3月上旬からアップルが展開している「ワールドギャラリー iPhone 6で撮影」(海外では「Shot on iPhone 6」)が注目を集めている。世界各地のフォトグラファーがiPhone 6で撮影してインスタグラムなどで公開した美しい写真をアップルが選出し、特設サイト上で紹介するものだ。選ばれた写真は、新聞の見開き広告でも数回にわたって写真が大きく掲載され、SNSなどで大きな話題となった。日本人フォトグラファーが撮影した写真も少なからず選ばれており、日本のiPhoneユーザーの技術の高さが世界に知れ渡ることとなった。今回、日本人フォトグラファー3名と台湾出身の女性フォトグラファー1名の計4人に取材する機会に恵まれたが、すべての人がデジカメではなくiPhoneをメーンで使い続けているという。iPhoneでの撮影にこだわる理由や、美しい写真を撮影するためのポイントなどを聞いた。

3月上旬から数回にわたって、アップルの特設サイト「ワールドギャラリー iPhone 6で撮影」で紹介された写真の一部が朝刊各紙の見開きで掲載され、大きな話題を呼んだ
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「標準のカメラアプリで撮影、加工いらずで精細さは十分」と語る宮瀬浩一さん

 円柱状の穂が印象的なガマが生い茂る湿地に女性がたたずむ姿の写真は、宮瀬浩一さんの作品だ。一見すると日本とは思えないような光景だが、実は大阪の万博公園(大阪府吹田市)に赴いてiPhone 6で撮影したものだという。

今回選ばれた宮瀬さんの写真。非日常的な雰囲気のなかにストーリーを想像させる
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 デザイン関係の仕事を手がける宮瀬さんは、仕事でカメラマンに同行して撮影に行く際、撮影や打ち合わせ、移動などの合間に手持ちのiPhoneで写真を撮り始めたのがiPhoneの写真にハマるきっかけだったという。iPhoneの魅力について、宮瀬さんは「いつも手軽に携帯できるiPhoneで写真がきれいに撮れ、編集用アプリで好みの表現に加工でき、SNSでシェアすれば世界中から反応がある。たった1台のiPhoneでそれらが完結するのが楽しいし、とても魅力的」と語る。

 採用された写真は、iPhone標準のカメラアプリで撮り、撮影後の加工はまったくしていないという。「iPhone 6の内蔵カメラは800万画素だが、髪の毛も1本1本がつぶれておらず、ディテールをよく表現してくれる。パソコンの画面で見る限りは、フルサイズのデジタル一眼レフカメラで撮影したものと比べても、その違いは分からないと思う」と高く評価する。

 宮瀬さんはデジタル一眼レフカメラも持っているが、iPhoneがメーンの機材になっている。山歩きなどで機動性を確保するために装備を軽くしたいのもあるが、iPhoneでの撮影に身体が慣れたこともあるという。興味深い話として、雪山に撮影に行った際、山荘で食事を取るために暖かい室内に入ったところ、デジタル一眼レフはレンズの内部が結露してしばらく使えなくなったのに対し、iPhoneはまったく問題なく使えたという。

 iPhoneのカメラに対しては、レンズがより明るくなれば理想的だとコメントした。日が昇っていく時や沈んでいく時を撮るのが好きだといい、「レンズが明るくなれば深みの表現が増すし、光が少ない状況でもパーフェクトな写真に近づける」と語る。画素数は現状の800万画素で十分であり、「これ以上画素数を増やしても写真の容量が大きくなるだけでメリットはあまりないだろう」と述べた。

2014年の大晦日、和歌山の海岸線を息子さんとツーリングした際、串本にある橋杭岩という奇岩群で撮影した写真。この日はちょうど干潮時と日の出が重なっていたため、岩場の奥まで進み、まだ低い光が岩と海面を浮き上がらせる光景を見事にとらえた
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佇む人に感情移入できるような写真を表現したい

 今回選ばれた写真を含め、宮瀬さんが撮影のテーマのひとつとしているのが「Exploring the earth」だ。非日常的なシーンに人物が何気なく存在しているという表現だが、いわゆるポートレート写真のように、人物の表情を強調するものではない。「写真を見た人が、写っている人物になったつもりで感情移入してほしい。その人の周囲にどのような世界が広がっているのか、どういう気持ちでそこに佇んでいるのかを想像してもらいたい」(宮瀬さん)

 Exploring the earthのコンセプトに共感した世界中のインスタグラマーが撮影した写真は、「Pinterest」で撮影場所にピンを打ってマッピングしている。Exploring the earthのコミュニティーを見ると、世界地図上に約280カ所もピンが打たれている。

 宮瀬さんが撮影にあたって力を注いでいるのが事前のリサーチで、「さまざまな手段をフルに使って徹底的に調べ上げる。調べたうえで撮影に臨まなければ、そこで自分が撮りたい写真のイメージに近づけることができない」と力説する。狙った被写体が一番美しく撮影できる季節や時間、撮影ポイントを調べたうえで、一番よいタイミングを狙って撮りに行くのだという。単純にインターネットの検索だけではなく、インスタグラムなどのSNSや友人のつながりを駆使して情報交換をするのも宮瀬流だ。

 天気予報も撮影の判断を左右する重要な要素だ。「葉が生い茂る森は、差し込む光が複雑な晴れよりも、雨の日のほうが緑がしっとり表現できる。週末の天気予報が雨だったら森に行ってみようか、晴れだったらあそこにしよう、と行く場所を考える」という。

この3月に富士五湖を訪ねた時の写真。富士山を撮りに行って濃霧に会い、とある湖近くの林道でこの幻想的な情景に出くわしたという
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インスタグラムで世界から刺激を受けつつ、世界中に日本の美しさを発信

 「同じ場所を定点的に撮るのもいい。でも、自分がまだ行ったことのない場所を探検するような感覚で写真を撮っていきたい」と語る宮瀬さん。興味がある場所の1つがアイスランドだという。「アイスランドは変化に富んだ風景が素晴らしい。火山が多いうえに北極に近いので、さまざまな自然の美しさが凝縮されている。氷河や氷山に流氷、オーロラ、美しい滝や湖、黒い溶岩のビーチ…そして温泉まである。アイスランドに行ったインスタグラマーの写真を見ておおっと思い、断然興味が湧いた」と語る。

 インスタグラムをはじめとするコミュニティーから情報を得る一方で、「自分が撮りに行った日本の美しい場所も、多くの人に足を運んで写真を撮ってほしい。同じ場所でも人それぞれの表現が違うのが面白い」という。クールジャパンのブームもあって日本に興味を持つ外国人は多いようで、「インスタグラムに載せた写真を見た人が『日本に行くからぜひ案内してほしい』と連絡してくることがあり、都合が合えばできるだけ案内している」という。特に今住んでいる奈良の自然は四季折々の美しさがあり、なかでも桜で有名な吉野山の美しさには案内した誰もが感動するのだそうだ。

 「iPhoneで撮影する自分のスタイルは、レンズ交換ができない分、被写体との距離感が命なんです」という宮瀬さん。 その分、丹念なリサーチと撮影に貴重な休日の時間を割き、世界中の人からの期待に応えているわけだが、宮瀬さん自身の世界も確実に広がっていた。

風が強く雪が降った日の夕方、奇跡のように晴れた琵琶湖の風景を撮った一枚。冬の琵琶湖は、時に荒れた海のように白波が立つのだという
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