KindleやiPadなど電子書籍ブームを背景に、次世代の出版コンテンツを模索する動きが始まっている。その先駆けとして注目されるのが、米Wired誌のiPad版だ。

 米Conde Nast社が今年5月にリリースしたWired iPadは、従来の紙雑誌からは大きく様変わりしている。記事(文章)の中に、スライドショーやビデオ、サウンドなど多彩な要素が混然一体となった、いわゆる「リッチ・メディア」と呼ばれるコンテンツだ。

 Wired iPad(小売価格5ドル)は、発売開始から1カ月間で約9万部がダウンロード(購入)された。その時点でiPadの累計販売台数が約300万台だから、その所有者の約3%がWired iPadを購入した計算になる。出版電子化の試みとしては、上々の出足だ。

 これに対し、日本の出版社は現時点で電子出版のリッチ・メディア化には慎重な姿勢だ。彼らがiPad向けにリリースした電子雑誌は、基本的には紙雑誌のPDFファイルを、iPad向けにオーサリングしたもの。もちろん若干のビデオやアザーカット(撮影したが、雑誌に掲載できなかった写真)が追加されている場合もあるが、それはページ数全体のごく一部を占めるに過ぎない。

 日本の出版業界関係者は、「動画やサウンドが追加されると、活字が読者の頭の中で喚起する想像の世界を邪魔するので、かえってよくない」と指摘する。しかし実際の読者の反応は必ずしもそうではない。たとえばWired iPadは日本版iTunes(App Store)からも450円で購入できる。これに対する日本人読者の評価を見ると、最低(★1個)が全体の約30%、最高(★5個)が同20%と、賛否両論が渦巻いている。

 また今後は同じ読者でも、状況や目的に応じて違った種類のコンテンツを求めるようになるだろう。出版業界では、「iPadのような電子デバイスが登場しても、紙の出版物は生き残る」という見方が大勢を占める。そうであるならば、従来型の活字コンテンツには紙媒体を使う一方で、電子デバイスのスペックを最大限に生かす、新種のコンテンツ開発にも注力すべきだろう。