鴨節のだし汁をフレンチに注ぐミシュラン2ツ星店の一皿

インカのめざめと根セロリのピューレ、ホワイトアスパラガスと椎茸のソテーを盛り合わせに、鴨のコンソメが注がれる
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 では、リオネル氏は、うま味の塊である「鴨節」を使って、どのような一皿を完成させたのか。フランス料理の「だし(スープストック)」は、肉や骨を長時間煮てうま味を引き出したもの。一方、日本は、鰹節や昆布など、だし素材を作るのには時間をかけるが、うま味や香りを生かすために、敢えてさっと湯にくぐらせて抽出する。この日仏2カ国のだしの論理を融合させたのである。

 さて、その料理は、インカのめざめと根セロリのピューレ、ホワイトアスパラガスと椎茸のソテーを盛り合わせた器に、テーブル上で鴨のコンソメが注がれ、だしと具材を一緒にスプーンですくって食べるという凝った仕立ての一皿だ。フランスでコンソメの味わいをさらに凝縮させようと思えば、あらかじめとっておいたコンソメに再度肉と香味野菜を加えて煮出す、ダブルコンソメという手法が要る。ところが、温めたコンソメに薄く削った鴨節を加えれば、煮詰めずにうま味と香りを増すことができる。これは、和食の追い鰹の手法だ。客前で鴨節を掻き、その場で熱いコンソメのポットに加え、注ぐというパフォーマンスが加わるのだから、客は興味津々だ。スタッフが皿の上に鴨スープを注ぐと、卓上は驚くほどの香りに包まれ、一口味わえば、豊かなうま味に驚かされる。日仏2つの国の食文化が見事にマッチし、新たな料理の伝統となる可能性を秘める。

 現在、エスキスでは、さらに、「鮪節(まぐろぶし)」、「仔羊節(こひつじぶし)」が完成している。鮪節は、大トロの刺身の上に、トマトの実と茎で作ったブイヨンに鮪節で香りを付けたスープを注ぐ料理だ。鮪節そのものは、古来日本に存在するが、トマトのアミノ酸と組み合わせた点が新しい。仔羊節の料理も、今秋には完成の予定とのことで、楽しみだ。

 日本の里山では鹿が増えすぎ問題が生じているが、駆除した鹿肉の利用法として、静岡県が伊豆高原で研究を進めているのが鹿節だ。伊豆は、江戸時代から明治時代にかけては鰹節の一大産地だったが、わずかに残る鰹節製造業者と共同開発をしているという。「エスキス」の鴨節がさらに評判になれば、さまざまな素材のうま味の素が生み出されるかもしれない。

「エスキス」
東京都中央区銀座5-4-6ロイヤルクリスタル銀座9F
電話:03-5537-5580
(営)12~13時(L.O.)、18時~20時30分(L.O.)
(休)日曜
ランチ1万円~、ディナー1万8000円~
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(文/小松宏子)