今回は、「桑田佳祐還暦記念企画」として、いつもの連載(「臼井孝の音楽チャートから見るヒット曲最前線!」とは別に、ヒット曲分析をしていこうと思います。アーティストによっては「ソロとバンドの活動データは別々に扱って」というお達しが入ることがあるのですが、今回は桑田佳祐の活動を統括して良いとのことなので、思いの限り5つの視点でヒット分析をしていければと思います。
【分析1】アーティストセールス~バンドでもソロでも1000万枚以上を売り上げたのは桑田佳祐だけ!
このお話をいただいたとき、最もやってみたかったのが「アーティストセールス」での「サザンオールスターズ」とサザン以外での「桑田佳祐プロジェクト」の合算です。まず、アーティスト別にこれまでのシングルとアルバムの総売上を算出したものは表1のようになり、これはテレビやネットニュースなどでよく見かけるデータだと思います。いずれのアーティストも4000万枚を超えるセールスを記録しています。
順位 | アーティスト名 | 売上枚数(万枚) |
1 | B'z | 8218 |
2 | Mr.Children | 5906 |
3 | 浜崎あゆみ | 5055 |
4 | サザンオールスターズ | 4883 |
5 | DREAMS COME TRUE | 4421 |
ただし、桑田の場合、サザンオールスターズのほかに、桑田ソロ、KUWATA BAND、チーム・アミューズ!!、SUPER CHIMPANZEE、嘉門雄三とさまざまな活動があり、特にソロ作品ではミリオンセラーの「波乗りジョニー」「白い恋人達」をはじめ多数ヒットがあるので、桑田のスゴさを知るには、それらを合算したセールスで見るべきでしょう。
これまで、例えばバラエティー番組などでゲストの芸人さんが「えっ?サザンって4位なの?(もっと上でしょ?)」みたいなコメントをするたび、私は(勝手に)歯がゆい思いをしてきました。そのムズムズ感(?)を解消するために作成したのが、以下のボーカリスト別のセールスです。
順位 | ボーカリスト名 | 合算の売上枚数(万枚) |
1 | 稲葉浩志 | 8523(305) |
2 | 桑田佳祐 | 6525(1642) |
3 | 桜井和寿 | 6115(209) |
4 | 浜崎あゆみ | 5120(68) |
5 | 吉田美和 | 4720(299) |
上位5組中4組は、いずれも100万枚以上の伸びがありますが、その中でも桑田の場合はプラス1500万枚超と大きく伸びており、サザン単体の4位から2位に浮上します。このように、バンドでもソロプロジェクトでも1000万枚以上を売り上げているアーティストは桑田佳祐のみ、という点は特筆すべきことだと思います。
【分析2】シングルでみたヒット曲~長く愛されている曲は「TSUNAMI」だけじゃない!
次に、各ヒット曲について見てみます。まずは、その指標として、最も語られることの多いシングルセールスの売り上げ順で見てみます(以下、表中にて「サザンオールスターズ」は「SAS」、「KUWATA BAND」は「KB」と表記)。
売上順 | 名義 | 曲名 | 売上 (万枚) |
発売年 |
1 | SAS | TSUNAMI | 294 | 2000 |
2 | SAS | エロティカ・セブン | 174 | 1993 |
3 | 桑&Mr.C | 奇跡の地球 | 172 | 1995 |
4 | SAS | 涙のキッス | 155 | 1992 |
5 | SAS | 愛の言霊~Spiritual Message | 140 | 1996 |
6 | 桑田 | 白い恋人達 | 123 | 2001 |
7 | SAS | あなただけを~Summer Heartbreak~ | 113 | 1995 |
8 | 桑田 | 波乗りジョニー | 111 | 2001 |
9 | SAS | シュラバ★ラ★バンバ | 97 | 1992 |
10 | Z団 | 江ノ島 | 90 | 1993 |
これを見ると「TSUNAMI」「エロティカ・セブン」「奇跡の地球」「涙のキッス」「愛の言霊」と、確かにヒット曲と呼ばれる楽曲が多いのですが、TOP10はいずれも1992~2001年とミリオンヒットが連発していた時代に集中しており、それ以外の時代と同列で並べても「ヒット曲」は見えにくいと思われます。そこで、ここではロングヒット順に並べてみました。
ロングセラー順位 | 売上順 | 名義 | 曲名 | ランクイン週数 | 発売年 |
1 | 1 | SAS | TSUNAMI | 49 | 2000 |
2 | 13 | SAS | 勝手にシンドバッド | 38 | 1978 |
