機能性ウェア市場が年々拡大中だ。

 よく知られているのは、体に適度に圧を加えて筋肉をサポートすることで、運動機能を上げるコンプレッションウェア。アメリカの「アンダーアーマー」、ワコールの「CW-X(シーダブリュー・エックス)」、「SKINS(スキンズ)」などが代表的なブランドだ。

 これに、「クールマックス」や、ミズノの「ブレスサーモ」、ユニクロの「ヒートテック」など、冷感や吸汗速乾、温感機能を備えた体温調節系ウェアが続く。

 ここに参入したのが、自己回復力を発揮させるリカバリーウェアだ。その第一人者にあげられる 「VENEX(ベネクス)」では、年々売り上げが倍増。口コミで評判が広がり、ハードワークを課されるビジネスパーソンの間で注目されている。

 そのべネクスが、2012年9月には犬用のリカバリーウェアも発売開始し、さらに11月にはビジネスパーソン向けの新たなブランドを市場に投入するという。なぜべネクスのリカバリーウェアはヒットしているのだろうか。製品誕生の背景から、その理由を探る。

副交感神経をサポートし、リラックス状態に導く特殊素材PHT

PHTの電子顕微鏡写真(浮き上がっているところがPHTの粒子)
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 通常、子どもなら毎日クタクタになるまで遊んでも、一晩眠ればすっかり体力は回復しているものだろう。これは人間に本来備わっている、いわば「自己回復力=リカバリー能力」と呼べる能力によるものだ。しかし、年齢を重ねるごとに、リカバリー能力は低下し、一晩寝ても翌朝疲れが残るようになるのを感じる人が多くなる。

 また近年、不眠に悩む人が増えているという話もよく聞くようになった。その背景にはハードワークやストレスはもちろんのこと、パソコンやスマートフォンのブルーライトによる刺激など、今の時代ならではの要因がある。これらにより、交感神経と副交感神経の2つの神経系コントロールがスムーズにシフトできなくなっているというのだ。

 こうした一晩寝ても残る疲れや不眠の問題に対し、リカバリーウェアは、副交感神経が優位な状態へ導かれることをサポートし、体力が回復しやすい環境を作る製品だ。着用することで、よりよいリラックス状態、睡眠状態へと導くというのだ。ベネクスの代表取締役、中村太一氏によれば、その始まりは「高齢者介護をサポートするベッド用パッドとしての商品開発」だった。

 中村社長は25歳のときに、全国で介護施設を運営する会社から独立。起業当初は高齢者介護の現場で問題になる「床ずれ」予防のマットレスの開発・販売を手がけていた。

 床ずれは「寝たきり状態」になるとできやすくなるのだが、これを起こさないようにするには、体圧を分散し、血流阻害を少なくする必要がある。ならばマットレスで対応すればいい。そこで中村氏は血流の促進をサポートするような素材を探し、出合ったのが、人間の血流を良くする効果があるという、「ナノ化プラチナ」だった。

 中村氏は工業分野ではさまざまな問題解決にナノテクノロジーが応用され、素材をナノサイズにすることで、興味深い効果を発揮することに注目。「医薬品にも使用される低分子のプラチナをナノ化して繊維に練りこんで、身の回りのものにダイレクトに使えないだろうか」と発想し、商品開発に取り組み始めた。

 中村氏が組んだのは、東海大学健康科学部の研究チーム。この開発はやがてかながわ産業振興センター新規成長産業事業家促進事業の対象にも採択され、産学官連携事業として展開。ナノ化プラチナに複数の鉱物を組み合わせた特殊素材PHT(プラチナ ハーモナイズ ドテクノロジー)が完成した。

 PHTは、ウェアの糸へ練りこむことで触媒作用が起こり、繊維そのものから微弱電磁波の遠赤外線を放射する。放射された遠赤外線は人体に触れることで、全身の血液の流れが良くなるなどの効果を発揮するのだが、この遠赤外線が反応するのは、人体の樹状細胞というもの。

 「樹状細胞とは、免疫系の司令塔の役目をしている細胞の一種。運動などで過度にストレスを与えると樹状細胞は衰える。また、年齢を重ねると働きが落ちる。我々の開発では、PHTの遠赤外線をこの細胞に近づけると、細胞の動きが活発になることがわかった。特に副交感神経が優位のときに働きやすく、ダメージを受けた箇所に働きかけることで、疲労が早く回復する」と中村氏は話す。

 こうしたリカバリー能力をサポートするメカニズムは、現在もさまざまな機関で解明が進められている。アメリカのUCLAドリュー医科大学によると、加齢により免疫能が低下したマウスに1カ月間PHT繊維素材を使用したところ、若年のマウスと同程度にまで免疫能が回復し、肉体的疲労が改善したという実験結果も発表されている。