ワインをテーマとした漫画「神の雫」(原作・亜樹直、作画・オキモト・シュウ)が2009年7月、料理本のアカデミー賞とされる「グルマン世界料理本大賞」の最高位を受賞した。漫画では初。フランス・パリでの授賞式と同時期に開催された「JAPAN EXPO」の会場では、漫画家オキモト・シュウ氏のサイン会も開かれ多数の人でにぎわった。

 講談社の週刊モーニングで神の雫の連載が始まったのは2004年11月。これまで20巻で累計400万部が販売されている。取り上げられたワインがネットショップですぐに売り切れてフランスにも注文が殺到したことなどから、08年4月に仏グレナ社が翻訳してフランス語版を発売。これまでに8巻で計35万部を販売した。

フランス語に翻訳されて現地で売られている「神の雫」(Les Gouttes de Dieu)(画像クリックで拡大)

 神の雫はワインの教本的な存在として韓国でも発売され、250万部が売れている。オキモト氏は、ワインの本場フランスでも翻訳されるようになったことで「ラベルの文字のスペルチェックなども慎重になった」と笑う。

 講談社は20年以上前から海外の出版社と版権契約を結び、海外での漫画出版を積極的に進めてきた。以前は漫画を海外出版する際、右開きを左開きに変更するなど、各国の事情に合わせていたという。ただ現在は、日本の漫画の読み方が定着してきている。日本と変わらないスタイルで出版できるようになった。日本の書き文字がそのまま出版されることもある。「日本の漫画を読む文化が、幅広い年代に根付きつつある」と語るのは週刊モーニングの古川公平編集長。インターネットが普及し、漫画の情報が入手しやすくなっていることも読者層の広がりを後押ししている。

 JETRO(日本貿易振興機構)の調べでは、日本でも人気の漫画「ドラゴンボール」の様々なバージョンをあわせたフランスでの累計販売数は1900万部。「NARUTO」も900万部に達しており、少年少女向けの漫画の人気は高い。一方「『神の雫』のヒットなどで、漫画は大人も読めることが一般の人にも理解されてきている」(古川編集長)。

 「会場にあまり人がいなかったら…」――サイン会を前に不安顔だったオキモト氏も「あれだけ集まったら十分。もう、すごい!」と興奮気味に会場を後にした。JETROによれば07年のフランス国内の漫画市場は出版市場全体の2%超。「マンガ」は海外でも確実に定着してきている。

 ただ、ビジネスとして考えれば難しい側面もある。古川編集長が指摘するのは「物価や流通の仕組みの違い」だ。例えば米国では、漫画本が1冊10ドルほど。流通の仕組みの違いなどから日本と比べて高価だ。「販売価格を日本と同じ500円程度に抑えられれば爆発的に売れる可能性もある」(古川編集長)。中国などのように海賊版があり、高価な正規版を作ってもビジネスになりにくい国もある。古川編集長は漫画のグローバル化を進めるため「国との協力体制も築いていきたい」と話す。

 グローバル化には、漫画家はもちろん、漫画編集者の育成も重要だ。フランスには漫画家を目指す若者がいる。漫画家養成コースを設ける学校もある。最近はフランスの出版社が自ら漫画を出版しようとの動きもあるという。

 モーニングはこれまで、海外の編集者を編集部に留学させるなどして、漫画の海外普及に積極的に取り組んできた。研修にきた人たちはフランスやイタリア、スペインなどに戻って、漫画関係の仕事をしている人もいる。モーニングでは日本と外国の漫画家の作品を同時掲載する増刊号「マンダラ」を出版しているほか、海外の漫画家のための「モーニング国際新人漫画賞」も設けている。

サイン会には、オキモト・シュウ氏(中央)のほか、モーニング編集長の古川公平氏(左)も出席した(画像クリックで拡大)