キヤノンが、デジタル一眼レフカメラの新製品「EOS 70D」を発表した。シリーズ初の「デュアルピクセルCMOS AF」を搭載し、ライブビューや動画撮影時でもファインダー撮影並みの高速で正確なオートフォーカスが可能になる点が特徴だ。「早く触ってみたい!」と思っている人は多いと思うが、発売が8月末とまだ先なこともあり、量販店などの店頭で試用できるのはもう少し先になりそうだ。
 先日開催された発表会に来場し、EOS 70Dの実機をいち早く手に取って試したカメラマンに、EOS 70Dの印象や感想をファーストインプレッションとしてまとめてもらった。EOS 70Dを触ってどの部分に魅力を感じ、EOSシリーズの今後に何を期待しただろうか?

キヤノン自社製CMOSセンサーの進化を評価したい(吉村 永カメラマン)

キヤノンのミドルクラスAPS-C一眼レフの新製品として登場した「EOS 70D」
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 EOS 60Dの登場からおよそ3年。キヤノンのミドルクラスAPS-C一眼レフの新製品がようやく発表された。

 このシリーズ、というより最近のキヤノン製デジタル一眼レフにはあまり驚かなくなっていた自分だが、今回は“こんなことが可能にならないのかな?”とぼんやり夢のように考えていた技術が洗練された形で実現され、久々に興奮を覚えた。その技術が「デュアルピクセルCMOS AF」だ。

 これは、CMOSセンサーの2020万個の画素すべてが2分割されており、中央部の約80%ほどの領域が位相差AFセンサーとして機能するというもの。具体的にいうと、1画素がふたつのフォトダイオードで構成され、左右それぞれから得られる信号からレンズの移動距離を算出し、高速なAFが行われるのだ。そして、実際の撮影では、2つのフォトダイオードの合成出力が画像として生成される。

EOS 70Dの大きな特徴が、ライブビュー撮影時や動画撮影時のオートフォーカスを高速化した「デュアルピクセルCMOS AF」だ
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EOS 70Dは、CMOSセンサーの2020万個の画素すべてが2分割されており、中央部の約80%ほどの領域が位相差AFセンサーとして機能する
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 原理はともかく、発表会のあとの体験会で短時間ながら使った感想としては、「これで一眼レフによる動画撮影が実用的になった!」と感じられた。そう、これまでのEOSの動画は画質の良さこそあれ、ピント合わせは事実上マニュアルフォーカスでないと使い物にならなかった。これまで動画撮影時に使われていたコントラスト方式は、コマごとの画像を画像処理エンジンが監視しながら、周波数のピークが高くなるようレンズを動かしながら様子を見る方式だ。映像信号からは、ピントが前方向に外れているのか、後ろ方向に外れているのかが検知できない欠点がある。ピント合わせがゆっくりであるというだけなら問題は大きくはないのだが、前ピンか後ピンなのかを探るため、AFが前後に迷う挙動を見せることが多い。これが動画撮影ではとても不自然で、映像制作の現場ではこのAFを使う人は実質的にいなかった。

 だが、EOS 70Dで像面位相差方式になったことで、カメラが前ピンか後ピンなのかを判断できるようになり、前後の迷いの挙動がほぼ解消された。キヤノンがデモンストレーションとして公開しているAF撮影による動画は、一度でもEOSで動画を撮影した経験がある人であれば、だれもが進歩を感じるはずだ。画面中央の約80%の領域がこの像面位相差AFに対応し、しかも液晶がタッチ式になっているので、撮影中に好きな場所に触ればピント送りも簡単。キットレンズとして用意される「EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS STM」を使用してのテストでは、熟練のカメラマンとアシスタントがシネマレンズでピント送りしたかのようなスムーズなピント送りが可能で、あまりのうれしさに何度も確かめてしまったほどだ。

 けれども、この技術はこれで完成なのか?と問われれば答えは“ノー”。暗い場所にレンズを向けると、ピント合わせをいったん休むような挙動を見せることがあった。4040万個に相当するフォトダイオードの1個あたりの感度はそれほど高くないと思われるので今後さらなる高感度化が求められるはず。1画素をデュアル構成にしたことによる画質劣化は一切ないとのアナウンスがあったが、このあたりは実写をしないと分からない。

 せっかくの像面位相差AFでありながら、写真の撮影時はAF速度が速くなっただけに留まるのも残念なところだ。ライブビュー撮影で高速連写をすると、連写中はずっと液晶画面がブラックアウトしてしまうので、動く被写体を追い続けるのは困難だ。さらに、この場合のAFはひとコマ目で固定されてしまうとのことだ。

 とはいっても、一眼レフとしての基本性能は確実に向上している。先代のEOS 60Dとほぼ同じ重さながら、連写速度は5.8コマ/秒から7コマ/秒に高速化。ガラスプリズムによる光学ファインダーは視野率が約96%から98%に広がり、AFセンサーは7Dと同じ配置の19点全点クロスセンサーへと進化した。測距エリアなどを選択しやすくするために、ファインダー内には電子水準器の表示やグリッド表示が可能な透過型液晶が追加され、ファインダーをのぞいたままの操作がより快適になっている。

操作性に多少の不満はあるものの、EOSシリーズのさらなる進化を感じさせる1台

 操作性は、フルサイズ機のEOS 6Dにそっくり。Wi-Fiを内蔵しており、スマホで画面を確認しながら撮影できたり、写真をシェアしやすくなっている。測距点選択などの操作がジョイスティックでなく、サブコマンドダイヤルの同心円上に配置されるキーパッドだったり、ホワイトバランス設定ボタンがなかったりするのも、両機に共通する残念なポイントだ。

EOS 70Dの操作ボタンやダイヤルの配置は、フルサイズ機「EOS 6D」とよく似ている。両者を併用したい人にはうってつけだ
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 今回登場したEOS 70Dで、筆者は一眼動画を画質だけでなく、本格的に“使える”機能にしてきたというのが、ユーザーとしてのいちばんのメリットだと感じている。

 けれども本当にうれしいのは、キヤノンがようやく新しい画期的なセンサーを世に問うたということ。数年前まで、キヤノンの大きな強みは自社製のCMOSセンサーにあったのだが、最近では製造数量的な問題なのか、大きなアドバンテージを感じさせなくなっていた。APS-C型のCMOSセンサーは、スペック上はどれも変わらぬ1800万画素にとどまる。他社のセンサーもグッと性能が向上してきたおかげで、圧倒的な低ノイズ性能を誇っていた数年前の存在感は薄らいでいる。自社製CMOSセンサーの存在が、EOSシリーズの進化の足を引っぱっているのではないか?とさえ感じていたほどだ。

 だが、キヤノンが自社製センサーを進化させる意気込みをまだしっかりと持っており、EOS 70Dはそれを製品化して見せてくれた。EOS 70Dは、これからのEOSシリーズが大きく進化するという予感をもたらしてくれた製品でもある。

(文/吉村 永)