「ザ・プレミアム・モルツ」(画像クリックで拡大)

 サントリー「ザ・プレミアム・モルツ」のブランド戦略は、まさしく“弓で矢を放つ”がごとく的中した。

 同社が弓に矢をついだ――すなわち、「ザ・プレミアム・モルツ」の前身となる「モルツスーパープレミアム」を東京都多摩地区で限定発売を開始したのは、1989年のことだった。このときから、サントリーは、ゆっくり、ゆっくりとブランド戦略の“弓”を絞り始める。


「ザ・プレミアム・モルツ」の年別販売実績推移

 12年後の2001年、全国のユーザーに対して発売したこの年は49万ケース(1ケース=ビールの大瓶633mlの20本分として換算)、翌年には43万ケースを販売した。

 2003年、ブランドを現在の「ザ・プレミアム・モルツ」にリニューアルし、リニューアル前と後の合計で51万ケースを販売。翌2004年は60万ケースと、それでもまだ矢は放たれず、弓だけが引き絞られ続けた。

 そして、ついにその時が来た。2005年6月、ザ・プレミアム・モルツが、日本のビールとして初、また、初めてのエントリーでの最高金賞受賞も初となる「モンドセレクション最高金賞」を受賞したのである。機を見た同社は、そこで初めて多額の資金を投入し、テレビCMを含む大々的な宣伝活動をスタートさせた。

 結果、その年の販売数は前年の約2倍の126万ケースとなり、翌2006年は前年の約4.4倍の550万ケース、続く2007年は前年比173%の951万ケース、そして、2008年、ついに1000万ケースの壁を突破して、前年2割り増しの1149万ケースを販売。2009年も1266万ケースと順調に売り上げを伸ばしている。

 しかも、このザ・プレミアム・モルツの大ヒットが原動力となり、サントリーは「ビール類の課税出荷の年間シェア」12.4%で、サッポロを逆転し、業界3位に浮上。悲願の「ビール事業の黒字化」を初めて達成したのである。

 放たれた「ザ・プレミアム・モルツ」ブランドという“矢”は、ここ数年で“プレミアムビール市場”を飛躍的に拡大させ、サントリーに限らず、ビール業界全体に大きな影響を及ぼした。だが、このブランドの矢がこれほどまでの効果を発揮できたのは、その“放つタイミング”が絶妙だったからだけではなかった。

 矢に力を与えるためには、体力を消耗しながらも、ひたすら弓に大きな“射出力”を貯め続ける必要がある。

 競争の激しいビール業界において、いつ“当たる”とも知れぬまま、サントリーはどうして、16年もの長きにわたって「ブランド戦略」という名の弓を引き絞り続けることができたのか。

 長きにわたる待機と忍耐の歳月、事業に関わった同社の社員たちを支え続けたものは、たった一つ――「本当に美味しい」というブランドに対する愚直なまでの信念だった。  実は、このビールが生まれた理由からして、そうだった。