2 | 15 | SAS | いとしのエリー | 38 | 1979 |
4 | 19 | SAS | チャコの海岸物語 | 37 | 1982 |
5 | 36 | 桑田 | 悲しい気持ち | 35 | 1987 |
6 | 21 | SAS | 真夏の果実 | 34 | 1990 |
7 | 33 | SAS | ピースとハイライト | 30 | 2013 |
7 | 39 | SAS | ボディ・スペシャルII | 30 | 1983 |
9 | 38 | SAS | Ya Ya(あの時代を忘れない) | 29 | 1982 |
10 | 26 | KB | BAN BAN BAN | 26 | 1986 |
11 | 42 | SAS | ミス・ブランニュー・デイ | 25 | 1984 |
15 | 32 | 桑田 | 明日晴れるかな | 23 | 2007 |
15 | 43 | SAS | 匂艶 THE NIGHT CLUB | 23 | 1982 |
15 | 46 | SAS | メロディ(Melody) | 23 | 1985 |
15 | 63 | SAS | 東京シャッフル | 23 | 1983 |
これを見ると、1位は売り上げ順と同じく「TSUNAMI」で、やはりこの曲が一般リスナーにとって最強であるようです。その後を見ると「勝手にシンドバッド」「いとしのエリー」「チャコの海岸物語」、そして桑田ソロの「悲しい気持ち」など、“ザ・ベストテン世代”には懐かしいヒット曲が並んでいます。
また、10位にはKUWATA BANDの「BAN BAN BAN」もランクイン。この曲は、おニャン子クラブ全盛で、ヒット曲が毎週のように大きく入れ替わる1986年に発売されましたが、13週連続TOP20入りし、ザ・ベストテンでは年間1位となりました。意外なところでは、15位に1983年の「東京シャッフル」がランクイン。累計では10万枚そこそこの売り上げですが、同年末のNHK「紅白歌合戦」に出場し、メンバー全員で楽器を持たずダンスしたことが話題となり、年明けも数カ月間チャートインするという、時代を先取りした紅白効果が実は起こっています。
88年に8cmシングルCD、05年に12cmシングルCDでの過去作品の一挙発売があり、その分全体にロングヒット感が底上げされていますが、それでものべ20週間、5カ月以上というロングヒットが、70年代から10年代まで5年代にわたり、さらにいくつものアーティスト名義で合計23作もあるというのは桑田佳祐のみです。
【分析3】カラオケランキング~ボーカリスト別ではトップ!
続いて、カラオケヒットについて見てみます。シングルチャートは、発売された1年のみ大きなブームに乗って売れたものが大半となるのに対し、カラオケチャートでは長年愛されてきた1年以上前の作品が7~8割を占めます。つまり、ここでは多くの「記憶のヒット曲」を見ることができます。まず、2015年の年間TOP2000に入った楽曲をアーティスト別、さらにここでも(笑)ボーカリスト別にまとめてみました。
順位 | アーティスト別 | 曲数 |
1 | Mr.Children | 26 |
2 | 西野カナ | 24 |
3 | サザンオールスターズ | 22 |
4 | 嵐 | 21 |
5 | 五木ひろし | 19 |
6 | いきものがかり | 18 |
7 | EXILE | 17 |
7 | 三代目 J Soul Brothers | 17 |
9 | AKB48 | 16 |
10 | back number、μ's、BUMP OF CHICKEN | 15 |
順位 | ボーカリスト別 | 曲数 |
1 | 桑田佳祐 | 26.5 |
1 | 桜井和寿(Mr.Children) | 26.5 |
3 | 西野カナ | 24 |
4 | 二宮和也(嵐) | 22 |
5 | 五木ひろし | 19 |
5 | EXILE ATSUSHI(EXILE) | 19 |
5 | 今市隆二、登坂広臣(三代目 J Soul Brothers) | 19 |
8 | 吉岡聖恵(いきものがかり) | 18 |
9 | 南條愛乃、Pile、徳井青空(μ's) | 17 |
10 | 高橋みなみ(AKB48) | 16 |
アーティスト別で見ると、シングルセールスに続き、ここでもMr.Childrenが上位入り! また、10代・20代に圧倒的な人気の西野カナや嵐が2位と4位、息の長い演歌の五木ひろしが5位、さらに2015年に大きく躍進した『ラブライブ!』のμ'sと3人組バンドのback numberが10位と、いかにもカラオケ鉄板曲がありそうなアーティストがズラリと並びました。
