「もう波紋、古いよな」。「スタンド」が生まれたきっかけの一言

編集部:「ジョジョの奇妙な冒険」の第1部は舞台がイギリスで、主人公がイギリス貴族出身と、当時の「週刊少年ジャンプ」としては、かなり異色の作品でした。

荒木氏:そうですね。まず、当時は外国人の主人公は基本的にNGだったんです。日本人が外国に行くストーリーは良いんです。でも、外国を舞台にして外国人が活躍するマンガというのは、日本の少年マンガでは「絶対に受けないから」って、方々から言われたくらい。でも、こちらは人と違うことをやりたいわけですから。あと、日本人が外国に行くの、何かわざとらしすぎないかという個人的な疑問もあって(笑)。当時の担当編集者の椛島良介さん(現・集英社新書編集部部長)も、後押ししてくれましたね。作品としては、「ジョジョ」という名前を子供でも覚えやすくするために、名前の頭文字を「J」と「J」で合わせようとか、いろいろと工夫はしているんですけどね。

編集部:ジョジョは第1部、第2部と進んでいき、第3部の「スターダストクルセイダース」で初めて「スタンド」という存在が登場しました。これはものすごい発明だったと思います。

荒木氏:それまでは、「波紋」という形で超能力を表現してきたのですが、もうちょっと実感的に相手を叩きに行くみたいな、それこそマンガ的な絵を作りたかった。エネルギーを絵にしたものが出てきて相手や物体を壊しに行く、そのとき守護霊とかが出てくる感じがいいなと。そのほうがマンガとして読者に伝わるんですよね。これまでのように、超能力者が何か念じて物体がいきなりバーンと割れるより、スタンドが実際に動くことで、相手とのヒリヒリするような距離感も表現できる。もっとも、担当編集の椛島さんが、「もう波紋、古いよな」とか言い始めて、そのプレッシャーで考えたというのもありますけどね(笑)。

スタンドが登場する第3部の「スターダストクルセイダース」から、ファンが飛躍的に増えた。主人公の空条承太郎のスタンド「スタープラチナ」の圧倒的なパワーにしびれたファンは多いはず (C)荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

編集部:第3部では、日本人の主人公がエジプトを目指す旅のなかで敵と戦うという形式が取られています。第3部の連載は1989年のバブル真っ盛りの時期に始まりましたが、こうした時代背景も意識して作品に織り込んでいますか。

荒木氏:バブル時代の経済って上り調子で、どんどん上があるじゃないですか。それってマンガ作りにも影響があったと思います。当時の格闘系のマンガはトーナメント制で敵と戦っていって、頂点を倒したと思ったらさらに高い頂点が現れる、という作品ばかりだった。でも、それを読んでいると、単純に「この後、どうするんだろう」と僕は思ったんです。絶対に破綻するよね、と。このトーナメント方式をやれば読者に受けるからと、編集部からは言われたんですが、僕はやりたくなかった。

 それで、「ジョジョ」では、どこへ行っても同じような敵が登場して、出てくる敵は弱くても戦う場所が変わっているというような、すごろく方式にしました。第3部では、最終的には強敵のディオと戦うわけですけど、すごろく方式でその場その場のサスペンスを読者に楽しんでもらうために、ディオの顔は最後の戦いまでシルエットにして、あえて見せないようにしたんですね。見せちゃうと読者は頂点(ディオ)が気になってしまうから。第3部の途中で指令を出すディオを描く時などは、すごく気を使いましたね。

編集部:第3部でディオという“最強の敵”を倒した後に始まった、第4部の「ダイヤモンドは砕けない」では、初めて日本(仙台市がモデルの「M県S市杜王町」)に舞台を変え、登場する敵の強さもリセットされました。トーナメント方式のマンガでしたら、ディオより強い敵を登場させるところですが、それをやらなかった。そこが、「ジョジョ」シリーズの連載が25年間も続いた大きな要因だと思うのですが。

荒木氏:それはあるかもしれないですね。トーナメント方式の場合は前に戦った敵よりも強い敵のアイデアを出さないといけないんですけど、「ジョジョ」の場合は途中に出てくる敵は弱くてもいいんです。腕力はなくて、ただ卑怯なだけでもいいんですよ。弱い奴でも何かキャラができていれば、そのときのサスペンスが描けて、強敵として見せられるんですよね。

第4部の「ダイヤモンドは砕けない」の舞台は、日本の地方都市(仙台市がモデル)。主人公の東方仗助のスタンドは、「クレイジー・ダイヤモンド」。手で触れることで破壊された物体や傷を元通りに戻す (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社