ハーフパンツが325ドル、全身スーツ(写真)が1349ドルを予定する。

微弱電流で神経を刺激!?

 こめかみから首筋にかけて電極を貼り付け、微弱な電流を流してユーザーの気分をコントロールする――。米国・西海岸発の「Thync(シンク)」は、ちょっと聞いただけでは信じられないような機能をうたっている。

Thync。こめかみの付近にある白いものが本体で、スマホとの通信機能と微弱電流の発生機能を備える
Thync。こめかみの付近にある白いものが本体で、スマホとの通信機能と微弱電流の発生機能を備える

スマホから気分を“操作”できる

頭から首にかけて電極を貼り、本体をセットしてスマホアプリを起動。なりたい「気分(Vibe)」を選んでスタート
頭から首にかけて電極を貼り、本体をセットしてスマホアプリを起動。なりたい「気分(Vibe)」を選んでスタート

 微弱な電流で神経系に刺激を与え、脳のアドレナリンにまつわる部位に影響を及ぼすことを狙った製品だといい、「アクティブモード」「リラックス(Calm)モード」などモードに応じた電極を体に貼り付け、そこにスマホとの通信機能が付いた電流発生装置をセットする。スマホでモードを選んだら“刺激“を開始。いずれのモードも約10分で終了する。

エナジー系の気分とリラックス系の気分では刺激する部位が異なるため、電極の形状も異なる
エナジー系の気分とリラックス系の気分では刺激する部位が異なるため、電極の形状も異なる

 米国・FDA(食品医薬品局)で医療機器としての認可を取得している他、約4年間で数千人のユーザーに対して試験を行い、効果を確認しているという。会場での試用はできなかったが、すでに一般販売を開始しており(199ドル)、30日間の返金保証も実施。電極を貼り付ける手間があるのがやや難だが、その効果は口コミで広がりつつあり、米国ではちょっとしたヒット商品に成長する可能性もある。

(文/有我武紘=日経トレンディ)

 
この記事をいいね!する