2012年5月15日、世界貿易機関(WTO)(※)における情報技術協定(ITA)の関税品目の改訂交渉を開始することで日米欧、中韓など74カ国・地域が合意した。改訂案には関税のかからない品目の大幅な拡大(約150品目)が盛り込まれており、各国は7月にも交渉を開始する見通しだ。

 経済誌のような書き出しになってしまったが、要するに日本のデジタル家電を欧米などに輸出する際に、関税のかからない品目を大幅に増やして貿易を活発にしようという交渉なのである。これはデジカメムービーファンにとって朗報になるかもしれない。

※WTO……貿易の自由化を目指す国際機関。約150カ国・地域が参加していて、以前はGATT「ガット」と呼ばれていた。

 

 すでに1997年からデジカメの関税はゼロに撤廃されている。しかし当時の関税撤廃品目の中にビデオカメラは含まれていなかった。例えば日本からEU(ヨーロッパ)諸国にビデオカメラを輸出すると、5.4%の関税が課せられていたのである。

 ここ数年のデジカメの動画機能の進化はめざましい。多くのデジカメで写真撮影に加えて、MPEG-4などに対応するフルハイビジョンムービー撮影が可能となっている。パナソニック「LUMIXシリーズ」やソニー「Cyber-shotシリーズ」などはデジタルビデオカメラと同じAVCHDムービー撮影が可能だ。デジタル一眼レフの動画機能もプロ機並に高度に進化しており、家族や子ども撮りのためにムービー機能付きデジカメを活用しているユーザーは多いだろう。

 しかしここで問題が起こった。あまりに高度な動画機能を搭載したデジカメは、欧州などに輸出される際に、関税ゼロのデジカメではなく、関税のかかるビデオカメラと認定されてしまう恐れがあったのだ。

 そこでビデオカメラに認定されることを避けるため、「これはデジカメであって、ムービーはあくまでも付加機能です」と主張できるように、デジカメの動画機能には一定の制限が課せられることになった。それは連続30分以上のムービー撮影ができない、という縛りである。

 デジカメファンの間では「動画の30分縛り」などと言われている規制だ。たとえバッテリーに余裕があっても、メモリーカードに空きがあっても(※)、29分59秒で問答無用でムービー撮影が停止してしまうのである(もっと制限時間が短いモデルもある)。

※このほか、メモリーカードへのムービー記録が4GBに達すると撮影が自動停止するという制限もある。

 

デジカメの動画機能は撮影時間やファイルサイズの上限が設けられているモデルが多い
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 国内で販売されているデジカメは輸出品ではないため、本来はこうした30分縛りの規制は必要ない。しかし価格競争の激しいデジカメ業界では、輸出用と日本用のカメラを作り分けて製品をサポートすることはコスト的に難しい。こういった大人の事情によって、国内で販売されるデジカメも欧州などと同じ30分規制のかかった製品が多いのが実情なのだ。

 「連続30分ムービーが撮れれば十分」という意見もあるが、定点撮影や車載ビデオ、パーティ撮影などで長時間撮りたい人もいるだろう。なによりも理不尽な規制をかけられるのはユーザーフレンドリーではないと思う。

 朗報は、今回の関税撤廃品目の拡大案にデジタルビデオカメラが含まれていることだ。仮にデジタルビデオカメラの関税が撤廃されたら、デジカメ動画の30分縛りは不要になる可能性が高い。交渉締結後に発売されるデジカメではムービー撮影時に時間制限を気にする必要がなくなるかもしれない(※)。

※連続して長時間のムービー撮影を行うとデジカメ内部の回路やバッテリーが異常発熱してトラブルを引き起こす可能性があるため、一定の時間制限は残る可能性はある。

 

 今回の関税撤廃品目の案にはデジタルビデオカメラのほか、デジタルテレビやカーナビ、ゲーム機、電子医療機器なども含まれていて、日本の電子産業にとっても朗報となるだろう。また、グローバルな合意に向かう世界貿易への追い風になると思われる。

 現状では可能性であり、交渉の推移を見守る必要があるが、ぜひとも実現してほしい。デジカメファンにちょっとうれしいグローバル化と言えそうだ。

(文/増田 和夫)