【アキシブ系】
(あきしぶけい)

<意味>「アキバ系」(オタク文化圏)と「渋谷系」(サブカル文化圏)の融合現象を指す言葉。

はてなダイアリーキーワードより引用

日本発のユニークな音楽スタイル

 「アキバ系」「渋谷系」が結びついた造語で、音楽やその周辺の文化を示す。音楽のジャンルを示すだけではなく、その成立の経緯や背景も含めて使われることが多いようだ。この「オタク」と「オシャレ」の象徴のような両者が、どこで結びついたのかは定かでない。

 まずアキバ系が示すのは、オタク文化と関連の深いアニメソングやアイドル歌謡、ゲーム音楽など。それに対する渋谷系は、ピチカート・ファイヴフリッパーズ・ギターに代表されるような、ジャズやソウル、ボサノバやギターポップなどを原型に持つ音楽スタイルである。

 そこに日本のオタク文化からの影響を公言する、ダフトパンクのような海外のアーティストが登場。これが渋谷系のホームグラウンドと言えるクラブシーンにも影響を及ぼし、ゲームやアニメの音楽をリミックスするDJも現われるようになった。このあたりからアキバ系と渋谷系は接近し始めたのではないか。

 そうしたアキシブ系の象徴的な例が、2007年に「ポリリズム」でブレイクしたパヒュームと、そのプロデュースで一躍有名になった中田ヤスタカのアプローチだろう。彼のユニットであるカプセルの初期は、ピチカート・ファイヴの影響下にある、極めて典型的な渋谷系のユニットだった。そこにテクノの派生スタイルであるフレンチエレクトロの手法を加え、現在のスタイルを確立している。アキバ系のアイドルグループであるパヒュームの楽曲は、実際に渋谷系との融合によって成り立っていたのだ。

「ポリリズム」でブレイクを果たしたパヒュームの公式サイト

 アキシブ系でいまもっとも先鋭的なのは、チップチューンと呼ばれる音楽スタイルだろう。8bit時代のファミコンやMSXの内蔵音源を使ったような、レトロなテクノサウンドを指す。日本のYMCKというユニットがその代名詞的存在で、ゲーム音楽そのもののサウンドをバックに、渋谷系の流れを汲むオシャレなポップソングを聴かせる。すでに彼らは海外でも人気が高く、国内では2008年1月にはメジャーデビュー作『ファミリージェネシス』の発売が予定されている。アキバ系と渋谷系の結びつきが、日本発のユニークな音楽スタイルを生んだわけである。

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【初音ミク】
(はつねみく)

<意味>WINDOWS用のソフトウェア。ヤマハの音声合成システム「VOCALOID 2」を採用した、クリプトン開発のソフトウェア音源。担当声優、藤田咲さんの音声データが内蔵されており、VOCALOID 2エンジンで歌わせることができる。

はてなダイアリーキーワードより引用

既存の音楽産業の在り方に一石を投じた

 クリプトン・フューチャー・メディアが開発した、人声でメロディーを奏でるソフトウエアシンセサイザー。メロディーや歌詞を入力し、いくつかの制御パラメーターを設定することで、本物の人間に近い歌唱表現が可能になる。これが国内のDTM愛好家に人気を呼び、この種の音楽ソフトとしては異例の大ヒットとなった。発売は2007年8月31日。

「初音ミク」のパッケージ。実売価格が1万5750円程度と安いのもブームの遠因となった(画像クリックで拡大) 「初音ミク」の画面。音階に歌詞を入力して曲を作成する(画像クリックで拡大)

 音声合成に関わるエンジン部分はヤマハの「Vocaloid 2」を利用し、これに独自の音声データを搭載したのが初音ミクである。この技術は決して新しいものではなく、2004年には一世代前の「Vocaloid」エンジンを使った「MEIKO」が、2006年には同じく「KAITO」が発売されている。また海外でもVocaloid 2エンジンを使った製品は出回っているが、いずれも初音ミクほどのヒットには至っていない。

 初音ミクがヒットした背景には、音声データの素材としてアニメ声優の藤田咲を起用したこと。そしてイラストレーターのKEIによる萌え系キャラクターをパッケージに使い、身長や体重などの特徴を設定したことだろう。このようにバーチャルシンガーとしてのキャラクターを明確にすることで、作り手側、聴き手側の双方が初音ミクや、その楽曲へのイメージを持ちやすくなった。身も蓋(ふた)もない言い方をすれば、オタク市場向けの強力なフックを用意したわけである。

 初音ミクが最初にブレイクしたのは「ニコニコ動画」のような動画投稿サイトだった。ここにアマチュアの作曲家やアレンジャーが競うようにして楽曲を投稿。中にはプロがお忍びでやっているのではないかと思えるほど質の高い曲もあり、そうした曲はコメントの弾幕という形で喝采をあびることになる。ニコニコ動画はミュージシャンにとってのストリートとして機能していたわけである。

 人気の高い曲については、ごく自然な形で二次利用が進んでいった。他のユーザーによるアレンジやリミックス、3Dアニメのプロモーションビデオなどといったさまざまな二次創作物が登場し、これが原曲の評価を高めることへとつながった。そのための音源や画像データの共有も、クリエイター間でごく当たり前に行われている。オープンソース以外の分野で協労関係が成立している貴重な例と言え、このような形で日本独自の音楽シーンが形成されつつあることは注目に値する。

 その一方で、こうした音楽や映像の創作プロセスは、既存の音楽産業との親和性が著しく低い。初音ミクの代表曲『「みくみくにしてあげる♪」【してやんよ】』を着うたとして配信するににあたり、音楽出版社のドワンゴ・ミュージックパブリッシングは著作者からこの曲の出版権を預かり、JASRACに著作権管理を信託した。著作権をどう扱うかは著作者自身が決めることであり、JASRACへの登録は業界内では常識的な操作だ。

 しかし、それによって楽曲の二次利用が制限され、その結果得られるだろうプロモーションの機会を著作者は失うことになる。他のユーザーによるコピーや改変、再アップロードが難しくなるため、今までニコニコ動画を中心に形成されてきた共労関係が、事実上、成り立たなくなるからだ。ネット発の音楽が、ネットならではのシーンを形成し、広がっていくためにどうすべきか。初音ミクのヒットは、そうした大きな問題提起も含んでいるのではないか。

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・着うた配信及び今後の協業に関する共同コメント(クリプトン・フューチャー・メディア)
・着うた配信及び今後の協業に関する共同コメント(ニコニコニュース)

著者

四本淑三(よつもと としみ)

デジタル音楽コラムニスト。1963年生まれ。高校在学中に音楽ライターとしてデビュー。シンセサイザーのマニュピレータを経た経験から、デジタル系の音楽機材にも詳しい。