この記事は2012年10月発行の書籍「ブランドのそだてかた」(編集日経デザイン)から転載したものです。内容は基本的に発売日時点のものとなります。

 物販・食物販・飲食の3つを手掛けるという事業のポジショニングが、他社にまねできないものだった「DEAN & DELUCA」。横川正紀代表に、日本での展開に至った経緯やブランドを維持するための苦労を聞いた。

聞き手:

中川 淳(なかがわ・じゅん):中川政七商店 十三代。京都大学法学部卒、富士通を経て中川政七商店へ。東京ミッドタウンやKITTEに出店。伝統工芸をベースにしたSPAという業態を確立。

西澤明洋(にしざわ・あきひろ):エイトブランディングデザイン代表。「ブランディングデザイン」の視点で、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発などを手掛ける。リサーチからプランニングまで一貫したデザイン開発手法は高い評価を得ている。

【会社概要】ディーンアンドデルーカジャパン(東京都渋谷区)
・事業内容:輸入食品および加工食品など
 の製造・販売、カフェの運営
・設立:2002年
・従業員数:392人(アルバイト含む)
・売上高:50億円(2012年2月期)

 1977年にジョエル・ディーンとジョルジオ・デルーカがニューヨークで開業。世界中のおいしいものをそろえた食材店兼デリカテッセンとして人気に。日本ではディーンアンドデルーカジャパンが展開し、2012年10月現在14店舗


西澤明洋(以下、西澤): まず、「DEAN & DELUCA」のコンセプトについて教えてください。

横川正紀(以下、横川): “食のセレクトショップ”と言えば分かりやすいでしょうか。食というシーンを通して、毎日の楽しみ方を提案していくプラットフォームである、とも言っています。

 最近は、ある種の“食ブランド”を作っていくんだという話をしています。もともとあるグロッサリーストアからカフェという業態が生まれたけれども、もっと違うチャネルにも入っていけるんじゃないか。例えば、料理教室やワインスクールなどのスクールビジネス。食材について学ぶことに対する欲求がいま、非常に強くなっていますから。

中川 淳(以下、中川): そうですね。

横川: レストランで食べる素晴らしさを、もっと生活の身近なところで取り込みたいという人が増えてきているので、ケータリングのニーズも大きくなっていくでしょう。

 さらにモノ作りにこだわっていくと、農業そのものに携わったり、そこにレストランや宿泊機能を備えてオーベルジュに発展したりするかもしれない。食の情報発信をしていくと、自分たちが食のメディアを起こすこともできるかもしれません。

 こうやって考えていくと、我々が食に関するプロフェッショナルであるという信頼さえ獲得できれば、可能性は一気に広がっていく。最近、社内ではそんなことを話しています。

中川: DEAN & DELUCAを米国から持って来た経緯は?

一度は諦めかけた

横川: 私はインテリア雑貨販売の「CIBONE」を手掛けていて、空間プロデューサーの山本宇一さんにいろいろ手伝っていただいていたんです。同時に、バイイングを教えてもらいながら、一緒に海外をよく回りました。そのときに、パリならボン・マルシェ、ロンドンならハロッズ、ドイツでいえばカーデーヴェーという具合に、必ず街のグロッサリーに足を運ぶんです。何となく「海外のグロッサリーって格好いいね」と。

 そのうちに「日本でもああいうグロッサリーがあるべきだよ」という話になり、外食産業の延長線上としてグロッサリーを研究をしていた時期があったんです。ただし、日本では食物販や中食という領域と、外食という領域にはかなり隔たりがあって、相入れないんですね。研究していくうちに「この隔たりを越えるのは難しい」と諦めかけたんです。

 ちょうどその頃ですね、DEAN & DELUCAが日本での展開を考え、パートナーを探していたのは。外食と食物販の両方が分かり、なおかつ感度の高い会社もしくは人材が必要になって、山本さんのところに話が来て…。そんなきっかけで、2003年に、DEAN & DELUCAが生まれたんです。

 世間を見渡してみると、飲食業界で流通も分かって、デザインとかファッション性に長けている人というのは、当時はあまりいなかったんですね。レストランだとそういう世界はあったと思うんですが…。DEAN & DELUCAは我々にとってはチャンスだったんです。

 とはいえ、私たちもデザインとかブランディングに関しては意識を高く持っていましたけど、食は外食しか手掛けていなかったので、外食で学んだ食とインテリアで学んだ流通を掛け合わせなきゃいけなかった。スタートして3年間は、その大変さにおぼれるような感じでした。

中川: なるほど。物販、食物販、飲食、この3つを手掛けているところは珍しくて、DEAN & DELUCAの事業ドメインは独特だとは思っていましたが…。

横川: そうなんです。意外に少ない。

中川: ファッション業界でも一時期、カフェを手掛ける動きが目立ちましたが、今ではほとんどないですね。

横川: しんどいですもん。我々もインテリア雑貨から始めて後からアパレルを取り入れていったので、アパレルの粗利率がいかに高いかがよく分かります。収益力ではかないません。外食業界の人が中食市場に挑戦するのも同じことです。

中川: 中食の方が厳しい?

横川: 厳しいし、投資もかかるので、なかなかしんどいですね。機材もそうだし、人もそうです。中食は計画生産ですよね。1日の売り上げを想定してあらかじめ商品を作っておいてお客様を迎えるのと、オーダーを受けてから作るのとでは全く違うんです。そういう意味では根気がいりますね。

中川: 店舗が増え、新しいスタッフも入ってくる。人材教育と言うか、インナーブランディングについては、何に気を付けているんですか。