なぜ日本発の技術なのに「フレンチカットグラン」?

 フレンチカットグラン認定店は全国に500店舗以上あるというが、その数にはばらつきがある。関西地方には比較的多いが、東京では約20店舗程度。前述の銀座のヘアサロン「M.TANIGUCHIGINZA」も、ヘアスタイリストの中でフレンチカットグランの技術を習得しているのは後藤氏1人だけなので、予約が必要というのが現状だ。「2012年にNHKのニュース番組で放映され、その動画がYou tubeに掲載されてから、問い合わせが増えた」(後藤氏)というが、それでも同店にフレンチカットグランを指定してくる客は月に15人程度だという。

 認知度が低い理由はいくつか考えられるが、そのひとつに日本の特殊なヘアカット事情がありそうだ。考案者の藤川氏によると、昭和30年代の美容界には“盆暮れパーマ”という言葉があり、年に2回パーマをかけにくるだけの客が圧倒的に多かった。美容院では売り上げを上げるために、年4回のパーマを推奨していたという。またカット技術も見て覚える徒弟制度的な習得法が中心だった。

 そんなとき、英国発の体系化された最新カット法が彗星のように登場。頭髪をいくつかにブロックで分け、髪を1センチほどの厚みで引き出してから切る方法で、日本中の美容師がこぞってこの技術を習得し、「月1回のカット」がそのころに浸透した。現在も理容師や美容師の基本技術となっているが、そのカット法だけが神聖化されてきた面もあるという。「私が考案した新たなヘアカット法は、理美容業界で50年間教えられてきた技術を覆すことと取られ、特許取得の際には業界から多くの抵抗と非難を受けた」(藤川氏)。

 日本人が考案したのに「フレンチカット」と命名したのは、このカットの価値を最初に認めてくれたのがフランス人美容師たちだったため。またこのカットは、毛の量や毛質に制限されずに自由にデザインカットをするための、いわば基礎づくりとなるカット。最高のワインを作るための最高のブドウ畑を「グラン・クリュ」と呼ぶことから、「グラン」の名をとり、「フレンチカットグラン」と命名したそうだ。

髪が多くてクセ毛の筆者も体験! 

 実は筆者も2013年1月と4月、2回にわたってフレンチカットグランを体験した。もともとベリーショートだったのですかれた毛の量は男性と同じ程度だったが、それでもカットの最中からどんどん頭が軽くなるのを感じた。十数グラム程度の毛があるのとないのとで、こうも頭の重さが違って感じられるかと驚いた。もともと髪が多いせいもあると思うが、カット後は頭髪の中を風が通るような涼しさを初めて感じた。また長年悩み続けていたクセもとれ、ストレートパーマをかけたようになったのにも驚いた。前はハードタイプのワックスが手放せなかったが、1月にカットをしてから現在まで、整髪料をほとんど使っていない。

 美容室「WiNX(ウィンクス) 」(葉山/横須賀/衣笠)のオーナーで、10年以上もフレンチカットグラン講師をしている梅野武美氏は、「日本人は男女ともに年々薄毛傾向が強まっているが、それでも毛量の多さに悩んでいる人は一定の割合で存在する。ヘアケア業界は薄毛の悩みには対応してきたが、毛の多い人の悩みに対応する製品やサービスはなかった」と指摘する。

 昔から健康法として「頭寒足熱・腹八分目」といわれてきた。だが現代人はパソコンなどで眼を酷使するため、頭だけが疲れて「頭熱足寒」になっているという。髪の多い人はなおさらだろう。女性は暑い季節は髪をアップにするなどの対策がとれるが、男性はそれができない。ヘアカットによるクールビズは、もっと広まってもいいのではないか。

髪の悩みランキング。男女別に見ると、男性では「薄毛」が1位だが、女性は「クセ毛」が1位(男性でも2位)。「太い・硬い」は男女ともに4位、「多毛」は男性で6位、女性で5位。「髪の悩みデータ」(ティムスドライブ社調べ、2009)より
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講習会でフレンチカットグランの実技を見せる梅野氏。「フレンチカットグランによって、自由なヘアデザインのためにまっさらな土台をつくることができる。理美容師にとって夢の技術だが、毛量や毛質で理想のヘアスタイルをあきらめたり悩んだりしている方々にとっても夢の技術だと思う」
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(文/桑原恵美子)