ミヒャエル・ハネケ監督の『Amour』がパルム・ドールを獲得したカンヌ映画祭。今年はハリウッドのA級スターを主役に据えた米国作品が復活の兆しを見せた。また、日本映画業界の“買い”も戻り、多くの作品の配給が決まっている。

米豪の新鋭監督作品にハリウッドスターのラブコール!?

 ハリウッドスター密度が著しく濃くなるヨーロッパの恒例行事と言えば、カンヌ映画祭の公式上映のレッドカーペットだ。世界中から駆けつけるスターの数も毎年、上昇の一途をたどっている。

 とはいえ、同映画祭の真のスターは“監督”。芸術性、社会性が重視され、作家性が高く評価されるコンペ作品リストには、それほど劇的な変化はない。今年のコンペ作品23作も、その4分の3はミヒャエル・ハネケ、デヴィッド・クローネンバーグ、ケン・ローチら、カンヌ常連のヨーロッパのエリート監督で占められた。逆を言えば、新人監督にとってコンペ作品リストに残るのは、それだけでもたいへんなことなのだ。

 今年、その狭き門を通過した新人監督は6名。そのうちの4作がアメリカ南部を背景にしたクライムドラマであり、ハリウッドA級スター主演作品であるという共通点を持つのが実に興味深い。新鋭監督ならではとも言える独創性と視野を持つ刺激的な作風が、ある意味マンネリ化したハリウッド作品に自ら飽き飽きした(?)スターキャストの興味を引いたのだろうか。

作品名 製作 監督 主演
ストーリー
Killing Them Softly
米国 アンドリュー・ドミニク ブラッド・ピット
2007年に『ジェシー・ジェームズの暗殺』でピットを起用したオーストラリア人監督アンドリュー・ドミニクが、再びピットとコンビを組んだ新作。ジョージ・V・ヒギンズの小説を監督自らが脚本化したクライムムービーで、ギャングの世界に現在の金融危機の論理を織り込んだことで話題となった。
The Paper boy
米国 リー・ダニエルズ ザック・エフロン
2009年の視点部門で『プレシャス』が脚光を浴びたリー・ダニエルズ監督の新作。60年代フロリダのスワンプを背景に、田舎町で新聞社を営む家族を軸にした犯罪スリラーで、アメリカ社会の側面を独自な手法が光る。主演のザック・エフロンと助演のニコール・キッドマンは新境地を開拓。
Lawless
米国 ジョン・ヒルコート シャイア・ラブーフ
2009年に『ザ・ロード』で脚光を浴びたジョン・ヒルコート監督の新作。1931年、禁酒時代のバージニア州を背景に、3兄弟と警察との闘争を描く。キャストにはシャイア・ラブーフ、ジェシカ・チャステイン、ミア・ワシコウスカ、トム・ハーディーが名を連ねる。脚本はミュージシャンのニック・ケイブ。
MUD
米国 ジェフ・ニコルス マシュー・マコノヒー
40代セクシースターのマコノヒーが主演。ミシシッピデルタを背景にした異色の犯罪スリラーだ。リース・ウェザスプーン、サム・シェパードが助演。恋人のために罪を犯して逃亡した男MUDと、無垢な少年達のつながりを軸に心温まる人間ドラマに仕上げた点が新鮮。
オープニング作品となったのは気鋭の新人ワズ・アンダーソン監督の『Moonrise Kingdom』。日本では来春公開予定だ。配給はファントム・フィルム。(c)Festival de Cannes
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今年のパルムドール(最優秀作品)となったミヒャエル・ハネケ監督の『Amour』。2013年に日本で公開予定。配給はロングライド。(c)Festival de Cannes
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カンヌこそが、意欲作の最高のお披露目の場

 大スターを送り込んで上映に臨んでも、芸術性、社会性、作家性に欠ける作品は手厳しい批評を浴びてしまうカンヌ映画祭。近年のアメリカ映画の中には、出品そのものを避けるケースも多かったという。

 しかし、昨年パルムドールを受賞したテレンス・メリック監督の『ツリー・オブ・ライフ』や、ウディ・アレン監督の『ミッドナイト・イン・パリ』が世界的なヒットにつながったこともあって、アメリカ映画のカンヌに対する姿勢に変化が起きているようだ。過去においてフランシス・コッポラやマーチン・スコセッシ、クエンティン・タランティーノといった米監督が最初に認められたのはカンヌであったという事実を踏まえれば、これを機にアメリカ映画のルネッサンスも“アリ”なのかもしれない。

 なお、米国自主製作系映画ではないが、『トワイライト』で世界人気を獲得したロバート・パティンソンが『Cosmopolis(カナダ、デヴィット・クローネンバーグ監督)』に、クリスティン・スチュワートが『On The Road(ブラジル、ウォルター・サレス監督)』に、カイリー・ミノーグやエヴァ・メンデスが『Holy Motors(フランス、レオス・カラックス監督)』に出演。今年は、カンヌ常連監督とスターのコラボレートも目立った年でもあった。

『Cosmopolis』は、ニューヨークの金融街が背景。偶然にもタイムリーなテーマとなった。来年度公開予定。配給はショウゲート。(c)Festival de Cannes
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ビート世代のバイブルとされるジャック・ケロワックの名作を映画化した『On The Road』。(c)Festival de Cannes
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