その中でサザンは堂々の3位、ボーカリスト別では桜井和寿と並び1位となっています。大半が2000年代以降にデビューしたアーティストの中で、ポップス系では桑田が群を抜いてのベテランとなっています(ちなみに1980年以前デビューのポップス系で次点は中島みゆきの8曲)。さらに、その人気曲を発売年順に並べてみます。
発売年 | 名義 | 曲名 |
1978 | SAS | 勝手にシンドバッド |
1979 | SAS | いとしのエリー |
1981 | SAS | 栞のテーマ |
1982 | SAS | チャコの海岸物語 |
1982 | SAS | Oh!クラウディア |
1982 | SAS | YaYa(あの時代を忘れない) |
1984 | SAS | ミス・ブランニューデイ |
1990 | SAS | 真夏の果実 |
1990 | SAS | 希望の轍 |
1992 | SAS | 涙のキッス |
1993 | SAS | エロティカ・セブン |
1994 | 桑田 | 祭りのあと |
1995 | 桑&Mr.C | 奇跡の地球 |
1995 | SAS | マンピーのG★SPOT |
1996 | SAS | 愛の言霊 |
1998 | SAS | LOVE AFFAIR |
2000 | SAS | HOTEL PACIFIC |
2000 | SAS | TSUNAMI |
2001 | 桑田 | 波乗りジョニー |
2001 | 桑田 | 白い恋人達 |
2007 | 桑田 | 明日晴れるかな |
2013 | SAS | ピースとハイライト |
2013 | SAS | 栄光の男 |
2013 | SAS | 蛍 |
2014 | SAS | 東京VICTORY |
2015 | SAS | アロエ |
2015 | SAS | イヤな事だらけの世の中で |
ここでも、シングルのロングセラー同様に、1970年代から2010年代の、サザン/桑田ソロ名義の楽曲が多数並びますが、注目は1982年のアルバム「NUDE MAN」収録の「Oh!クラウディア」から最新アルバム「葡萄」収録の「アロエ」「イヤな事だらけの世の中で」までアルバムやシングルカップリング曲も少なくないことです。また、「栞のテーマ」もシングルでは最高35位。これも、単にシングル・ヒットだけでは見えない桑田佳祐のスゴさといえるでしょう。
【分析4】アルバム~大ヒットアルバムの数はNo.1!
前の分析でシングルだけでは語れないと述べてしまったので(苦笑)、ここではアルバム・セールスについて語ってみます。とはいえ、アルバムも1990年代が大きなピークであり売り上げ枚数ではそのヒット感が語れないので、発売された年の年間セールスTOP10の「第10位作品」をヒット基準とし、それよりどれだけ売れているかを見ていくことにします。
発売年 | 名義 | アルバム名 | ヒット指数 | (参考)その年の10位のアーティスト/アルバム名 |
1978 | SAS | 熱い胸さわぎ | 30 | 渡辺真知子/海につれていって |
1979 | SAS | 10“ナンバーズ”からっと | 161 | 柳ジョージ&レイニー・ウッド/YOKOHAMA |
1980 | SAS | タイニイ・バブルス | 103 | YMO/パブリック・プレッシャー |
1981 | SAS | ステレオ太陽族 | 90 | 五輪真弓/恋人よ |
1982 | SAS | NUDE MAN | 203 | ナイアガラトライアングル/Vol.2 |
1983 | SAS | 綺麗 | 135 | 中森明菜/エトランゼ |
1984 | SAS | 人気者で行こう | 160 | 杏里/TIMELY!! |
1985 | SAS | Kamakura | 183 | USA for AFRICA/We Are The World |
1986 | K.B. | NIPPON NO ROCK BAND | 142 | 山下達郎/ポケット・ミュージック |
1988 | 桑田 | Keisuke Kuwata | 126 | 氷室京介/FLOWERS for ALGERNON |
1990 | SAS | Southern All Stars | 211 | 岡村孝子/KISS |
1990 | SAS | 稲村ジェーン | 154 | B'z/RISKY |
1992 | SAS | 世に万葉の花が咲くなり | 155 | 槇原敬之/君は僕の宝物 |
