映画のメディア特性のひとつに、イベント性がある。公開日まで予算をかけてさまざまな宣伝をして観客の興味を惹きつける。ヒットすれば大きな話題となり、社会を大きくにぎわせる。さらに、映画はテレビとは違って表現の幅が広い。(レーティングはあるが)暴力描写も性描写もはたまた政治的なメッセージも、かなり許される。ときには、社会に大きな問題を提起したりもする。それは、イベント性が強く、自由な表現が許される映画だからこそ発揮できる特性だ。8月4日から公開されている韓国映画『トガニ 幼き瞳の告発』は、まさにそうした映画のメディア特性をいかんなく発揮した作品だ。

 韓国の地方都市・霧津(ムジン)にある聴覚障害者学校に赴任した美術教師カン・イノ(コン・ユ)は、すぐに学校に漂う異様な状況に気づくことになる。双子でうりふたつの姿をした校長と行政室長、職員室で生徒を殴りまくる教師、洗濯機に生徒の顔を沈める女性寮長──この学校では、日常的に性的虐待と過度な体罰が横行していた。イノは、人権センターの若い女性ソ・ユジン(チョン・ユミ)とともに、生徒を救おうとする。しかし、その先には警察と司法という大きな壁が待ち構えている。

『トガニ 幼き瞳の告発』。8月4日 シネマライズ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー (C) 2011 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED
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 この映画は、イノとユジンによる告発の推移を描いている。そこで重要なのは、この映画がフィクションではないという事実だ。この映画は、実話をもとにした小説を原作としているのである。

 実際の事件が起きた学校は、韓国の南西にある光州に実在していた。虐待は、2000年から起き、2005年にテレビ局の報道によって表沙汰となる。その後、裁判などを経て、この映画の原作となるコン・ジヨンによる小説が2009年6月に出版されてベストセラーになった。

 映画化されて韓国で公開されたのは、小説が出版されてから2年後の2011年9月22日のことだ。きっかけは、主演のコン・ユが兵役についていたときに原作の小説を読んだことだった。彼はこの小説に心を大きく動かされ、所属するマネジメント会社に映画化権を押さえてもらい、映画化に向けて動きだした。ドラマ『コーヒープリンス1号店』によって日本でも人気の高い韓流スターのコン・ユが、このような社会派作品の映画化に動き出すのも韓国独特だ。

 映画が公開されると、即座に大ヒットし、韓国社会を大きく揺るがした。裁判はすでに終わっていたにもかかわらず再捜査され、翌10月、新たに学校の職員が逮捕された。

 『トガニ』の勢いはそれだけに止まらなかった。同じく10月、性暴力に関する法律が改正された。「トガニ法」と呼ばれるこの法改正は、子どもや障害者に対する性暴力の時効廃止と厳罰化を強めたものだった。

 再捜査や法改正は、映画公開からわずか1カ月ほどの間に巻き起こったことだ。この映画は、社会を変えるほどの勢いを見せたのだ。この変化は、映画の持つメディアとしての大きな力によるものだった。

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