スーツにこだわる人が増えた
クールビズの推進やビジネスシーンのカジュアル化で、スーツを“着なければいけない”シーンは減っている。矢野経済研究所がまとめた紳士服市場の動向を見ると、メンズスーツの売上高は2011年に2100億円と、07年から約1000億円減る予想だ。下げ止まりの兆候はあるものの好調な市場とはいえない。

にもかかわらず、オーダースーツが好調な理由の一つは、スーツにこだわる人が増えたことにある。「スーツを着る人は減っているが、服が好きでこだわりたいという人は多くいる。結果的にスーツ市場に占めるオーダースーツのシェアが伸びている」(伊勢丹新宿本店メンズ館のビジネスウエアバイヤー・鏡陽介氏)というわけだ。
実際、そごう・西武の担当者も、「20代、30代の若い男性の間では、ボタンや裏地を変えるなど、細かい仕様の変更を楽しむ『自分だけの一着ニーズ』が増加している」という。一方、「40代以上の男性の間では最近トレンドのスリムなスーツに体形が合わないため、『上下を自由に組み合わせられる』『プロが採寸して体形に合わせてくれる』など『スマートに見えるニーズ』が増加している」。全国で82店舗を展開するオーダースーツ大手のエフワンも、「スリムなタイプのスーツが人気になり出してから、より自分の体形に合ったスーツを着たいという人が増えたのではないか」と分析する。
低価格でオーダースーツが作れる環境が増えているのも、購買層の裾野が広がっている理由だ。老舗の銀座山形屋は、若手ビジネスマンをターゲットにした「ブレフ」というブランドを09年に立ち上げた。コアターゲットの年齢を28歳と想定し、20代~30代の可処分所得などを勘案して、2万9900円と3万9900円の2プライスのオーダースーツを用意。小田急百貨店新宿店内の約40m2の店舗で、昨年は約2000着を売った。「これまで既製服を着ていた人が、オーダースーツの最初の一着を作る“入り口”のブランドになりたい」(グループ会社ウィングロードのパーソナル事業副部長の山形眞司氏)。ブレフは2011年にJR秋葉原駅の駅ビル「アトレ秋葉原1」に約20m2の店をオープン。今後も山手線のターミナル駅直結の商業施設に店を構える考えだ。
オーダースーツを売る側の動きは近年一段と活発化している。30代、40代の顧客が中心だったスーツのヨシムラを運営する吉村は、2011年に26店舗の販売網を持つビッグヴィジョンを買収。幅広い年齢層が顧客のビッグヴィジョンと、ヨシムラの商品開発力の相乗効果を狙う。
オーダーシャツで有名なメーカーズシャツ鎌倉のマーケティングや出店戦略、商品開発をするサダ・マーチャンダイジング・リプリゼンタティブは、2011年9月から「Tex Teq(テックステック)」のブランドでパターンオーダースーツの受注を始めた。これまで同社のファンだった顧客の満足度を高めるのが狙いだ。