食中酒になり得る飲みやすさがポイント

 サントリー酒類、スピリッツ事業部ウイスキー部課長の田中嗣浩氏は、「20~30代がウイスキーに感じていた『年配の方の飲み物』というイメージを変えたかった。ソーダで割ってハイボールにすることで飲みやすくなり、『自分たちにも合う飲み物』と認識してもらうことを狙った」と話す。実際に、販促を開始してから20代、30代の購入者は増えているという。サントリーの販促活動に加えて、ブームを牽引しているのは何なのか。分析してみた。

若者には新鮮?
 前述した通り、30代よりも若い層にとって、ハイボールは未知の飲料。あるいは名称は知っていても作り方を知らないことがほとんどだ。こうした層にとっては、ウイスキーを炭酸で割るという飲み方自体が斬新に感じられているようだ。田中氏は「Web上で広まっているのも、誰かに教えたくなる新鮮さがあるからでは」と分析する。

 また若い女性層にもハイボールは受け入れられている。例えば、サントリーは、グループ会社ミュープランニング アンド オペレーターズとの共同開発で、08年12月3日、洋酒バル&バーラウンジ「Splitz' Aoyama(スプリッツ アオヤマ)」を東京・南青山にオープンした。メインターゲットは働く女性だ。同店は、通常のハイボールよりアルコール度数を抑えたソーダ割りの「スプリッツ」(380円)や、各種ウイスキーなどを提供している。ここを訪れた26歳の女性会社員は、スプリッツを飲んだ印象を「カクテルと同じように飲めておいしかった」と話す。女性にも「今までなかった飲み物」として肯定的にとらえられている面もあるようだ。

『Splitz’Aoyama』
住所:港区南青山5-8-5 南青山8953ビルB1
電話:03-6419-1899
営業時間:18:00~翌2:00(平日)、17:00~23:00(日・祝)、17:00~翌2:00(土・祝前)(画像クリックで拡大)

通常のハイボールよりアルコール度数を抑えたソーダ割りをスプリッツと呼んでいる。「カク(角瓶)」をベースに高圧の炭酸水で割る。通常のハイボールより細やかな泡が特徴(画像クリックで拡大)

アルコール度数が低い
 市販のウイスキーそのもののアルコール度数は一般的に約40度前後。数年前にサントリーが若者向けに提案した「ハーフロック」は1対1でウイスキーを水で割る飲み方で、アルコール度数は約20度だった。ハイボールは1対3から1対4で割り、8~10度を想定している。「ハーフロックが強いと感じた人でも飲めるのでは」(田中氏)。炭酸で割ることでさっぱりとした口あたりになることも合わせ、食中酒として飲めるようになったと言えるだろう。果汁入りのチューハイなどと比べて甘くないので、揚げ物などとも合う。この結果、バーなどで、ウイスキーを飲むこと自体を楽しむだけでなく、居酒屋や立ち飲みでつまみを食べながら、仲間とワイワイやりながら飲めるものになった。

安い
 居酒屋や立ち飲み屋でのハイボールの価格はビールよりも安い(おそらく量は少ないが)。「築地銀だこハイボール酒場」では300円、対するビール(ザ・プレミアムモルツ生)は400円となっている。加えて、最近は不景気の影響で飲み会1回あたりの時間が短くなり、客単価も低くなる傾向にある。会社帰りに同僚と「軽く2000円くらいで」という飲み方が主流だ。こうなると、安いハイボールを選択する人が増える。

 家で飲む場合でも安い。「角瓶」(700ml/1485円)は1瓶で約23杯のハイボールを作ることができる。スーパーなどで割安に角瓶を購入すれば、炭酸水と氷の値段を合わせても、1杯100円程度。不況の影響で消費が減るなか、家でもより廉価なハイボールへ消費者が移行したことも考えられる。

巣ごもり消費
 「消費者の帰宅時間が早くなっていることも影響しているのでは」と田中氏。自宅で飲んでくつろげる時間が長くなっていることで、ビールより長い時間楽しめるアルコールへの需要が高まっているのではないかというのだ。この結果、自分で作るひと手間をかけて、自分好みの濃さに調節できるハイボールに人気が集まっているのかもしれない。さらに、グラスや元となるウイスキーを冷やしておくといったノウハスや、果汁を加えるなど、「自分流」の作り方や飲み方を楽しめるのも魅力。また、若者の間で「宅飲み(飲食店ではなく仲間の自宅で飲食物を持ち寄って楽しむこと)」が広がっていることもあり、このときに自分で作れるハイボールを選択するケースも増えているようだ。

低カロリー
 現代は健康指向であり、メタボに気を使う人が増えている。このため、発泡酒や缶チューハイでも、カロリーを押さえたものがヒットしている。ハイボールに使うウイスキーは蒸留酒のため、もともとカロリーが少ない。カロリーを考えて、ビールではなくハイボールを選ぶ消費者像も想定できる。

☆   ☆   ☆

 サントリーはこれまでも、「ウイスキーと食のマリアージュ」、「シングルモルトとショコラのマリアージュ」、「山崎蒸溜所ツアー」など、ウイスキーのファンを増やす試みを継続的に行ってきた。ハイボールを打ち出したのもその一環だ。市場は動きつつあるものの、「まだまだサワーの20分の1の市場」(田中氏)だ。

 80年代、若者を中心としたチューハイブームをきっかけに、チューハイは居酒屋や自宅で市民権を得た。若者への訴求をきっかけにハイボールも市民権を得ることができるのか。年配の方がバーや自宅などでじっくりと一人で飲むイメージの強かったウイスキーが、テレビCMのように大勢で飲み交わされるアルコールとなるのか。サントリーの挑戦はこれからが正念場だ。

(文/小川 たまか=プレスラボ)