――鉄道デザインを手がけて20年以上経つが、乗客のニーズ、反応などは変わってきているか。

水戸岡:いつの時代も最も意識してきたのは、「時代の求める用と美」を取り入れること。

 乗車時間がたとえ1分でも、鉄道による移動はすべて「旅」だと思っている。子供にとってはわずか5分の電車移動でも旅だろうし、通勤電車に乗ることも1つの旅だと思っている。鉄道の移動を「1つの旅」と捉えると、五感で味わう全てを満足させなければならない。視覚や触感などで心地よいと感じるものを使うことが多くなるのはそのためだ。

 なかでも重視しているものの1つが「窓」だ。車両デザインでは1人に1つの窓、つまり「額縁」を提供できるように工夫している。一般的な鉄道の場合、車窓から見える景色は確かにきれいだが、車内が十分にデザインされていないので、良い景色を良いと感じられないことがある。けれども額縁である窓をきっちり作り、車両内装をホテル並みに仕上げると、外の景色が一変し、一層特別に見えてくる。

 ホテル以上の居住空間と、ホテルでは味わえない車窓の変化、そしてホテル以上のサービスが提供できれば、鉄道はホテルを上回る高級な空間になると思っている。

――「贅沢な鉄道の旅」という点では、水戸岡氏が車両デザインを手がけた観光列車「SL人吉」は今、特に人気を集めている。

水戸岡:JR九州の鹿児島本線・肥薩線の熊本―人吉間を走るSL人吉では、昔から走っていた懐かしいSLを復活するというのが大きなテーマだった。新幹線「つばめ」が最先端のスピードで新八代から鹿児島中央まで走るのに対して、最もローカルなものを組み合わせたいと思った。高速で走る新幹線と、ゆっくり走るSLを対比させ、最先端技術を用いた新幹線で鹿児島を訪れ、昔からある球磨川沿いをゆっくり走るSLで熊本まで戻る(あるいはその逆)ことで、最新と伝統の両方を、鉄道の旅で楽しんでもらうのが狙いだ。

 SLは、かつて豊肥本線の熊本―宮地間を走っていた「SLあそBOY」を大幅修復して使うことが決まった。ではどんな客車を引っ張らせるか。そこで考えたのが、使い勝手は良いが、デザインは懐かしいと感じるレトロなもの。

 これに加えて、子供に楽しんでもらいたいと思った。祖父母が孫を連れて来たい、親が子供を乗せたいと思うような車両をと考えた結果、展望ラウンジに1つの目玉を作ることにした。それが列車の最前部と最後部に設けた子供用の椅子だ。ガラス張りの展望ラウンジのなかでも、最も景色が良く見える場所に小さな子供用の椅子を2脚ずつ取り付けた。

 当初は、「もし子供が転んだらどうするのか」などと反対もされた。だが「もしも」のことを考えるよりも、私は積極的に楽しいことを選びたいと思った。

 また展望ラウンジでは床までガラス張りにした点も新しい。実際に展望ラウンジに乗ってみると、SL人吉の走行路線に沿って流れる球磨川の景色も十分に見下ろせる。ゆっくり走る車両の割にスピード感を感じるのも、ガラス張りの面積が大きく、目の前の景色が変わってゆくからだ。

「SL人吉」は鹿児島本線・肥薩線の熊本―人吉間で金土日曜・祝日などに1日1往復運行。3両編成で定員は132人。指定席料金は大人800円。展望ラウンジがあるのは、1号車と3号車だ(画像クリックで拡大)

水戸岡氏が特にこだわったのが、展望ラウンジに備えた子供用の椅子。取材に訪れた8月中旬も、子供たちが入れ替わり立ち代り、子供用の椅子に腰かけていた(画像クリックで拡大)

車内はレトロな雰囲気。木をふんだんに使った内装が印象的だ。また人吉では、スタッフによる「熊本方言講座」なども開催される(画像クリックで拡大)