ネーミングが列車デザインを決める

櫻井氏:唐池さんのネーミングから水戸岡さんはどのようにデザインを展開していくんでしょうか。

唐池氏:例えば特急「指宿のたまて箱」の場合、ネーミングの基は、指宿に伝わる浦島太郎伝説です。だから水戸岡さんは車体を白と黒の真っ二つに塗り分けたんです。黒髪の浦島青年が、たまて箱を開けた途端に白髪の老人になったのをイメージした車両なんです。

日本最南端のJR線、指宿枕崎線を行く特急「指宿のたまて箱」。白黒の顔がユニーク
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櫻井氏:あのデザイン非常に斬新です。

唐池氏:でしょう? 斬新なくせに、飽きない。それが水戸岡さんのすごさです。「ななつ星」も僕はもう毎回、何十回見てもね。飽きない。もう全く感動は衰えないですね。

櫻井氏:今回私は乗客なので、夜明け前から阿蘇駅のホームに入り、撮影ができました。「ななつ星」のラウンジカー(展望車)の展望窓から漏れる光と、展望窓の両側に配置された7つのライトを撮りたかったんです。

「ななつ星」1泊2日コース、阿蘇駅で夜明けを待つ「ななつ星」
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唐池氏:この窓、すごいでしょう。ふつうならここは、360度総ガラス張りのパノラマ車窓にするところですよ。水戸岡さんはそこにあえて窓枠、いわば「額縁」を作った。すると窓の外の風景が、額縁の中の1枚の絵となるんですよ。そして列車の走行中、その絵がずーっと移ろい行くわけですね。こんなすばらしい芸術作品ないんですよね。僕はこの窓を30億円の額縁だと言っているんです。

櫻井氏:僕も実は、どうしてパノラマ窓にしなかったのかと疑問をもってました。

唐池氏:種明かしをしますと、3年前に水戸岡さんが描いたイメージ図はパノラマ窓風だったんです。全面ガラスで、近未来風の車両デザインでした。それに僕が珍しくノーを出したんですよ。近未来風のモダンはやめましょうって。「ななつ星」が目指すのは世界一の豪華寝台列車。そして人が何を豪華、贅沢と感じるかは、それまでの人生経験の中で培われたイメージがとても大きいのです。その枠内で作ったほうが伝わりやすいじゃないですかと言ったんです。そうしたら先生は豪華さとは何だろうかとずーっと悩んで、「古くてなつかしい、なつかしくて新しい」という答えを出された。

 出来上がったななつ星を始めてみたとき、この人は一流なんじゃない、超超一流のデザイナーだと思いました。