阪神・淡路の教訓をどう生かすか

永井一史氏(以下、永井):「issue+design」は、自然災害や地域格差、環境問題といったさまざまな社会的課題に対し、「デザインに何ができるか」という視点でソリューションを見い出そうとする市民・学生参加型のプロジェクトで、1回目は「震災」をテーマにした取り組み(震災+design)を実施しました。避難生活のなかで発生することが予想されるさまざまな問題をピックアップし、「継続を促す」「決断を支える」「道を標す」「溝を埋める」「関係をつむぐ」の5つの角度からデザインによる解決策を提案したのです。その成果は『震災のためにデザインは何が可能か』(NTT出版/2009年)という書籍にまとめ、そこでは26のデザインアイデアを紹介しているのですが、今回の地震発生を受け、僕たちにはそこに蓄積されたノウハウを活用する責任があると思いました。そこで現段階で実現可能なアイデアを検討した上で制作したのが「できますゼッケン」です。

筧 裕介氏(以下、筧):このゼッケンは、書籍にも掲載した「スキル共有カード」をよりシンプルな形にアレンジしたものです。候補はあと2つあったのですが(女性に自己防衛のための注意喚起を促す「シュシュ」と子供の精神的不調を改善する「紙製秘密基地」)、早急に形にできて機能させられるという観点からこれになりました。すでに宮城の避難所などで取り入れてもらったり、仙台市で活用してもらったりする動きも出てきています。

 こういったアイデアは震災を経験した神戸市の方々にヒアリングしたうえで考え、その後も皆さんの意見を取り入れて改善したものですから、避難所のニーズやそこでの受け止められ方は検証済みと言えます。しかし、被災地までの距離の遠さや情報の少なさ、都市型コミュニティと地方の地縁型コミュニティの温度差など、今回の震災は阪神・淡路と異なり被災地へのアクションが難しいところもあるため、今後も改良を加えていく必要があると考えています。サイトでは、4色のガムテープを使った「できますテープ」(名前とスキルをテープに書いて貼る)という、よりシンプルな使用例を紹介するなど、それぞれの被災エリアの実情をふまえたフレキシブルな活用法を提案していくことも重要だと考えています。

永井:ゼッケンは機能性を第一に考えており、表現は極めてミニマムな範囲にとどめていますが、色のアイデンティティは明確にしました。緊急性が高い仕事は「赤」にするなど、子供でもわかる原色系の色を用いています。今回は“すぐにできるもの”という発想からゼッケンを作ったのですが、次のフェーズを想定した取り組みも検討し始めています。我々だけでなく、クリエイティブに関わる人たちが大勢で知恵を出し合えば、大きな力が生まれるのではないでしょうか。

筧:次のステップは復興に対して何ができるか、ということになると思います。阪神淡路から16年を経た神戸でさえ、まだ震災を引きずっている部分もあるわけですから、5年10年の単位で考えることが求められています。ボトムアップとトップダウンの両方の動きを視野に入れたうえで、そこにデザインをいかに導入できるかがカギになると思います。

左が博報堂生活総合研究所・生活表現グループの筧 裕介上席研究員、右がHAKUHODO DESIGNの永井 一史クリエイティブディレクター