1994 | 桑田 | 孤独の太陽 | 102 | Various Artists/NOW 1 |
1996 | SAS | Young Love | 116 | 相川七瀬/Red |
1998 | SAS | さくら | 43 | MISIA/Mother Father Brother Sister |
2002 | 桑田 | ROCK AND ROLL HERO | 73 | CHEMISTRY/The Way We Are |
2005 | SAS | キラーストリート | 119 | BoA/BEST OF SOUL |
ORANGE RANGE/ИATURAL (※) | ||||
2011 | 桑田 | MUSICMAN | 105 | いきものがかり/いきものばかり~メンバーズBESTセレクション~ |
2015 | SAS | 葡萄 | 160 | Kis-My-Ft2/KIS-MY-WORLD |
これを見ると、「勝手にシンドバッド」がヒットしたものの、まだコミック・バンドと思われがちだった1978年の1stアルバム「熱い胸さわぎ」と、内省的なシングルやリード曲が多かった1998年の「さくら」がやや低いものの、そのほかのアルバムは、35年以上にわたって大ヒットしていることが分かります。
また、ヒット基準とした10位作品のアーティストを併記しましたが、これを眺めてみても、それぞれの時代を感じるほどで、桑田はそのどの時代でもヒット・アーティストとして闘ってきたのです!
【分析5】配信チャート~ダウンロードでも堂々の上位入り
最後に、ダウンロード部門でのヒットについても見てみます。「CDは売れていても、若い子が多い音楽配信では売れてないんでしょ?」と思う人もいそうですし、実際、一部のベテラン・アーティストでは配信されていない楽曲も多く見られます(桑田ソロの一部やKUWATA BANDの楽曲も2015年末時点では未配信)。その中で、サザンオールスターズ(2014年末に全曲の配信が開始)の最新アルバムについて、2015年年間TOP10をCDパッケージ(オリコン)とダウンロード(iTunes)で比較してみました。
順位 | CDアルバム | ダウンロード |
1 | 嵐 | DREAMS COME TRUE |
2 | 三代目 J Soul Brothers | 「ワイルド・スピード スカイミッション」 |
3 | DREAMS COME TRUE | サザンオールスターズ |
4 | AKB48 | テイラー・スウィフト |
5 | AKB48 | ONE OK ROCK |
6 | Mr.Children | サム・スミス |
7 | サザンオールスターズ | SEKAI NO OWARI |
8 | SEKAI NO OWARI | アリアナ・グランデ |
9 | 関ジャニ∞ | 三代目 J Soul Brothers |
10 | Kis-My-Ft2 | 「2015グラミー・ノミニーズ」 |
これを見ると、アイドルグループが半数を占めるCDアルバムでも、洋楽作品が半数を占めるダウンロードでも、サザンは上位入りしていることが分かります。その中で、両チャートにランクインしたベテランの作品は、DREAMS COME TRUEと、サザンオールスターズの2作のみ。しかも、DREAMS COME TRUEのほうは50曲入りのオールタイムベストで、普段のオリジナル盤を購入しないファンまでも多数引き寄せた結果での好成績(実際、彼らの前オリジナルの4倍以上の売り上げ)なのに対し、サザンオールスターズは13年から14年の先行シングルを収録しているとはいえ、オリジナル盤ですから、このCD7位、iTunes3位というのは大健闘といえるでしょう。
また、2014年12月第3週にiTunesにて全曲の配信を開始した際、週間TOP50にやはり5つの年代の楽曲が計14曲ランクインしたことも、やはりリアルタイムでのファンのみならず、後追いで知ったファンも多いからだと考えられます。
【まとめ】世代を超えて支持される「ヒット曲」「ヒット・アーティスト」
以上、5つの切り口で、桑田佳祐のスゴさを振り返ってきました。このような歴史をひも解いてみると、40代、50代と衰えずヒットを飛ばしていることから、この還暦以降も新たなヒット曲が出ることは間違いないでしょう。サザンオールスターズや桑田佳祐のライブに行くと、親子2代、時には3代にわたって来ているファンの方を見かけることも少なくありません。そんな世代を超えて支持される楽曲やアーティストこそが「ヒット曲」であり「ヒット・アーティスト」だと実感しています。今後も、そんな楽曲が多数生まれることを一ファンとしても期待しています!