なぜか“古くて新しい”「間借り」が人気

 なぜか今、「間借り」という昔懐かしいスタイルがじわじわ人気となっている。その原動力となっているのが、「間借り物件情報サイト」だ。

 「街には空いている場所がたくさんある。わざわざ新しく作らなくても、今空いている場所を使えばいいのでは」という考えで、2010年に間借り物件情報サイト「MaGaRi」を立ち上げたのが、「まちづくり会社 ドラマチック」の今村ひろゆき代表。わずか1年4カ月で100件以上の問い合わせがあり、成約率は3割を超えるという。

 最近の例では、渋谷のダイニングバーが昼の時間帯に店舗スペースを利用したい人の募集告知を出したところ、ネット通販が好調なため実店舗を探していた手作りマシュマロ専門店オーナーの若い女性が応募してきた。「まさか自分が渋谷に店を持てるとは思わなかった」と驚いていたという。

 一から店づくりを始めるとなるとかなり大変だが、こうした「間借り」なら小資本でも一等地に店を出すことが可能なのだ。またオーナーも自分の本業に影響がない「時間貸し」なら抵抗が少なく、お互いにメリットの大きい合理的な賃貸関係といえる。

渋谷・百軒店のダイニングバー「shibuya百軒店de HESO(ヘソ)」(左)が木曜から日曜の午前9時から15時までは手作りマシュマロ専門店「やわはだ」(右)になる
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 さらにユニークなのは、「逆・不動産」ともいうべき“Talent”という活動。通常の不動産情報サイトは物件情報ばかりだが、それとは逆に、「こういう目的に使える物件を探している」という借り手側の情報を掲載している。例えば、「若手漫画家だけで住む、トキワ荘のような共同生活の場を提供して欲しい」「週末だけ田舎の両親が作った野菜を売れる、もう使っていない八百屋さん募集」など。こうした、夢を叶えるための場所を探している借り手候補を“Talent”と呼んで紹介しているのだ。「一般的に賃貸物件のオーナーは自分の物件に住む人のことを深くは知ることができない。しかしこうしたはっきりした目的を持った居住者だと『安心して貸せる』と喜ばれる」(今村代表)という。

 しかし、なぜこれだけ「間借り」が人気なのか。「貸すほうも借りるほうも、『場所を所有する』という概念が変わってきているのではないか」(同)。また会社以外のプライベートな時間に趣味を追求する本格的な活動をしている人が増えていることも背景にあるようだ。本業以外に本格的な趣味を追求する人が増え、さらにネットなどのバーチャルでなく実際の体験をしてみたいと考える人が増えている。そういう人たちに「間借り」というスタイルがフィットするのだろう。

 今村代表によると、間借りの最大のメリットは経済面ではなく、貸す人と借りる人との「出会い」だという。その場所で活動をしている持ち主と、一部を借りて活動する間借り人の間には情報の交換があり、人脈の広がりがあり、そこから新しく生まれるものがある。例えば事務所の間貸し告知を出している「K2インターナショナル」(横浜で若者の自立・就労支援を行なっている団体)は、「もし社会事業への関わりを持ちたい人がここを借りるなら、私達が持っている横浜のネットワークが役に立つかもしれない」という。さらにK2インターナショナルは東日本大震災後に石巻に一軒家を購入し、石巻でボランティアなどの活動を考えている間借り人も募集している。

 「居場所を持つことはあらゆる活動の基本。やりたい気持ちがあるのに、場所がないばかりに機会を失っている人が多いのがもったいない。場所を持つ手伝いをすることで、何かを始めるきっかけをつくりたい」(今村代表)という。

 急激に多様化が進んでいるように見える「ネオ賃貸」スタイルだが、そこには共通するキーワードが見える。ひとつは「公私のあいまい化」で、仕事とは別の趣味や得意なことを深く追求し、さらにはそれをビジネスにしようと考える人が増えている。その結果、オフィスでも自宅でもない“新たな居場所”を求める人が増えている。

 もうひとつは「リアルなつながり願望」。SNSなどによって趣味や志向が似ている人とのつながりが増え、リアルな場にもそれを求める願望が強くなっている。そのため、場所を借りるのではなく人間関係が広がるような物件に人気が集まっているのだろう。

(文/桑原 恵美子)